好酸球性胃腸炎に対する抗Siglec-8抗体の効果(第Ⅱ相試験 NEJM 2020)

好酸球性胃腸炎(EGE)に対する抗Siglec-8抗体(リレンテリマブ)の第Ⅱ相試験結果を紹介します。
N Engl J Med 2020 Oct 22;383(17):1624-1634
PMID: 33085861
Anti-Siglec-8 Antibody for Eosinophilic Gastritis and Duodenitis

P:好酸球性胃炎または好酸球性十二指腸炎の成人65人

I:低用量リレンテリマブもしくは高用量リレンテリマブ(43人)

C:プラセボ(22人)(二重盲検)

O:
主要評価項目:最終投与2週間後の消化管の消化管好酸球数の変化は介入群で86%減、対照群で9%増
副次評価項目的:
 治療効果(総症状スコアの30%以上の改善、消化管好酸球数の75%以上の減少)が出た方の割合は介入群63%, 対照群5%
 総症状スコアの平均変化率は介入群48%減, 対照群22%減
有害事象:Infusion reactionの発生率は介入群60%, 対照群23%

<個人的コメント>

EGEは食物抗原等に反応して消化管での IL-5, IL-13, IL-15, eotaxin等のサイトカインの産生が亢進して好酸球やマスト細胞が活性化され、消化管上皮に傷害が起きるアレルギー疾患です。 40 歳頃を発症ピークに性差なく発症します。主訴は腹痛と下痢であることが多く,末梢血の好酸球がほとんどの症例で増加します。
日本からの報告では2004年から2009年までの中心的教育医療施設での症例集積は144例とされ、比較的稀な疾患です(J Gastroenterol 2013. PMID: 22847555)。
内視鏡検査でのびらん,発赤,浮腫などがみられますが、確定診断には生検が必要です。好酸球の混じった腹水が出現する方もいます。
治療には抗ロイコトリエン受容体拮抗薬などが用いられますが、全身性ステロイドを使用しないと症状のコントロールがつかない症例が多いとされます。
過去には抗IL-5抗体や(JACI 2004. PMID: 15577851)、抗IgE抗体(Clin Mol Allergy 2011. PMID: 21527026)などの有用性が示唆されている論文がありますが、本疾患のみを対象として抗体医薬を実践的・積極的に使用する環境にはありません。

一方、Siglec-8は好酸球やマスト細胞や一部の好塩基球で発現しています。本試験で使用された抗Siglec-8抗体であるリレンテリマブ(AK002)は好酸球のアポトーシスやマスト細胞の脱顆粒阻害をもたらし、様々なアレルギー疾患での臨床応用が期待されている薬剤です(Int Arch Allergy Immunol. 2019. PMID: 31401630)。

EGEの患者さんは喘息などの他のアレルギー歴を有する方が多いとされ、アレルギー科に受診する患者さんの中で難治性・原因不明の腹部症状がある方にはEGEを一度疑う必要があります。

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