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【読書記録】ホーソーン『緋文字』自分を許す勇気

ホーソーン『緋文字』読了しました。ひもんじ と読みます。すっっっごい読み応えがあって、次の本に手が伸びない程の満足感です。
私、恥ずかしながら古典文学を読みなれていなくて、今回はいつもにも増して乱文です。奇特な方がいらっしゃったら、お付き合いください。

解説 日本大百科全書(ニッポニカ)より引用

アメリカの作家N・ホーソンの代表的長編小説。1850年刊。
姦通を犯したヘスター・プリン、その夫で嫉妬に狂うチリングワース医師、姦通の相手で罪に悩みついに世間に告白するディムズデイル牧師、さらに不義の子パールを加えた4人の、7年間にわたる心理の葛藤を主題とする。

ヘスターの胸に緋の糸で刺しゅうされたAのイニシアルは、物語の冒頭では姦通Adulteryを意味したが、しだいに有能Able、天使Angelなどの意味をもつようになる。こうした象徴的手法を駆使しながら、人間の心奥に潜む悪を追究する一方、ベリンガム知事ら実在の人物を端役に配し、1640年代のボストン・ピューリタン社会を的確に描出する歴史小説としても評価される。ピューリタン社会の厳しい道徳、ヘスターの求める愛と思想の自由、この二面の対比は、作者の内面の矛盾の反映にほかならない。[島田太郎]

『大橋健三郎・小津次郎訳『緋文字/美の芸術家他』(『世界文学全集17』所収・1970・集英社)』▽『R・チェース著、待鳥又喜訳『アメリカ小説とその伝統』(1960・北星堂書店)』▽『佐藤清訳『緋文字』(岩波文庫)』[参照項目] | ホーソン

補足説明

「いやいや、結局のところ不倫した女性が悪いデショ」という感想で終わらないために、へスターの言い分も書いておきます。
 夫・チリングワース医師は、へスターのかなり年上。おそらく、家柄に合わせた見合い婚でしょう。夫はなかなか新大陸に来ないし、子供もいない。待ち続ける必要、ある…か?現代日本人の私の考えからすると「ユー、そんな男忘れて、再婚しちゃいなヨ」と言いたくなってしまう。
 しかし、厳しいピューリタン社会においてはご法度。離婚は神の命に背く行為なので、社会的に受け入れられません。しかもへスターは、まさかの牧師との間に子を成してしまいます。牧師は清廉潔白でなければいけませんし、到底許されるものではありません。

夫は劣化し、間男は摩耗し、女は強靭になった

 『緋文字』の見所は、大人3人の心情変化です。清教徒の倫理観に則った舞台ですが、3者の心の動きは現代に通ずるところがあります。

 まず、男性2人の変化について確認します。
・チリングワース
 嫉妬に狂い、他の村人にバレないように へスターとディムズデイルのそれぞれにネチネチ嫌みを投げつけます。チリングワースは被害者なのに双方からボロクソに反論され、不憫にも性格が徐々に歪んでいきます。
・ディムズデイル
 正直に罪を告白する機会を逃し、ずっとウジウジしています。迫害されるへスターとパールを見ているしかない(何なら糾弾しなくてはいけない)状態を維持し続け、精神 肉体共に擦り減っていきます。

 このように男性2人は、不倫の事実を隠しながら他者や自分を罰する方向に落ち込んでいきます。それに対してへスターは、緋文字とパールという不倫の象徴を世間に晒しながら生活しています。

 へスターは緋文字の罰を受け、真っ向から苦しみます。緋文字とパールの存在が常にへスターに付きまとい、村八分状態で生活を送ります。
 最近の社会は特に色濃くなってきましたが、「失敗は一度きりであれ許さない」という風潮があります。芸能人の賭博行為や不貞行為が発覚した時なんか顕著で、もう二度とテレビ番組に出れなくなって、少しずつ世間から忘れられていくことなんて、ザラにあることです。
 しかしへスターは、ゆっくり時間をかけて村人から”多少の”信頼を取り戻すという偉業を成し遂げたのです。手仕事をして生計を立て、おてんば娘に愛情を注ぐ。(パールに緋文字のコスプレさせるのはどうかと思うけど)立派に母親業を行い、見事に更生して見せたのです。

 へスターはたっぷり苦しんだ後に、「起こったことは仕方ない」というある種の諦めの境地に至ったように見えます。今さら後悔したって、パールを養育する義務から逃れられるわけでも、緋文字が取れるわけでもない。あくまで罪を償うための罰であるから、罪を犯した過去の自分を受け入れて前に進むべき。そういった考え方が、へスターを強靭にさせました。

自分を許す勇気

 へスターはディムズデイルに「人間らしく生きよう、新天地に行こう」と声をかけましたが、ディムズデイルは衰弱死します。夜な夜な自傷行為を続けたことと、そもそも神経が細かったことが主な原因ですが、結局のところディムズデイルは過去に罪を犯した自分を受け入れて生きていく気概が無かったように見えます。いや、清教徒としては正しい罰の受け方なのかもしれない……。

 後日談でチリングワースは、パールに全遺産を譲ったとのこと。詳しい経緯は「ご想像にお任せします」スタイルですが、チリングワースに相当な変化があったのは間違いありません。私はチリングワースが、パールの存在を諦め、受け入れる勇気を持てたのだと感じました。それとあとはパールの人徳。私がパールの立場だったら、絶対チリングワースとは距離を取る。こんなんお互い気まずいだろうよ。パールも、婚外子である事実を受け入れる勇気のある気丈な女性に育った、ということでしょうか。

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