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虚飾を破る

先日の記事に書きましたが、ことしの名桜文学賞の作品募集が締め切られました。沖縄の名桜大学が主催する学生、一般を対象とした文学賞で詩部門もあります。
こちら(↓)の記事の、だいぶ下のほうです。

本年度の作品募集が締め切られたタイミングではありますが、昨年度の入選作品について書きたいと思います。
最優秀賞は琴森戀(こともり・れん)さんの「而今(にこん)」という詩でした。結果はこちら。

最優秀賞の「而今」という作品も素敵な詩なのですが、ここでは奨励賞に選ばれた上原陽子さんの詩「南の島で悲劇のヒロインぶってみた」の一部を以下に引用します。

沖縄県魅力度調査にて県民の九割が誇りをもっている島に住んでいます

クラスメイトの女子から
女が四年制大学に行ってどうするのと
何の底意もなく真顔で訊かれた
そんな私が住む島です

あんた一人のために放課後図書館を開けられない電気代がもったいないと言い切る男性が高校の学校長をする島です
これは昭和の話です
役所の臨時職員の面接に落ちた私に
どうせ採用するなら別の若い女性にしようと決めたんだってとわざわざ耳に入れる
そんな女性が役人をする島です

上原陽子「南の島で悲劇のヒロインぶってみた」(一部抜粋)
―『第3回名桜文学賞受賞作品集』(名桜大学)2023年3月

詩の冒頭です。
具体的描写の衝迫力を感じます。
生活のエピソードの一つ一つによって浮き彫りにされていくのは、この島の暮らしを包む狭苦しさ、息苦しさです。
もちろんジェンダー規範(性別役割分業)の問題とも表裏一体です。

いろんなことが喉につっかえて
えずきながら生きのびて
令和の世に形だけの嫁と姑からなじられたり
世の慶事法事その他もろもろ
私とは何の関係もない事が
ただただかなしく
誰も取りこぼさないなんて
いつか叶うつもりかしらと疑いながら
もっと生きたいと願う人に
私の命を分けても構わないと
悲劇のヒロインぶってみたかと思えば
サプリを毎日飲んで
健康診断を毎年きちんと受けている
お前どうしたいんだよと自嘲する
沖縄県魅力度調査にて県民の九割が
誇りをもっている
そんな島に住んでいる私です

上原陽子「南の島で悲劇のヒロインぶってみた」(一部抜粋)

終結部です。
ここで視線を自己批判に翻しているのは書き手が自己を対象化し、作品を自律させる手だてとして生きています。等身大の視点があらわになることで、読み手がより作品を身近に感じることができるようになります。

室生犀星は「ふるさとは遠きにありて思ふもの」とうたいましたが、ふるさとや故郷、田舎というものは郷愁の対象でもある一方、飛び出していかない限り一生とらわれる牢獄のような側面もあります。沖縄に限らず、どこの田舎でもこういった狭苦しさ、息苦しさはあるのだと思います。

この島には青い海、青い空、あたたかい人々という市場でつくられた美しい虚飾に包まれているので、裏側にこういった田舎くささがあることが明示されると、ちょっと衝撃を感じる人もいるのではないでしょうか。

市場原理で肥りきってしまった虚飾を打ち破るためにも、沖縄のこういった面ももっと発信されていくといいと思います。

ほかの奨励賞受賞作、森山高史さんの「新北風(みーにし)」、藍原知音さんの「水槽」も、ともに素敵な作品です。

受賞作品集は、名桜大学のホームページで公開されています。
選考委員の選評もありますし、詩部門以外でも多くの方にお読みいただきたい素敵な作品が掲載されています。

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