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【読書記録】川上未映子『シャンデリア』何者にも成りきれない但し金はある

 川上未映子『シャンデリア』読了しました。サクッと読める短編小説です。
 私は奇怪な行動を起こす主人公の物語が大好物です。『むらさきのスカートの女』とか『コンビニ人間』とか……川上未映子さんは『乳と卵』で芥川賞を受賞されているらしい。そっちも読んでみたいな。

あらすじ Amazonより引用

「わたし」は毎日のようにデパートに出かけ、気まぐれに買い物をして、ほぼ一日を過ごす暮らしを送っている。朝十時きっかり、開店と同時に、あふれんばかりの従業員の笑みに迎えられる。いつもデパートはつるつるして光っている。高い吹き抜けの天井にはシャンデリアが燦然と輝いている。一階のコスメ売り場から四階のハイジュエリー売り場へ。レストランフロアでお腹を満たすと、また降りて、高級ブランドショップをはしごする。店員たちは皆、顔なじみだ。語り手の買い物には計画もなければ、予算もない。

結婚もせず、ワンルームに一人暮らしの「わたし」に、思いもよらない大金が口座に振り込まれ、デパート通いが始まった。

その日「わたし」はあるブティックで、見るからに裕福そうな老婆に出会う……。

満たされない気持ちをお金で埋める

 主人公は貧しい家庭の育ち、唯一の肉親である母は 少し前に借金が原因で死亡しています。お金に運のない主人公に今さら印税という大金が舞い込んできたことにより、主人公のデパート通いがスタートします。
 主人公は華やかにブランド品を買い漁る一方、「いつか重みに耐えきれなくなって降って来たシャンデリアの下敷きになる自分」を想像するようになります。

 シャンデリアはデパートや歌劇場など、豪華絢爛な場所に吊るされがちな照明器具です。シャンデリア落下と聞くと、ハイドンのオーケストラやオペラ座の怪人を思い浮かべる人もいるかも。
 まぁ、シャンデリアは平たく言えば富の象徴です。富が(膨らみ過ぎて)自重で落下して、自分はその下敷きになりたい。うーん、小金持ちな悪役の幕切れみたいなことを望むなぁ。

何者にも成り切れない苛立ち

 本当に大事な物はお金で買えない…というやつ。権力者とか富豪なんかの悪役が吐き捨てられるセリフですね。ありがちな言い回し。ただ、この主人公はそうじゃない。大金を使って人に迷惑をかけてやろうとか、得してやろうとか思ってない。大金を得てはいるけど、根は搾取される貧乏人のままなのです。だから、お育ちの良い老婆と仲良くしていると無性に腹が立つ。
 貧乏人でも富裕層でもなく、搾取される弱者でも権威を振りかざす悪役にもなりきれない。そんな宙ぶらりんの状態(シャンデリアも宙ぶらりん)にいるということにキャパオーバーした。だから主人公は、別れ際に老婆を罵ってしまったのだと私は思います。
 ……まぁだからといって、純文学に道徳性を求めるのは野暮というものですが、言い方ってもんがあるだろとは思う。どうしてこのワードチョイスになったのか、もっと続き読ませて欲しい。短編で終えるにはもったいない作品です。

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