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「どいてください、邪魔です!」ニュータイプ・ララァの初陣と赤い彗星の終焉~機動戦士ガンダム 第40話「エルメスのララア」感想

ソロモン入港

ナレーター「ガンダムはシャリア・ブルのブラウ・ブロを撃退はした。しかし、ガンダムの機能はすでにアムロの意思に反応しきれなくなっていた。アムロの反射神経と戦闘力が拡大して、今までのガンダムの機能では不十分であることがわかったのだ。ただちにガンダムの動力系の整備が始められたが、それで解決のつく問題とはいえなかった」

ミライ「連絡取れて?」
ブライト「うん。ソロモンの技術本部へ来てくれということだ」
ミライ「連邦軍に手立てでもあるっていうの?」
ブライト「連邦軍がそれほど気が利いているとは思えんな。・・・」

第35話「ソロモン攻略戦」から戦いっぱなしのホワイトベース。今回ようやくソロモンに入港である。

しかし状況はあまり芳しくない。原因はガンダムだ。冒頭ナレーションでも説明されていたように、「アムロの反射神経と戦闘力が拡大して、今までのガンダムの機能では不十分」ということらしい。

ガンダムの性能に助けられシャアやランバ・ラルなど、歴戦の猛者と渡り合ってきたアムロだが、ここにきて急成長。逆にガンダムの方がアムロについていけなくなってしまうという事態に至る。

連邦本部からはソロモンに入港し技術本部に来るようにとの指示が出ているが、ブライトは「連邦軍がそれほど気が利いているとは思えんな。」と冷ややかな態度だ。果たして・・・。

モスク・ハン博士

モスク「ホワイトベースのメカマンはガンダムから離れろ。以後の作業は我々に任せてもらう。マグネットコーティング、急げ!」
アムロ「どういうことです?」
モスク「なんだ?貴様は」
アムロ「ガンダムのパイロットのアムロ・レイです」
モスク「貴様の報告を読んだから俺が来たんだ。ま、失敗したからって恨むなよ、なにしろ碌なテストもしないで使うんだからな」
アムロ「何をしようというんです?」
モスク「俺の理論を応用してガンダムの動きを早くしようっていうんだ」
アムロ「そんな事ができるんですか?」
ブライト「保証の限りではないとさ」
アムロ「ブライトさん!」
ブライト「モスク・ハン博士だ。電磁工学の新鋭だ。マグネットコーティングとかいってな、ガンダムの駆動系を電磁気で包んで動きを早くするのだとさ。ま、油を差すみたいなもんだな」

ホワイトベースがソロモンに入港した。外観にはいたるところに傷があり幾多の戦闘を潜り抜けてきたことを物語っている。ただし、作画の問題でただの汚れのようにも見えてしまうが、このあたりはこちらか迎えに行ってあげる必要がある部分だろう。

入港したホワイトベースに接近する人物がいる。新キャラのモスク・ハン博士である。電磁工学の新鋭とブライトは説明している。マグネットコーティングという技術を用いてガンダムの駆動系の動きをよくするらしい。原理の説明はないのでそういうものと理解するほかないだろう。

モスク博士の指揮のもと早速ガンダムの改良作業が行わる。関節部やら顔やらの装甲が開放され内部構造があらわになっている。こんな風になるのか、ガンダムって。

ソーラ・システム

キシリア「シャリア・ブルが敗れたと?」
ジオン将官A「は、彼の不慣れなせいでありましょう。シャア大佐からの報告ではガンダムの性能がニュータイプに適応した能力を」
キシリア「シャアめ、推測ばかりを」
ジオン将官A「は?」
キシリア「いや。で、ギレン総帥の方の作戦は?」
ジオン将官A「は、我がグラナダ艦隊とア・バオア・クーを第一線として、これに本国のソーラ・システムを」
キシリア「ソーラ・システムをか。ギレンのごり押しだな」

キシリアにシャリア・ブル敗れるの報が舞い込む。敗因は「シャリア・ブルが不慣れだった」と報告されているが、シャアはガンダムのパイロットがニュータイプだったからと見ているようだ。キシリアは「シャアめ、推測ばかりを」と言葉をさえぎって言い捨てる。

しかし、ここはシャアの見立てが正解である。キシリアは連邦軍がニュータイプを実戦に投入しているはずがないと考えているのではないか。この認識のズレはあとあと響いてきそうな気がする。

ソーラ・システムといえば、第35話「ソロモン攻略戦」で登場した連邦軍の兵器だ。大量の鏡で光を集め、ソロモンを焼き突破口を開いたあの兵器だ。今度はそれをジオン側が使おうというのだろうか。

強制疎開

ナレーター「月の裏側基地グラナダと、この宇宙要塞ア・バオア・クーを結ぶ線をジオンでは最終防衛線と呼ぶ。ここはジオン公国の第3号密閉型コロニー・マハルである」

ジオン兵A「よし、123号艇、これまで!ご苦労!行ってくれ!」
ジオン兵B「こいつ!貴様、それでもジオンの国民かい」
男A「ま、孫娘と離れてしまったんだ、それを捜しに」
ジオン兵B「孫娘だって必ずどっかの船に乗ってるって!」
男A「し、しかし、行き先はわからんじゃろ?」
ジオン兵B「ジオン国内だ、すぐに見つかる!」
ジオン兵A「次の船急げ!」
ジオン兵B「おう、立て。お前達が乗る番だ!」

ナレーター「マハルの居住者150万人の強制疎開が始まったのは4日前からであった。本土決戦の為の計画であることは誰の目にも明白であった。他のコロニーで使われている太陽電池が次々とマハル周辺に運び込まれる。人々は不安げにその作業を見守るだけであった」

ジオンがコロニー居住者150万人を強制疎開させている。自国民に銃を突きつける兵士と、孫娘と離れ離れになってしまった老人。ジオン兵は「ジオン国内だ、すぐに見つかる!」というがそんな保証がどこにあるというのか。今生の別れになるかもしれない。

第3話「敵の補給艦を叩け!」の感想記事で、この戦争は「地球連邦政府の『圧制と差別』からの解放を目指したコロニー住人による『自由と尊厳』の獲得闘争」と書いた。

増えすぎた地球の人口を抑制するためコロニーを作り、強制的に住民を移住させた。そこには地球に住む者と宇宙空間で暮らさざるを得ない者という差別構造が横たわっている。

その連邦政府の圧政からの解放を目指したジオンだが、自らが連邦政府と全く同じことをしている。戦争中とはいえ皮肉というほかないだろう。

今回の戦争は、ジオン国内にもさまざまな禍根を生んでしまっている。それがまた新たな対立の火種となり、のちのちの統治にボディブローのように影響してくるはずだ。戦争とはそういうものである。

ヒットラーの尻尾

デギン「しかしなギレン、100万の一般国民を疎開させるということはこれは軍人の無能を示すことだ」
ギレン「わたくしに面と向かってよくおっしゃる」
デギン「ギレン、わしとて公王制をひいた男だぞ。貴公の軍政のみを支持する・・・」
ギレン「御覧を」
デギン「作戦などいい」
ギレン「我がジオン本国にとって月とア・バオア・クーは最終防衛線です。それに対して地球連邦軍は3つのコースから侵攻することが考えられます。ここを突破されればジオンは裸同然です。その前にソーラ・システムで侵攻する連邦軍艦隊を討つ。このシステムはコロニーを使える為に金も時間もかからずに我がジオンの・・・」
デギン「そこまでして勝ってどうするのだ?ギレン」
ギレン「サインをいただければ幸いです」
デギン「やっておって今更」
ギレン「デギン公王あってのジオン公国ですから」
デギン「で、どうするつもりか?」
ギレン「せっかく減った人口です、これ以上増やさずに優良な人種だけを残す、それ以外に人類の永遠の平和は望めません。そして、その為にはザビ家独裁による人類のコントロールしかありません」
デギン「貴公、知っておるか?アドルフ・ヒトラーを」
ギレン「ヒットラー?中世期の人物ですな」
デギン「ああ。独裁者でな、世界を読みきれなかった男だ。貴公はそのヒットラーの尻尾だな」
ギレン「わたくしが?」
デギン「わしはジオンの国民を急ぎまとめる方便として公王制を敷いた。ジオンの理想を実現する為に。しかし」
ギレン「ヒットラーの尻尾のわたくしが独裁制に持ち込んだ」
デギン「キシリアとな」
ギレン「はい。絶対民主制は連邦ごとき軟弱を生むだけです。それでは人類は共食いになります、今度の戦争のように。ま、勝ってみせます。ヒットラーの尻尾の戦いぶり、御覧ください。わたくしはア・バオア・クーで指揮をとります」
デギン「・・・ヒトラーは敗北したのだぞ」

「ア・バオア・クー」の名が登場するのは今回が2回目である。1回目は第37話「テキサスの攻防」の冒頭ナレーションで登場していた。

ナレーター「ソロモンの攻略戦が終わった。ドズル中将旗下の宇宙攻撃軍は事実上壊滅した。ジオン公国にとっては予想だにしなかった敗北であった。デギン・ザビ公王は、ドズルにしてもっともなことであるよ、とギレンに答えたという。ギレンはその公王に怒りを覚えつつも、綺羅星のごとく居並ぶ高官達の前で叫んだ。ア・バオア・クーを最終防衛線として連邦を撃つ、と」

第37話「テキサスの攻防」

ア・バオア・クーの元ネタはWikipedia情報によればインドの伝説上の幻獣「ア・バオ・ア・クゥー(A Bao A Qu)」のようだ。

デギンはギレンに諭すように話しかけるがギレンはそれをさえぎって作戦の説明を始める。両者の対立は誰の目にも明らかだ。ギレンは「サインをいただければ幸いです」、「デギン公王あってのジオン公国ですから」と公王である父親を尊重し敬意を払っているかのような言葉を発しているが、内心は真逆である。

デギンの話を途中で遮ったり、質問に答えなかったりと、「お前はサインだけしてくれればいいんだ」とでも言いたげな態度だ。そうしたデギンへの不遜な姿勢を隠そうともしていない。両者の対立は決定的だ。

思い起こせばこの2人の間には常にピリピリとした空気が漂っていた。

最初はガルマの葬送の方法をめぐって対立していた。そこには増強するギレンとレームダックと化しつつあるデギンの姿も描かれていた。

また、ソロモンが落ちた際にもデギンとギレンは対立していた。

ナレーション「デギン・ザビ公王は、ドズルにしてもっともなことであるよ、とギレンに答えたという。ギレンはその公王に怒りを覚えつつも、綺羅星のごとく居並ぶ高官達の前で叫んだ。ア・バオア・クーを最終防衛線として連邦を撃つ、と」

第37話「テキサスの攻防」

こうした物語前半から存在していた小さな意見の違いがここに至って誰の目にも明らかな対立として描かれている。ザビ家内のパワーバランスの変化や小さな意見の違いを丁寧に描いていたことが物語に厚みを与えている。ストーリーの作り方が非常にうまい。

ギレンはソーラ・システムで連邦軍を迎え撃つという。先述のようにソーラ・システムは従前連邦軍が使用した兵器である。映像やナレーションではコロニーに大量の太陽電池を集めているという。連邦の兵器とはまた違ったものなのかもしれない。もっとも、コロニーを用いるために居住者を強制疎開させる必要がある点は皮肉というほかない。

デギンは「そこまでして勝ってどうするのだ?」と問いかける。なんとも意味深な問いかけだ。「そこまでして」というセリフからはソーラ・システムがそれなりに大掛かりで、えげつない兵器なのではないかという印象も受ける。このあたりは今後明らかにされるであろう。

デギンはもはや戦争に勝利することはあきらめているのかもしれない。

強制移住のことも「軍人の無能」と評している。これ以上ジオン国民に負担をかけたり、人を死なせたりすることには反対の様子だ。早期の講和を望んでいるのではないかとも思わせる口ぶりである。

しかし、ギレンは違う。戦争に勝利することを目指している。そのためには手段すら選ばないという決意であろう。人も多く死ぬはずだ。

ギレンのいう「優良な人種」とはニュータイプのことだろうか。それともジオン公国国民すべてを指すのだろうか。いずれにせよギレンはザビ家による強烈な差別主義的統治を敷くようだ。

こうした人種差別的な思想は、かつて世界を席巻していた帝国主義、植民地主義の思想的支柱となっていたことはいうまでもない。それが2度の世界大戦へとつながっていき、未曽有の被害を世界にもたらした。

この場でアドルフ・ヒトラーの名が出てくるところが趣深い。当時アニメを見ていたちびっ子たちはヒトラーの名を知っていただろうか。知らなくても学校で歴史を勉強しヒトラーを知ればこのシーンの暗示する結末を理解したことであろう。

ララァ出撃!

ジオン兵C「キャッチした。敵戦艦はマゼランタイプ1、サラミスタイプ3、最小戦闘単位です」
ジオン士官A「モビルスーツ発進!シャア大佐、エルメスも出しますか?」
シャア「無論だ。ララァを特別扱いするなよ」
シャア「ララァ、恐くはないか?」
ララァ「は、はい」
シャア「初めての実戦だ、リック・ドム2機のうしろについて援護をすればいい」
ララァ「はい」
シャア「私もすぐに追いかける」
ララァ「やってみます、大佐」

ザンジバルが月から出撃する。しばらくして連邦艦隊と接触、戦闘に入る。第34話「宿命の出会い」で初登場して以来、焦らしに焦らしていたララァがようやく出撃である。

シャアは「ララァを特別扱いするなよ」と言いつつ、「恐くはないか」と優しく語りかける。ララァに対する扱いがとにかく丁寧だ。ここまで気を遣うのかというほど大事に大事にしていることが存分に伝わってくる。

シャア「グラナダからの援軍は?」
ジオン兵D「あと5、6分でグワリブが着きます」
シャア「うん、キシリア殿がようやく重い腰を上げたという訳か。Jミサイル、敵マゼランタイプに照準」
ジオン兵E「マイナスコンマ2、修正2。大佐」
シャア「よし、Rコンマ3、2、Lコンマ1、撃て!Jミサイル第2攻撃、照準合わせ。撃て!上出来だ。私はゲルググで出る。マリガン、あとを頼む。貴様には貸しがあったはずだ、ちゃんとやって見せろよ」
マリガン「は、はい」
シャア「私が出たら30秒だけ援護射撃をしろ」
マリガン「は、はい。よーし、援護射撃30秒。味方のモビルスーツに当てるなよ」

シャアのマリガンへの貸しとは、デミトリーがザクレロで勝手に出撃した件のことである。

マリガン「た、大佐・・・」
シャア「ん?」
マリガン「デミトリーの件、申し訳ありませんでした・・・」
シャア「構わん、私の知らなかった戦力のことなどな」
マリガン「・・・はい」
シャア「マリガン、この埋め合わせはいつかしてもらう」
マリガン「は、はい」

第32話「強行突破作戦」
みんな大好きザクレロ:第32話「強行突破作戦」

また、ここで登場した「Jミサイル」は第31話「ザンジバル、追撃!」でも言及されていた。この時点ではまだ整備が間に合っていなかったのか実戦には使用されておらず、シャアが残念がる描写がある。

シャア「Jタイプのミサイルが使えんのはやむを得んな。砲撃戦用意。回避運動を行いつつである。よーく狙え」
ジオン兵C「30秒で有効射程距離に入ります」
シャア「木馬の射程距離とどちらが長いか。神のみぞ知るというところか(アルテイシア、乗っていないだろうな?)」

第31話「ザンジバル、追撃!」

どういう性能のミサイルなのかは描かれていないが、今回Jミサイルで2隻の戦艦を沈めているところからするとそれなりに使い勝手の良いミサイルなのだろう。

ビット攻撃でサラミス撃破!

ララァ「左のサラミスを。やった、大佐、やりましたよ!」
バタシャム「・・・エルメスのビットが?ま、まるでベテランパイロットじゃないか。あれが初めて戦いをする女のやることなのか?」

エルメスのララァはどんな戦いを見せるのか。

アニメでは一瞬しか映らないので瞬きをしていたら見逃してしまいそうになるが、画像のような形状のビットが複数エルメスの周辺をぐるぐる回っている。これをニュータイプの能力でコントロールし、ビーム攻撃を仕掛けるようだ。

エルメスの周囲を飛ぶビット

前回登場したブラウ・ブロも同じような方法で攻撃していたが、エルメスとブラウ・ブロでは決定的な違いがある。ブラウ・ブロは有線だがエルメスは無線という点だ。この差はエルメスの性能によるのか、ララァのニュータイプ能力によるのかは定かではない。

第39話登場のブラウ・ブロ

しかし、コードがぐにゃぐにゃまとわりついているよりは、無線のほうが攻撃の幅は圧倒的に広がる。ジオンの技術水準も着実に向上していることを示す描写である。

なお、私もコードが絡まってしまうのがいやで、キーボードやマウス、イヤホンに至るまで無線にできるものはすべて無線にしている。とても快適だ。

閑話休題。

サラミスに向かって飛んでいくビット。サラミスは砲撃するもこんな小さな的に当たるはずがない。なすすべもないままサラミス1隻は撃沈。エルメス強い。

ビットがサラミスに向かって飛んでいく

もう1隻を狙おうとしたところで先行していたドム2機がエルメスの後方に下がっていく。エルメスはドムの援護なく単騎で連邦艦隊に立ち向かう形だ。

ララァ「よーし、もう1隻ぐらい、あっ!あっ、!ドムが援護を?あっ、!ドムがうしろに下がる。なぜあたしのうしろにつこうとするの?初めて戦いに出るあたしを前に出して。あたしがやるしかないの?ああっ、援護がなければ集中しきれない。・・・あと1隻だというのに」

唐突なドムの後退にララァはうろたえ、攻撃どころではない。援護もなく集中しきれないためビットのコントロールにも支障が出ている。そこで主砲での攻撃も試みるが、所詮は新兵。サラミスには命中しない。

ララァはどうなる!?といったところで、前半パート終了。このあたりの描かれ方はジオン側、とくにララァ目線での描かれ方になっている。

シャア「ん?どういうことだ?バタシャムめ、貴様が前に出るのだろうが」
バタシャム「馬鹿言え、エルメスがいたら俺達が前に出ることはないだろ」
ララァ「そ、そうか、やってみる」
シャア「ララァ、無茶をするな!」
ララァ「撃つ!射撃をあてにしてはいけないということ?大佐」
シャア「ララァ、援護するぞ!」
ララァ「大佐。・・・大佐がいれば・・・」

CM明けでシャアがドムの後退に気づいた。バタシャムに先行してエルメスを援護するように指示を出すが、バタシャムは拒否。結局ゲルググが援護することに。ゲルググの援護もあってサラミスをもう1隻撃破。少々ピンチな場面もあったが、ララァの初戦としては大戦果である。

この戦闘で判明したのはニュータイプ能力を持つ者がその能力を存分に発揮できれば戦艦撃破も造作もないということである。

他方、課題も判明した。それはニュータイプ能力を発揮するには意識を集中させる必要があり、そのために味方の援護が不可欠ということである。

やはりニュータイプの登場によって戦争のありかたそのものが大きく変わろうとしている。

星一号作戦

ナレーター「その頃、地球連邦軍の最前線たるソロモンでは次の作戦の為の命令が下されていた。すなわち、ジオンに進攻する星一号作戦の発動である。各艦隊はそれぞれに定められたコースを取って攻撃目標の星へ向かう。しかし、本来最も先行すべき第13独立艦隊のホワイトベースの出港だけが遅れていた」

連邦軍がジオンへの進攻作戦「星一号作戦」を発動した。続々と戦艦やらモビルスーツやらが出撃していく。そんな中、ホワイトベースはガンダムの改造のため出港が遅れていた。

モスク「理論的な自信だけはある。メカニック的な干渉はすべて打ち消したはずだ」
アムロ「ということは、無限大にスピードは速くできる」
モスク「うん、理論的にはな。しかし、ガンダムのパワーはそうはいかん」
アムロ「そうですね。博士は僕らの救い主です」
モスク「君が生き残ったらそう言ってくれ。今回のデーターだけはなんらかの方法で私の手元に届けてほしいものだな」
アムロ「だから人の本音というのは聞きたくありませんね」
モスク「まったくだ、アムロ・レイ君。君のガンダムに対するセンスに期待するよ」
アムロ「ありがとうございます」
モスク「必ず生き延びてくれよ」
アムロ「はい!データーを持ち帰る為にですね」
モスク「そう、そうだ」

ガンダムの改造が終わった。今回の改造によって理論的にはガンダムのスピードは無限大に早くできるという。どういう原理かはわからないが。

「必ず生き延びて」というモスクと「データを持ち帰るためにですよね」と返すアムロ。この会話は小気味がいい。モスクとアムロのお互いを信頼しているところがよく表現されている。

またアムロの成長という意味でも見逃せない場面だ。敵本国への進攻直前にこうした冗談交じりの会話ができるのは心理的な余裕がなければならない。

作中で直接描かれているわけではないが、アムロはモスクに父親の面影を見ているのかもしれない。年齢的にもちょうど父親と同じくらいに見えるし、技術者だ。ガンダムの生みの親がテム・レイならモスクはガンダムを大きく成長させた育ての親といったところだろう。

テム・レイが酸素欠乏症にならなければ、こんな感じで親子の会話がなされていたのかも知れない。

「我々は馬鹿馬鹿しくなったのであります」

バタシャム「ひょっとしたらエルメスはシャア大佐のゲルググ以上でありましょう」
シャア「歴戦の勇士のお前達がそう言うとはな・・・」
バタシャム「我々はニュータイプの能力というものを初めて見せられたのです。あれほどの力ならばララァ少尉はお一人でも戦闘小隊のひとつぐらいあっという間に沈められます。その事実を知った時、我々は馬鹿馬鹿しくなったのであります。ララァ少尉ほどのパイロットが現れたなら、我々凡俗などは・・・」
シャア「ララァに嫉妬しているのではないのか?」
バタシャム「心外であります。・・・いや、皆無とはいえませんが、なによりもニュータイプの実力に驚きました」
シャア「うん」
バタシャム「軍法会議も覚悟しております。が、エルメスの出る時後衛にまわることだけは認めてください!」
シャア「できるか?少尉」
ララァ「中尉のおっしゃることはわかります」
シャア「そうしてくれ。中尉、いいな?」
バタシャム「は、大佐」

シャアのセリフによればバタシャムは「歴戦の勇士」である。階級も中尉。そんな歴戦の勇士が、年端もいかない女の初陣での戦いをみて「ばかばかしくなった」と語っている。「ひょっとしたらエルメスはシャア大佐のゲルググ以上でありましょう。」とシャアに対しても吹っ掛けるようなことを言う。

エルメスの圧倒的な戦力を目の当たりにして「新兵でここまでできるならもう自分のような人間は必要ないではないか、命を懸けて最前線で戦うまでもないではないか、もうニュータイプ能力を持つ者が最前線で戦ってくれたほうが損害も少なくなるのではないか」とでも思ったのだろう。この気持ちはよくわかる。

前回明らかになったように、時代はニュータイプによる戦争へと移行しつつある。そんな中でニュータイプでない者はどうすればよいのだろうか。圧倒的な戦力差を見せつけられ、「こんな戦争に参加しても勝ち目はないではないか、命を無駄にするだけではないか」と考えたとしても無理はない。

モビルスーツの登場によって戦争のありかたが大きく変わったように、ニュータイプの登場、実戦への投入も従来の戦争のありかたを変えようとしている。その過渡期におかれた一般兵士の心情を描くことで「機動戦士ガンダム」の物語に深みが生まれるのだ。

「おセンチでちっとも飛んでない」

アムロ「なるほど、こりゃすごいや。しかし」
セイラ「アムロ、いい?」
アムロ「はい」
セイラ「どう?調子は」
アムロ「良好ですけど、動きが速くなった分はメカに負担がかかります。その辺のバランスの取り方が難しいですね」
セイラ「大丈夫よ、その辺は自信を持って、アムロ」
アムロ「そうですか?」
セイラ「そうよ、アムロはニュータイプですもの」
アムロ「ふふ、タイプからいったら古い人間らしいけど」
セイラ「フフ、そうね、おセンチでちっとも飛んでないのにね、アムロって」
アムロ「・・・そう正面切って言われるといい気分のもんじゃありませんね」

「おセンチでちっとも飛んでない」とは、またなかなかな表現の登場である。

おセンチとは感傷的な、情緒的な、涙もろいといった意味の英語『sentimental(センチメンタル)』を略し、尊敬の意を表す接頭語『御(お)』をつけたもので、感傷的なさま、涙もろいさまを意味する。昭和初期の女学生が使ったのが始まりで、1970年代後半辺りから広く普及。単にセンチともいう。

元の意味は英語の「sentimental」で、それを昭和初期(1920年代後半頃)に女学生が「感傷的な、情緒的な」といった意味合いで使用していた。それが1970年代後半に再度使用されるようになったということらしい。

「飛んでる」も説明が必要だろう。

常識にとらわれずに行動する。自由に生きる。「―◦でる女性」
[補説]「翔んでる」とも書く。

「飛んでる」の使用例はこちらをご覧いただきたい。

やはり1970年代後半頃から頻繁に使用されるようになった言葉のようだ。

「機動戦士ガンダム」が放映されていたのは1979年だ。「おセンチでちっとも飛んでない」というセリフ回しは、放映当時の時代性をよく表している。

シャア「シャア・アズナブル大佐、ララァ・スン少尉、入ります」
キシリア「空母ドロスの主力隊はグラナダとア・バオア・クーの線上に展開させた。大佐は私の遊撃隊に入り戦闘指揮を取れ」
シャア「は」

キシリアのグワジンにシャアが乗船。キシリアがシャアに指示を出す。

現在の状況を確認してみよう。

ジオンはソロモンを失い、月面基地グラナダと宇宙要塞ア・バオア・クーを最終防衛線として部隊の配置を急いでいる。ギレン自身もア・バオア・クーに乗り込み陣頭指揮を執る。

キシリアのグワジン、シャアのザンジバルも展開し、連邦軍を迎え撃つ。「空母ドロス」の名も出てくるが、これは前回シャリア・ブルが乗船した艦である。その部隊も月周辺に展開するようだ。

ジオンにとっての期待の星はなんといってもニュータイプララァのエルメスである。初陣でいきなりサラミス艦2隻を沈める大活躍で今後の戦況を左右する戦力といって間違いない。

また、準備が進められているソーラ・システムというものがどれほどのものなのかも気になるところである。

他方、連邦軍もソロモンからジオン本国に第13独立部隊が駒を進めている。少し遅れてホワイトベースも追従する。モスク博士によって改造されたガンダムの実力やいかにといったところか。

連邦艦隊とジオン艦隊の戦闘がいよいよ始まる!

アムロvsシャア(10戦目)

アムロ「味方がやられたな。呼んでいる!呼んでいる!・・・なんだ?やってみるか!(・・・シャアと、もうひとつは、なんだ?)シャア、もらったぞ!」
ララァ「大佐!」
シャア「ん?」

ホワイトベースのはるか前方で爆発の光が見える。いよいよ戦闘が始まった。

今回もアムロのニュータイプ能力は絶好調である。かなりの遠距離からシャアの位置を把握、行動を予測してビームを放つ。

シャアはガンダムからの攻撃に全く気付く様子はない。勝負ありかと思ったところに、ララァが助けに入る。エルメスのビットが先行し、ゲルググはギリギリのところで被弾を免れた。

ゲルググを狙うガンダムの前にエルメスとドムが立ちはだかる。しかし、ガンダムはあっという間にドムを撃破。シャアも「ガンダム、昨日までのガンダムとまるで違うぞ!」とその変化に驚きを隠せない。

ガンダム、ゲルググ、エルメスが入り乱れる激しい銃撃戦が繰り広げられる。その中でついにゲルググが被弾。左腕を失う。

なおも銃撃を続けるゲルググにエルメスからの砲撃も加わるが、ガンダムはすべてを避ける。スピードアップしたガンダムとニュータイプのアムロの前にエルメスもゲルググもなすすべなしである。

ここでガンダムがゲルググに接近し、ゲルググを蹴り飛ばすシーンがある。第3話「敵の補給艦を叩け!」で、シャアの赤ザクにガンダムが蹴り飛ばされるシーンがあるが、そっくりそのまま立場が入れ替わったものだ。これはアムロとシャアの力関係が完全に逆転したことを示している。

第3話「敵の補給艦を叩け!」

ララァ「大佐!大佐、脱出してください」
シャア「大丈夫だ。この程度ならゲルググは爆発しない」
ララァ「で、でも・・・」
シャア「エルメスに掴まらせてもらう。攻撃は続けろ」
ララァ「続けています、け、けれど・・・」
シャア「けれど?なんだ?」
ララァ「あ、頭が押さえつけられるように重いの、です」
シャア「なんだと?」

シャアは攻撃を続けろというが、ララァは「頭が押さえつけられるように重いのです」と訴える。これはアムロというニュータイプと接近したことによって引き起こされたものであろう。しかし、シャアにはまだその原因がわからない。

エルメスのビット攻撃もうまくいかず、ゲルググも損傷した状況で今のガンダムに勝てる見込みはない。エルメスとゲルググは戦場から離脱する。

星一号作戦、緒戦は連邦軍の勝利である。

第40話の感想

今回はララァの初陣を描いた回である。

ナレーター「ホワイトベースは先行する第13独立艦隊と合流をした。しかし、この時すでに艦隊は3隻のサラミスタイプを撃破されていた。そのうちの2隻はエルメスによるものであって、すなわち、ララァは一日にして4隻の船を沈めたことになる。これは空前の壮挙であった」

エルメスは1日で4隻の戦艦を沈めた。シャアもルウム戦役で5隻の戦艦を撃破する大手柄を立てているが、それに匹敵しうる大戦果だ。実戦経験のほとんどない新兵であっても、ニュータイプ能力とそれを十分に発揮できるモビルスーツ・モビルアーマーがあればシャアにも並ぶ快挙を成し遂げることができる。時代はニュータイプへと移行しつつある。

前回第39話ではガンキャノンがやられ役になり、ニュータイプによる戦闘が別次元のものであることが描かれていた。

今回その役回りを担ったのがシャアである。エルメスがいなければゲルググはガンダムのビームライフルで撃破されていただろう。ゲルググはガンダムの攻撃に気づいてすらいなかった。

また、ガンダムとエルメスとゲルググが入り乱れる銃撃戦のシーンでも、シャアはララァから邪魔者扱いされていた。

ララァ「大佐、退いてください、危険です!」
アムロ「邪魔だ!!」
シャア「ガンダム、昨日までのガンダムとまるで違うぞ!」
ララァ「大佐、どいてください、邪魔です!」

ララァの言葉も「退いてください、危険です!」から「どいてください、邪魔です!」とヒートアップしている。赤い彗星もニュータイプ同士の戦闘では無力になってしまったのだ。

ニュータイプが実戦に投入されることで戦場でのパワーバランスが大きく変わろうとしている。

しかし、ニュータイプ能力には課題も残されている。

一つは、ビットのコントロールのために意識を集中させる必要があること、そのためには味方の援護が不可欠ということだ。前半パートでバタシャムが援護を放棄して後退してしまったため、エルメスは攻撃が定まらなくなってしまった。ゲルググの援護を得てサラミス撃破に成功したが、戦況によってはニュータイプ能力を十分に発揮できないことがある。

しかし、問題として大きいのは次の点だ。

シャア「(しかし、ララァの頭痛の原因がガンダムのパイロットと関係があるようなら、事は簡単に進まんな)」

敵方にもニュータイプ能力を持つ者がいた場合、その能力を十分に発揮することができない。エルメスがガンダムと交戦した際、ララァは「あ、頭が押さえつけられるように重いの、です」といって攻撃を続けることができなくなってしまった。その間にガンダムにビットを次々と破壊され、撤退を余儀なくされている。

前回のアムロとシャリア・ブルの戦闘の際にはこうした現象は起きなかった。ララァに特有の現象なのか、その発生条件はどうなっているのか、回避方法はあるのかなど、ニュータイプ同士の戦闘にはまだまだ謎が多い。

個人的に印象深かったのはバタシャムが「我々は馬鹿馬鹿しくなったのであります。」と平凡な兵士としての心情を吐露するシーンである。バタシャムもシャアから歴戦の勇士と評される有能な兵士だ。それがニュータイプの圧倒的攻撃力を目の当たりにして自分たちの時代は終わったと感じた。

近年様々な分野でAIが活躍するようになり、同じような気持ちを抱く者もいるのではないだろうか。AIの圧倒的な処理スピードと処理精度の前に人はあまりにも無力だ。何年もかけて培ってきた技能が一気に陳腐化してしてしまう恐怖感や、自分のこれまでの努力が無意味なものに思えてしまう虚無感を覚える者もいるだろう。

ニュータイプの出現と平凡な兵士の関係は、AIの出現と我々の関係に似ている。

もっとも歴史的にながめれば人類はこうした経験を何度もしてきた。産業革命以降に数多く登場した大型機械や科学技術は多くの人の仕事を奪い、大きな反発を招くこともあった。

しかし、それでもそうした機械や技術は今日の豊かな社会を形成する一翼を担っている。

新しい技術を敵視するのではなく、それとどうお付き合いしていくのか、そのために社会はどう変わるべきなのか、これこそが大事なのだ。そんなことを思わせる回であった。

さて、次回予告を見ているとどうやらララァが散るらしい。次回予告でのネタばれはもう慣れっこなのでそこは別にいいのだが、問題はシャアの反応である。

ジオンの理想を実現するためにもララァの存在はシャアにとってとてつもなく大きいものだ。ララァを失ったシャアはそのあとどう行動するのか。そのあたりも楽しみである。

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ごまさば将軍(ガンダムシリーズ全部観る)
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