積乱雲の記憶(九)
神域と寺院。
似て非なるものだが、
私がこの部屋を出る前に最後に付け加えておく。
神域は絶対的なもの。
寺院は個人の精神。
まあ、絶対的な個人の精神が私の思うところ
による、寺院。
では神より神域の方が絶対的なものなのか。
その事については私は絶対的な神の神域は
個人にとっての個人と同じなのだが、
他者にとって個人が完全たる時のみ、
絶対領域。そしてその中にいる個人。
その他者が見る個人が、
その他者の見る見え方、世界観が
個人の絶対的な主観、世界観に似付かない場合、
に於いても絶対主たり得るか。
自らがその者の世界に属する事を選ぶのなら。
安堵を浮かべてその領域に浸かっていられる
のなら。
封建とは従う者が身分に従う。
それが第三者的、客観的な世界観であったり、
個人由来の個人ではないものであれば、
その世界主の信頼領域を担う範囲に於いて
世界主たり得る。
何故個人の信頼が世界になり得るか。
人の精神は常に幻覚を見て、他者的世界。
主観的に生きる事のみそれ以外の道を選ぶ
選択肢を得る。
その世界に於いてどういった扱いか、
どのような身分か、
子侶は、個人設定を極めて複雑に
後戻りできない様に緻密に行った。
私は蝿。
私の世界はこの男の世界にあっては受け入れられる。その生物種の足が付いたその先に、
この男が見える。
葉の影に隠れるものにも信頼があるのだ。
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木原とやりとりした、
その営業部の男は書類以外のものがかなり
はっきり見えたという。
縁起や人のめぐり、
私が会社を退職すればこの光を得る事が出来る。
このOLの勤務する会社がある人間を、
借用書の契約通りに、担保となる自室の家具を
抵当に於いての財産とする様に、
男の身分を売った。
その借用書によると、
その男は、バーテンダー。
拘束した身分の下にある、
さまざまな経歴は一般人と同様のもの。
その営業部の男の会社は、
そのバーに酒を卸している酒屋に
ある注文をした。
御神酒の代わりになる様な酒を、
御中元で取引先の先輩にと、レシートを切った。
その男は、そのレシートを財布にしまい、
後日、自分用にも同じ酒を買った。
ただ飲みたかった。
その帰りに店を出る時、光明を感じた。
ただそれだけなのだ。
それで丸く全て収まる、と思ったのだ。
その酒を飲んでいると、
脳内に声が聞こえ始めた。
その声は木原という女の説明をして、
あるミッション、会社を退職すべき理由を
与えた。
その様な声が聞こえるのは、テレパシーの場合、
1人が1人に対して会話は一度きりだが、
通常明らかに聞こえる幻聴は、
常にうるさい。恐らくは他人の中の遊んでいる
多重人格か又は、多重人格的な会話思考であって
交代しない多重人格とも言える。
交代しないからこそ会話思考だが、
その人格が交代したがっている際の情報交換と、
際限なく繰り返される文句ややっかみは
やはり異なるものだろう。
文句を言われる事は拒否姿勢が当たり前なので、
逆に、役に立つアドバイスはかなり認識を曲げる
事において危険。
ある程度まで聴いたら用事がなくなる迄は
語り尽くすだけの話に説得力が無いと、
乗っ取る気だ。
よって説得力がある内に逃げるしか無いのだが、
頭に聴こえる声から逃げるなど出来るのか。
文脈的に逃げる事。
自分に関わずらっているとろくな目を見ないと言うのは、向こうからしても同じなので説得力が無い。つまりは自分に向こうから用事がなくなるまで説得力を保ちつつ、最後に
仕事を与える。
自分には出来ない仕事を。
自分と同じレベルの仕事で
自分には出来ない事。
その様な関係性が存在する事に不思議さを覚えて
酒を飲む男は、納得した。
そのミッションを遂行する事に疑問は感じ得なかった。
続く