モンテルカストと精神神経症状

モンテルカストの副作用として精神神経症状に焦点を当てた研究を2本紹介します。

① Philip G, et al. J Allergy Clin Immunol. 2009

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=19815116

対象・方法:
モンテルカストについての二重盲検プラセボ対照試験(成人35、小児11)を含む有害事象データベースを作成して後ろ向きに解析し、モンテルカストとプラセボを投与された患者の行動関連有害事象(BRAE)の頻度を比較した。

結果:
BRAEの頻度はモンテルカストおよびプラセボ群でそれぞれ2.73% vs 2.27%(OR: 1.12, 95%CI: 0.93- 1.36)。
研究中止につながるようなBRAEの頻度は同0.07% vs 0.11%(OR: 0.52, 95%CI: 0.17-1.51)であり頻度に差はなかった。

② Glockler-Lauf SD, et al. J Pediatr. 2019

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=30905424

対象・方法:
2004-2015年にカナダ・オンタリオ州で抗喘息薬を処方された5歳から18歳を対象とした症例対照デザイン試験。
条件付きロジスティック回帰によりモンテルカストの処方と神経精神医学的イベントの関連を解析した。

結果:
新たに発症した神経精神医学的イベントを経験した児の割合はモンテルカストが処方された群で対照群の約2倍(OR: 1.91, 95%CI: 1.15-3.18, P=0.01)。
神経精神医学的イベントのほとんどは不安(48.6%)や睡眠障害(26.1%)。
臨床医はモンテルカスト処方時に児の神経精神医学的イベント発症に注意する必要がある。

<個人的コメント>

モンテルカスト(商品名:キプレス、シングレア)などのロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)は
・気管支喘息のコントローラとして、特に小児例や運動誘発性喘息に対しては優先的に
・季節性/通年性アレルギー性鼻炎の症状、特に鼻閉の強い症例に対して
・難治性蕁麻疹で抗ヒスタミン薬倍量投与にも反応が乏しいときの追加薬として
広く処方されている薬剤です。

頻脈や震戦など因果関係が分かり易いβ刺激薬やテオフィリン、眠気が問題となる抗ヒスタミン薬などと比較して、LTRAは「安全な薬剤」というイメージもあるかもしれません。

しかし、10年間で48例の精神神経系の障害がスウェーデンから報告され、その機序は不明ながらもLTRAの副作用として着目されることになります(Pharmacoepidemiol Drug Saf. 2009 PMID 19551697)。

①の論文ではモンテルカストがプラセボと比較して精神神経症状は増やさなかったという結論になっていますが、その後に出された研究では②を含めて(特に小児では)モンテルカストと精神症状とが関連したという報告が多くなされています(Pharmacoepidemiol Drug Saf 2012. PMID: 22076661、Eur Respir J 2017. PMID: 28818877など)。

因果関係が「あること」を証明するよりも「無いこと」を証明するのが難しいということもあるかもしれませんが、結局、米国FDAも警告を出し、英国やオーストラリアでも注意が出されました。
https://www.gov.uk/drug-safety-update/montelukast-singulair-reminder-of-the-risk-of-neuropsychiatric-reactions
http://www.tga.gov.au/hp/msu-2013-02.htm#montelukast

日本でも市販後調査が行われて添付文書に追記がなされています。
http://www.info.pmda.go.jp/kaitei/kaitei20100323.html#7

重症喘息患者さんが不安などの精神症状を抱えることは、喘息症状の結果および原因としてよく遭遇します。
そのようなことがあれば、お薬手帳を確認してLTRAが出ていないか確認してもよいかもしれません。自分がLTRAを処方していなくても、他の施設や他の医師からLTRAが出されているケースは多いです。

なお、LTRAの喘息に対する効果をみると2/3のresponderと1/3のnon-responderに分かれるとされ(Clin Exp Allergy 2007. PMID: 17883728)、個人的にはLTRAはアレルギー性鼻炎の合併などで同薬の効果がない限り、喘息への効果がなかったら投与後数週間から数か月で中止するようにしています。

さらに以前のnoteで言及したように、LTRAは高齢者ではクリアランスが減少してCYP3A4または2C9経路を阻害または誘導する薬物と相互作用する可能性もあり、漫然と投与するのではなく適応や効果を考えて処方したいところです。

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