作家としての中期的目標・展望(2020年11月)
【ここになにが書いてあるのか?】
短編集『最後にして最初のアイドル』が刊行されてから、あと少しで三年が経つ。次の3〜5年(2024〜2026年)を見据えて、どのような目標を設定するのか、考えようと思う。
文章に残して、公開することにより、より目標にエンゲージするという効果を期待している。また、読者や編集者にとっても、作家がなにを考えているのか知ることは、有益だろう。
なお、ここでの目標は、かなりゆるいものであり、その都度の気分によって大きく変動する可能性があるし、変動しないかもしれない。
また、中期的にどんなテーマで書きたいのか考えるために、興味のある分野もつらつらと書き並べてみた。
【どのような作家になりたいか?】
わたしの強みや弱み、興味関心を鑑みて、今後中期的にどのような作家として売り出していくのか考えてみよう。
以下のような、フレーズが思い浮かぶ。
「多作作家」:わたしの執筆スピードは、まぁまぁ早い方だ。最高で、年間3冊は出した。より経験を積むことにより、年間4冊くらいは書けるようになるだろう。わたしはまだ駆け出しなので、たくさん作品を完成させることは重要だ。たくさん書くことによって、コツがわかってくるだろう。だが、同じような作品を書いていたら、変化はない。作品の書き方自体も多くしていきたい。たくさん書くためには、執筆に対するハードルを下げることが重要だ。質と量では、現時点では量を優先する。気軽に書く。
「多想作家」:わたしの強みの一つは、アイディアの多さだ。『大絶滅恐竜タイムウォーズ』は、アイディアの多さで勝負をした小説だ。この方向を追求する小説は、現代日本SFでは、やや少ないと思われるので、ブルーオーシャンにもなる。
「奇想作家」:ひとつひとつのアイディアも、かなり突拍子もないものを考えていこう。そのためには、他の作家がまだそれほど興味を持っていない分野を見つけることが必要だ。マイナーな分野とマイナーな分野を掛け合わせると、さらにマイナーとなる(互いに関係のない分野を無理やり掛け合わせると、誰も知らない分野となる!)。
「多分野作家」:浅くでもいいので、広い範囲の学問分野の知識を得よう。ある一つの分野に詳しい人がいたとしても、その専門分野から遠く離れた分野をくっ付けることで、ツッコミはしづらくなるだろう。また、作品ごとの学問テーマもなるべく多くしていこう。
「変化球作家」:SFにおいて、ストレートすぎる作品テーマ(例えば、AI技術)を扱うのはまずい。旬のテーマは、専門的知識を持った作家には太刀打ちできない。テーマに正面からぶつかるのではなく、そのテーマの抽象的な構造を抜き取って、全く別の具体的舞台設定を与えるという風にして、土俵を変えよう。
「多ジャンル作家」:ひとつのジャンルを専門にするよりも、違ったジャンルを書いた方が、アイディアは多く出るだろう。ある題材でも、SFとして扱ったり、ホラーとして扱ったり、ファンタジーとして扱ったりできるかもしれない。ジャンルが変わると、その都度印象も変わるため、多様な作品が仕上がるだろう。
「独自問題追求作家」:これまで誰も追求してこなかった問題を追求する小説を書こう。その表現をするために、これまでとは違った小説の構造を作り上げることや、これまでと違った小説の虚構世界表示をするなどのことをしたい。
【興味のある分野】
興味のある分野はたくさんあるのだが、思いついたのを適当に書いていこう。もちろんこれが全部ではない。
・地球科学系統:地球科学、惑星科学、古生物学、地質学、気象学
ヴェルヌの作品では、地球科学SFが多いが、最近めっきり少なくなってしまった。これはブルーオーシャンだ。自然の風景を描くことにも興味があるので、勉強のしがいがある。異世界設定にも使えそうだ。別の惑星の描写とかもしたい。
・天文学/宇宙論/物理学系統:量子論の新しい解釈、対称性解釈、QBism、ダークマター、ストレンジ物質、生命の発生確率、多元宇宙論、太陽系の生物、宇宙船が飛ぶ描写、無重力の描写、熱力学
〈ジーリー〉シリーズや〈啓示空間〉シリーズのようなサイエンティフィックなニュースペースオペラを書きたいという野心はあるが、鬼門は宇宙船飛行の描写だ。特に円周軌道上はかなり常識外れな動きをするので難しい。
・生物学系統:エヴォデボ、進化論、生命の起源、深海生物、エディアカラ紀の生物、カンブリア紀の生物、恐竜、化石人類、情報論的生物学、熱力学的生物学、量子生物学、絶滅
昔から興味のある分野のひとつ。古生物学SFが少ないと感じたの『大進化どうぶつデスゲーム』と『大絶滅恐竜タイムウォーズ』を書いた。最近、生物学は、他の自然科学との融合が激しく、とても面白そうだ。ヘンテコ生物が書けそう。
・科学史系統:地球科学の科学史、カントの宇宙論、電磁気学の科学史、熱力学の科学史、情報科学の科学史、錬金術、四元素説、アリストテレスの世界観、ソクラテス以前の自然哲学者たち
最新鋭科学のハードSFを書くのはむずいが、ある程度昔の科学のハードSFを書くことはできるのではないか?というアサハカな考えを抱いている。近代を舞台にしたものはスチームパンクでよくあるが、蒸気機関のSF的設定はあまりないという印象だ。さらに、時代を下って、近世あたりになると、かなりブルーオーシャンなのではないか?四元素説などの中世・古代科学にも興味がある。
・意識/精神/認知系統:サイケデリック、明晰夢、LSD、マジックマッシュルーム、世界のモデル、発達障害、自閉症、精神病、統合失調症、解離性障害、世界のモデル、統合情報理論、自由エネルギー原理、脳神経科学、意識の進化、化石人類の意識、汎心論、異星人の意識、人工知能の意識、意識の別種形態、時間の認知
昔から興味のある分野のひとつ。フィリップ・K・ディックの諸作品や、「serial experiments lain」の影響で大好きなテーマ。わたしのこれまでの作品には大なり小なりなにかしらこの要素が入っている。
・哲学倫理学系統:素朴心理学、「性格」の存在論、心の消去主義、心の虚構主義、虚構の哲学、虚構的存在者、キャラクターの存在論、死者の存在論、無、なぜ世界は存在するのか?、人生の意味、実存、反出生主義、宇宙倫理学、メタ倫理学、推論主義、理由の哲学、反応的態度、独我論、ウィトゲンシュタイン、永井均、時間は存在するか?、グノーシス主義
昔は、永井均、ウィトゲンシュタインから始まって独我論関係に興味を持っていたが、徐々に心の哲学を調べ始めた。『これは学園ラブコメです。』では虚構的存在者の存在論。『大絶滅恐竜タイムウォーズ』では、素朴心理学と「性格」の存在論や、理由の哲学らへんを参考にした。ここらへん、まだ誰もやっていないので、かなりブルーオーシャン。
・文学/美学/創作論系統:キャラクター創作と哲学(現象学、信念・欲求・意図の分析哲学など)を結びつける。小説の情報理論、小説の熱力学。虚構世界でなにが起こっているのか? 虚構世界の認識論。文学理論と自然科学。多様な作品を作るにはどうしたらいいのか?(プラグマティックな問題)。キャラクターの性格設定はどうやれば良いのか。小説においての評価基準とは何か。なにがエモいのか。なにがリアルなのか。「感動する」とは何か。小説理論があったとして、その理論を利用したら本当にすごい小説が出来上がるのか? それとも小説とはそんなものではないのか? 創作術は複数なのか、それとも究極創作術があるのか? 過去にはどのような小説の評価基準があって、それは歴史的変遷を遂げてきているのか?過去の作品を読んで評価する行為はその時代に行われてきたことと基本的に同じなのか?三幕構成は使うべきなのか?ボツになる基準とならない基準とは何か?
「また春が来る」で情報熱力学文学理論を書いてみた。
・その他:交響曲、絵画、ランニング、太極拳
交響曲や絵画をヒントに短編小説を書いてみようと考えている。著作権フリーの古い絵画ならば、挿絵として使うこともできるのだ。太極拳を始めてみようかなと思ってる。健康にもいいし。
【これからの課題】
課題というか、ここはもうちょっと良く書きたいなぁと思ってるのは、一人称とバトル描写だ。『大絶滅』でアノマロタンクと戦うシーンで、これはヘナチョコだぁーとは自分でも思っていた。これまで書いてきたのは、基本的に三人称か二人称なので、一人称のものも増やしていきたい。あと、これまでの作品は最後に全部説明するというのがオチになっていたので、そのオチメソッドとは違うものを考える。最後までよくわかんない作品を書くとか。あと書けるときと書けない時の差があるのでコンスタントに書いていきたい。
【結論】
これから中期的にたくさん小説を書いていく。様々な創作法やテーマやジャンルを使って多様なものを書く。なるべく変化球を使ってブルーオーシャンを狙う。その中で、根本的に新しいアイディアを作っていく。
中期の終わりあたりから、超大作とか書きたいな〜。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?