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【読書記録】今村夏子『むらさきのスカートの女』
半年前に読了した、今村夏子『むらさきのスカートの女』の読書記録です。芥川賞受賞作品を全部読みたいという野望があって、その計画の一環で手に取った作品です。
今ではもうすっかり今村ワールドにぞっこん。『星の子』と『あひる』も、日常に潜むじんわりとした違和感が堪能できるので好きです。今村夏子さんのデビュー作『こちら、あみ子です』は、楽しみ過ぎて積読にしています。映画を観るまでに読む、絶対。
あらすじ
主人公の近所には、いつも紫色のスカートを身に着けている「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性が住んでいます。
主人公は自らを「黄色いカーディガンの女」と自称し、その女性と友達になりたいと考え始めます。
むらさきのスカートの女を同じ職場に誘導することを成功し、順調に距離を詰めるのかと思いきや……。
信頼できない語り手
さて、『むらさきのスカートの女』の見どころは、語り手の不気味さです。語り手がむらさきのスカートの女のことを知り過ぎているので、語り手が何者なのか終盤までハッキリしません。
三人称視点で話しているようで、なんか一人称っぽい。だとしても、物語の中の誰目線で語っているのかはっきりしない。そんな文体で物語が進行します。
勘の鋭い人なら、語り手の正体に途中で気が付くのでしょうが、私は最後まで困惑させられっぱなしでした。いやぁ~、今村ワールドを堪能した。
黄色いカーディガンの女の奇行
黄色いカーディガンの女は、最初から最後までずっと奇妙です。むらさきの女の住居はもちろん、定職に就いていないことも、生活のルーティーンも知っています。一度も話したことがないのに。通勤バスで乗り合わせた時はどさくさに紛れて、なぜかむらさきのスカートの女の鼻をつまみます。ほんとになんで??
結局、黄色いカーディガンの女の目的はハッキリしない(度重なる奇行で有耶無耶になってる)のが、また不気味ポイント。
私はたぶん黄色いカーディガンの女は、むらさきのスカートの女のミステリアスな愛されポジションに憧れたのだと、そう解釈しています。ずいぶん手際よく、むらさきのスカートの女を町外に追い出しましたから。
むらさきのスカートの女が去ってから、むらさきのスカートの女がいた痕跡を守ろうとしていますが、実質成り代わりです。ただし、黄色いカーディガンの女では、むらさきのスカートの女の代替品にはなれない。(代替品うんぬんは『あひる』のメインテーマでもある)
まとめ
『むらさきのスカートの女』はあとがきも読み応えがあります。小説の書き出しが決まらなくて喫茶店で悶えていたとか、芥川賞の選考結果を待ってる間のそわそわしてた話とか…。今村夏子先生も人間なんだなって感じるエピソードが書いてあります。むらさきのスカートの女が知り合いにいるわけでは無さそう。