【Rー18】ヒッチハイカー:第11話「どうしても南へ行きたいんだ…」⑨『静香の危機!戦いのゴングはすぐ間近に…』
ここは、SITの作戦指揮所の設置された事務所がある製材所の敷地内である。
外には林業の現場や原木市場から購入した木材が山と積まれている。数千本もあるだろうか。
いかにも製材所というにふさわしい木の香りが吹雪の中でも漂っていた。
この製材所の広い敷地の片隅に、商品の木材で組み立てられたログハウスが建築されていた。このログハウス自体も系列会社が商品として扱っており、客の要望で住居や別荘として販売しているのだ。
ここに建てられているログハウスは、モデルハウスの様に客に対して全体の造りや内部が見られるように公開されている。
住み心地を体験したいという客の希望があれば、宿泊する事も可能だった。中での生活が出来るように、オール電化のシステムが完備され上下水道も使えるようになっていた。
ログハウスに興味のある家族連れやカップルなどが春夏秋と結構の数訪れるのだが、さすがに雪の多い山中の事でもあり冬場に関しては、訪れる客はさっぱりなのである。春になるまでモデルハウスとして使われる事は無かった。
今、そのログハウスの中に明かりが灯り暖房も付けられ、人の気配がした。
中にいたのは誰あろう、ヒッチハイカーと彼が拉致して連れ込んだ皆元静香の姿だった。
静香は乗っていた移動現場指揮車が2mを超える巨岩に衝突して意識を失ったままヒッチハイカーに抱えられ、ここまで運ばれて来たのだった。
静香はまだ意識を失っていた。
このログハウスを住みかとしているのか、あるいは拉致してきた静香を犯すための一時的な場所として使用するつもりなのかは、ヒッチハイカー本人しか知る由がなかった。
ログハウス内での暖房は火事を出さないために、各部屋に火を使わない電熱式の設備が整っていた。今も暖房が使われ、静香達のいる室内は温かく吹雪の吹き荒れる外の気温とは雲泥の差だった。
意識の無い静香の傍に立つヒッチハイカーは全裸だった。
ここに来るまでの彼が上半身に纏っていたのはSIT(Special Investigation Team:特殊事件捜査係)隊員のSMG(サブマシンガン)の銃撃によりボロ切れと化した衣服だけだったが、比較的損傷がましだった下半身に身に着けていたズボンや下着も全て脱ぎ去っていた。
自分が手にかけた犠牲者の血と脂にまみれていたヒッチハイカーの身体は、ログハウスの浴室にあるシャワーで綺麗に洗い流されていた。
このヒッチハイカーは2mもの身長をした全身が、無駄な贅肉の一切無い鋼の様な筋肉に覆われたギリシャ彫刻の男性像の様な肉体をしており、顔もやはり日本人離れした西洋の彫刻並みに彫りの深い男前だった。
くせ毛でボサボサだった頭髪の頭も、洗い流し濡れた髪を後ろになでつけてあると別人のようだ。
猟奇的に強姦と殺戮を繰り返すサイコパスである事実を知らなければ、女性からはため息をついてうっとりとした目で見つめられるような、いい男伊達なのである。
どういう事なのだろうか…?
ヒッチハイカーの鋼の様な肉体のどこを見ても、あれだけSIT隊員からSMG(サブマシンガン)で撃ちまくられた弾痕などは見当たらなかった。至近距離からのSMGの銃撃は彼の身体に夥しい数の深い傷を与えていたはずだ。
意外にも体毛の少ない彼の滑らかな濡れた肌が、照明に照らされて光り輝いていた。
この男は異常なほどの治癒能力を持っているとでも言うのだろうか?
眠っている静香を見下ろすヒッチハイカーの全裸の股間には、巨漢の彼に相応しいというよりも、それ以上に巨大な勃起した男根が真上を向いてそそり立っていた。おそらく長さは50㎝ほどで直径は8㎝ほどもあるだろうか…静香の肘から握り拳までを含めたよりも巨大だった。
これからその巨大なペニスを使って、すでに犠牲となって死んだ水木エリや山野ミチルの様に、静香もまた殺す前に犯し蹂躙し尽そうというのだろうか…?
静香は自分の身に危険が迫っている事を知らずに、未だ意識を失ったままだった。
ヒッチハイカーは静香の傍にかがみ込むと、意識の無い静香の身体から衣服を一枚一枚脱がせていった。意外な事に乱暴に引きむしるというのではなく、優しいほどの手つきでそっと脱がせていく。
一方で相変わらず彼のペニスは硬く屹立したままで、亀頭の先端からは透明な液体があふれ出ていた。
この男は、この行為もまた前戯の一部として楽しんででもいるつもりなのだろうか…?
静香の着ている衣服は、残すはブラジャーとショーツの下着だけになった。
静香の半裸となった姿に興奮したのか、熱く荒い鼻息を吐きながらヒッチハイカーはM字開脚に開いた静香の股間に鼻を寄せていく。彫りが深く鼻筋の通った高い彼の鼻先が、ショーツの上から静香の大切な部分に触れる。
彼の口からはよだれが糸を引いていた。
ヒッチハイカーの巨大なペニスの亀頭部分と静香の股間とは、もう数十cmと離れていない。こんな巨大な代物が華奢な静香の膣に納まるものだろうか…? こんな怪物みたいなペニスで激しく責められては、彼女の秘めた女性の部分は壊れてしまうのではないか?
静香は、これまでの人生で伸田伸也しか男を知らなかった。伸田の標準的なサイズの男性器しか受け入れた事が無かったのだ。
我慢出来なくなったのか、ヒッチハイカーは静香のショーツに指をかけ、ゆっくりと引き下ろしにかかった。そして静香の尻を待ちあげると、片脚ずつショーツを足から抜き取った。
露わになった静香の股間は下腹部から淡い陰毛に覆われていた。ヒッチハイカーは静香の尻を持ち上げ自分の顔の前に、彼女の性器を近づけていった。俗にいう『まんぐり返し』という格好である。
彼の硬く屹立した巨大なペニスの先端が静香の腰に押し付けられている。その勃起し反り返ったペニスは三本目の腕の様に静香の腰を下から押し上げていた。
右手の指で静香の女性器の花弁を優しいと言える手つきでそっと押し広げると、ヒッチハイカーはヒクヒクと蠢かした自分の高い鼻先を広げた花弁の中心にズブズブと沈めていった。その部分は人間のメスの匂い強く充満し、静香が気を失ったままなのに微かに潤っていた。
彼の白人の様に高い鼻が静香の膣に半分ほど埋まったところで、ヒッチハイカーの身体はビクッとして動きを止めた。
そのまま少しの間ヒクヒクと動いた鼻先を埋めていた膣口からゆっくりと抜き去ると、彼は今度はキリンの様に異様に長い舌をすぼめて静香の潤った膣内に舌先をズブズブと侵入させていった。
「あっ、ああん… ううっ…」
目を覚ました訳では無かったが、静香は自分の身体に侵入してきたしたヒッチハイカーの舌先に性感が刺激されたのか、小さく喘ぎ声を上げ始めた。
ヒッチハイカーは人間離れした異様に長い舌を静香の膣奥深くまで挿入していき、彼女の子宮の入り口を超え子宮の内部にまで舌先を到達させた。
そこでヒッチハイカーの舌先が動かされているのか、静香の腰がゆっくりとグラインドしながらヒッチハイカーの顔に自分の股間を押し付け始めた。彼女の身体が無意識に快感を求めているのだろう。舌を挿し込まれた静香の膣からは、彼女の愛液か男の唾液か分からない透明な液体が糸を引きながら床まで流れ落ちていた。
どうしたと言うのだろう…? ヒッチハイカーの表情に変化が表れた。自分が静香に行っている行為に彼の欲望がさらに高まっていくのではなく、それよりも気になる事を発見したとでもいうのか彼の眉間に深く皺が刻まれ、疑問に思う事でもあるかのように首をかしげているのだ。
それに何よりも驚くべき不思議な事には、ヒッチハイカーの興奮の象徴でもあった巨大なペニスの高ぶりが、徐々に治まり萎えてきているのだ。
これはヒッチハイカー自身の、静香の女体に対する性欲が去って来た事を示しているのだろうか…?
彼の今までの女性に対するセックスの衝動から言うと信じられない事だと言えた。女性とのセックスを始めると、数時間は挿入したままで何度射精しても満足せず抜かずに腰を振り続けるのが彼の通常の性交スタイルだったはずなのだが…
「にゅぽんっ!」
「うっ! ああっ…」
ヒッチハイカーが静香の膣に挿入していた自分の舌を抜き出すと、軽い喘ぎ声と共に静香の白い裸身がビクンビクンと痙攣しながらのけぞった。彼女の膣の中から粘度の高いトロリとした透明の液体が流れ出す。抜き去ったヒッチハイカーの舌から彼女の股間まで、キラキラと輝く透明な糸を引いていた。
次にヒッチハイカーは顔を静香の股間から腹部へ移動させると、奇妙な事に彼女の下腹部に自分の耳を当てたのだ。ちょうど静香のヘソと股間の中間部くらいだろうか…
ただ単に彼女の下腹部に頬ずりをしている訳でも無さそうだった。
ヒッチハイカーの態度はまるで、その部分から何かの音を聞き取ろうとしているかの様だったのである。
いったい何の音を…?
その行為に移ってからは、もはや彼の股間の凶器ともいえるペニスは、だらんとして完全に萎えてしまっていた。それでも常人の勃起したペニスよりも二回り以上大きかったが…
左耳を静香の下腹部に当てていたヒッチハイカーは次に右耳に代え、やはり目を閉じて何かの音を聞き取っているようだ。
しばらくそうしていたヒッチハイカーは、床に膝をついて身体を起こして立ち上がると少しの間、静香を見下ろしていた。
その時だ。
「コツコツ…」
ヒッチハイカーの頭上で微かな物音がした。彼は気が付いていない風を装い、物音がした方を見はしなかった。
そして何気なく部屋の中を歩き、本物ではない作り付けの暖炉の方へ行くと暖炉の中に置いてある薪(これは本物の木の薪だ)を一本掴みだしたかと思うと、いきなり吹き抜けとなっている二階の天井部にある明り取りの窓に向かって投げつけた。
「バリンッ!」
大きな音と共に明り取りの窓ガラスが外に向かって割れた。
外の吹雪が割れた窓から勢いよく吹き込んできた。
「カアッ!カアーッ!」
カラスの鳴き声がした。どうやら明り取りの窓の外にカラスがいたらしいが、ヒッチハイカーはそのカラスに向かって薪を投げつけたのだろうか?
「バサッ! バサッバサッ! カアァーッ!」
いきなり飛来し、ガラスを割って飛び出して来た薪に驚いたカラスは夜空に飛び去ったようだった。
********
「ちっ! 気づかれたか…」
先ほどから製材所へ向かう道中、ずっと黙ったまま歩いていた鳳 成治が舌打ちしてつぶやいた。
横に並んで歩いていた長谷川警部は、そんな鳳の横顔をジッと見つめながら思った。
『この男… さっきから目を瞑ったままで危なげもなく歩いていたかと思ったら、いきなり舌打ちして悔しそうにしている。一体、こいつは何をしていたんだ。』
目を開けた鳳が全員に対して言った。
「ヒッチハイカーは現在、製材所敷地内の南の端に建てられたログハウスの中に潜んでいる。そこに人質の皆元さんも一緒だ。」
「鳳指揮官、どうしてそんな事が分かるのですか?」
長谷川の後ろを歩いていた島警部補が、不審そうな顔で鳳に尋ねた。島は新しく自分達の指揮官となった鳳に対して不信感を持っていたのだ。
「さっき言っただろう。私が放った追跡用デバイスがヤツを追って居場所を突き止めたんだ。中の様子を私のスマホに送って来た。」
そう言って鳳は答えたが、横を歩きチラチラと鳳の方を盗み見ていた長谷川は、鳳が自分のスマホなどを見もしなかったのを知っている。つまり、鳳は口から出まかせを言っているのだ。
だが、長谷川は鳳が何かの術で作り出した三本足の『八咫烏』を空に放ったのを自分の目で見た。
彼の言う『追跡用デバイス』というのは、おそらくあの『八咫烏』の事だろう。
『八咫烏』から鳳に何かを伝えて来たとでも言うのだろうか?
「シズちゃん… いや、静香は無事なんですか? 彼女は生きてるんでしょうか?」
少し後ろを離れて歩いていた伸田が、鳳に駆け寄って来て心配そうに尋ねた。
「ええ、生きてはおられるようですよ。それ以上は申し上げられないが…」
鳳の答えにくそうな返事に、伸田は不安になった。
「皆元さんが生きてて居場所も分かったんだ。だから伸田君、元気を出して。
一刻も早く我々で救出してあげようよ。」
安田巡査が持ち前の優しさと明るさで何とか伸田を励まそうと、彼の肩を叩いて言った。
安田は静香に同行し徒歩で作戦指揮所まで送り届けたのだ。彼女の優しく素直な人柄に触れて、他の隊員の誰よりも静香に好印象を持っていた。
優しい彼は、静香の婚約者である伸田を不安なままにしておきたくは無かったのだ。そういう安田の性格を、同じAチームの面々は知り尽くしていた。安田の意気を感じた隊員達全員が伸田の肩を叩いたり、それぞれになにがしかの励ましの言葉を彼にかけてやった。
SITの隊員達は凶悪犯に対しては厳しいが、根は優しい心を持った連中達なのだ
長谷川警部は、そんな自分の部下達を誇りに思った。
その一方で鳳が首を傾げているのを長谷川は見逃さなかった。
「どうかしたんですか、鳳指揮官?」
「いや、何でもない…」
鳳は長谷川の方を見向きもせずに、ぶっきらぼうに答えた。
「あの『八咫烏』に関係があるのでは…?」
皮肉を言うような表情で尋ねる長谷川を、鳳がジロリと睨みつけた。
「なぜ君が、それを知っている?」
自分にズバリと指摘した長谷川に対して鳳の目は、驚きを通り越し疑惑に満ちていた。
「私は、あなたが黒い折り紙からあの『八咫烏』を作り出す姿を後ろから見ていたのですよ。」
長谷川はすぐに種明かしをして聞かせた。
「ふっ、ふふふ… そうか、そうだったな。あの時は夢中だったので気が付かなかった。」
疑惑が解けた鳳は安心して緊張を解いたようだ。
「ですが、いったい…あのカラスは何なんですか?」
歩きながら長谷川が鳳に尋ねる。
「ふっ… 現場を見られたのなら、今更とぼけてみても仕方がないな。あれは私が陰陽術を使い、折り紙に念を込めて作り出した擬人式神だよ。」
「陰陽術に式神? 聞いた事はあるが、そんなモノが本当に存在するんですか…?」
胡散臭そうな顔で長谷川が鳳に聞いた。
「現実に君も見たんだろう? 信じる信じないは君の勝手だ。そんな事より、もうすぐ到着のようだな…」
鳳は、それ以上説明する気は無いらしく歩く速度を速めた。
一行全員の前に目的地である製材所が開けて来た。彼らのいる小高い丘から見下ろすと、かなり広大な面積の土地の様だった。
「目標はあのログハウスだ。ヒッチハイカーと皆元さんはそこにいる。」
鳳が指し示した先に、なるほど一軒のログハウスが建っていた。
そこは製材所に隣接する林の始まりの場所に建てられていた。
「目標まであと1kmという所ですね、よし、全員装備を確認しておけ!」
島警部補がAチームの隊員達と伸田に対して命令した。
「ガシャッ!」
「ガシャン!」
隊員達の武器を点検する音が響いた。
伸田も自分が携帯する自動拳銃のベレッタを二丁とも点検した。
亡くなった隊員から拝借したグローブを手にはめてはいたが、寒さで指先がかじかんでいる。ヒッチハイカーとの戦闘になった時に指が動かなくてはシャレにならないので、伸田は右手をポケットに入れ、元々持っていた使い捨てカイロで温めておくようにした。
一行はログハウスまで後100mという地点まで近づいた所で、長谷川警部が全員に言った。
「よし、ここからは各員5mほどの距離を取りながら横隊で前進する。最終的にはログハウスを中心として、ゆるい扇方に展開したまま取り囲むぞ。これまでの他チームの例がある。見通しの悪くなる林には入るな。
これでよろしいでしょうか?鳳指揮官。」
長谷川がこの部隊の指揮官である鳳に伺いを立てる。
「賢明な判断だ。実質的なチームへの戦い方の指示は君に任せる。何といっても君はSITの隊長だからな…」
鳳は長谷川の方を見ずに前方のログハウスを見つめながら言った。
「了解しました。それでは各員、装備を構えつつ前進を開始する!」
全員が長谷川の命令通りに各員が5mの距離を取り、そこまでよりも慎重に行軍を開始した。
********
ログハウスの中ではヒッチハイカーがボロボロのズボンと登山靴を身に着け終わっていた。上半身に身に着けていた衣服は布切れ同然だったので使い物にはならなかった。
エアコンが効いているとはいえ、この寒い山中の部屋で上半身裸のヒッチハイカーは身震い一つしていなかった。
ヒッチハイカーは腕組みをしたまま目をつぶっている。立ったままなので眠っている訳ではないだろう。
全身が静止したままの彼の左右の耳だけが、ぴくぴくと動いている。
静香はどうしたのか…?
立っているヒッチハイカーの足元の床に、全裸に剥《む》かれた状態で意識をまだ失ったままで横たわった静香の身体には、どこかから持ってきたらしい毛布が数枚掛けてあった。
これならば、暖房の効いた室内で彼女が眠ったまま凍死する事は有り得ないだろう。
しかし、なぜ…?
今までのヒッチハイカーの女性に対する扱いと言えば死ぬまで強姦し、死んだ後も自分が満足するまで遺体を死姦し続けていたはずだった…
静香だけが自分にとって特別な女性だとでも言うのか?
それとも…自分に迫り来る敵を全滅させてから、あらためてゆっくりと静香を嬲るつもりなのだろうか?
目を開けて腕組みを解いたヒッチハイカーは、床に突き刺してあった自分の唯一の武器であるマチェーテを抜き取り右手に握りしめた。
そして、チラッとだが足元の静香を見下ろした。
奇妙な事だが静香を見るヒッチハイカーの目には、いつもの殺戮に飢えた様に狂暴な光や狂気の色などは見られなかった。
ヒッチハイカーは静香にかけた物とは別に持って来ていた、白っぽい色をした毛布を一枚取り上げるとマチェーテを器用に使って頭と腕を出すための穴を開けた。やはり寒いのか、それをポンチョの様にして自分の身体に身に着けた彼は階段を2階へと上がった。
そして、先ほどカラスに対して薪を投げつけた壊した明り取りの窓に手をかけて窓を開け放ち、外の陶器瓦を葺いたログハウスの屋根へと出た。
ただでさえ傾斜のある屋根には雪が積もり滑りそうなものだったが、巨体をほとんど音も立てる事なく猫の様にしなやかに動かして屋根の上に器用に立ち、月明かりだけに照らされた林から製材所へと続く雪原を見渡した。
「9人か…」
ヒッチハイカーの低くつぶやく声は吹雪の音にかき消された。
ログハウスの上空に、吹雪をものともせずに旋回しながら飛行する一羽の黒い鳥の姿があった。
それは、鳳 成治が放った擬人式神の『八咫烏』だった。今度はヒッチハイカーも、上空高くを音もなく飛行する『八咫烏』に気付く事は無かった。
********
「私の放った追跡用デバイスからの報告が入った。現在、ヒッチハイカーはログハウスの屋根の上にいる。どうやら、ヤツは我々の接近に気が付いているようだ。各員、油断するな。」
展開してログハウスへと向かっている各隊員に鳳 成治がヘッドセットで通達を下した。この通達は全隊員に無線で一斉に通信された。
「了解!」
「了解しました。」
「了解です。」
長谷川警部をはじめとして、島警部補以下Aチーム全隊員からの了解の応答が次々に入る。
SIT隊員の装備を身に着けている伸田も、Aチーム隊員の安田巡査から無線機の通信の仕方をレクチャーされていた。伸田も応答した。
「こちら伸田、了解しました。」
伸田は通信を終えるとポケットに入れて温めていた右手を出し、やはりタクティカルベストのホルスターに収納しておいた『ベレッタ90-Two』を抜き出して構えた。そして銃の安全装置を外す。
『シズちゃん、僕が必ず助けるからね』
伸田は囚われの静香を想い、愛しい彼女の救出を心に誓った。
そして彼は、無念の内に死んでいった親友達の顔を胸に思い描いた。
SITの隊員達もまた、苦楽を共にしてきた仲間達に無残な死を与えた殺戮者に対する復讐の炎をメラメラと燃やしていた。
それぞれの思いを胸に、山中の製材所を舞台にした戦闘のゴングは今にも鳴ろうとしていた。
時刻は3時30分、冬の夜明けはまだ遠い…
【次回に続く…】
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