【R-18】ヒッチハイカー:第25話「どうしても南へ行きたいんだ…」23『戦いの舞台は再び「夕霧橋」へ!「電脳世界の魔女」は、怪物を阻止出来るのか⁉』
「ちっ! 厄介な槍を持ち出しやがって! それに、あのお化けムササビも面倒だ…
もう、こいつらと戦うのはヤメだ! 俺はシズちゃんと自分の子を取り戻して南を目指す!」
白虎が新たに繰り出して来た武器、魔槍『妖滅丸』によって、空を飛べるように進化した自分の身に新たな脅威が迫った事を知ったヒッチハイカーは、白虎や伸田達との戦闘を放棄する事にした。
新たな進化によって飛行能力を手に入れたとはいえ、ただでさえ、自分自身の肉体における不死身性が弱まっているのだ。
これ以上の白虎との戦闘継続は己が身を滅ぼしかねないと、ヒッチハイカーは危惧したのだ。この期に至っての、彼のこの判断は正しいと言えるだろう。
自分のプライドを捨て、皆元 静香と彼女の胎内に宿る新たな命の奪取へと集中する事にしたのだった。
「今回はこれぐらいにしておいてやるぜ! あばよ! 虎野郎!」
負け惜しみとしか思えない捨て台詞を言い放ったヒッチハイカーは、空中停止飛行中の『黒鉄の翼』の周辺空域から離脱し、再び『木流川』の上流にある『夕霧橋』へと向かって飛び去った。
「逃がすかよ、トンボ野郎! 野衾、来い!」
白虎が命じると、『黒鉄の翼』から少し離れた空中に浮かんでいた飛行妖怪『野衾』が白虎の元へと近寄って来た。
白虎は猫族特有のしなやかな身ごなしで、ひらりと『野衾』の背中に飛び移った。
「行け! 急いでヒッチハイカーを追え!」
白虎が『野衾』に命じた時だった。
「待って下さい!」
白虎が振り向くと、そこには複座型の『黒鉄の翼』の後部座席から外へと出て来た伸田が、狭い機体上で危なっかしく吹雪にフラフラと身体を揺さぶられながらも、毅然とした表情を浮かべた顔を白虎に向けて立っていた。
「バカ野郎! 今はグズグズしてられねえんだ! 一刻も早く後を追わなきゃ、空飛ぶ力を身に着けたヒッチハイカーの野郎は『夕霧橋』に戻るつもりだ! そうすりゃ、お前の恋人がまたヤツに…」
白虎の話を途中で伸田が遮るようにして言った。
「だから、僕が行くんです! 僕が恋人の静香を護る! 二度と彼女をヤツの手に渡すもんか!」
「だったら、お前は『黒鉄の翼』で来い。」
「駄目です! 『黒鉄の翼』じゃ小回りが利かないし、搭載されてる武装も今のヤツには簡単に躱されてしまう。そのムササビ妖怪に僕も乗せて下さい!」
「お前… 『式神弾』は残り一発なんだろ?
ヒッチハイカーの野郎は、本物のトンボみたいに自由自在に空を飛ぶ能力を手に入れちまったんだ。残念だがハッキリ言って、お前がたった一発の『式神弾』でヤツにとどめを刺すのはもう無理だ…
ヤツをこの山岳部から外の世界へ解き放つ訳にはいかねえんだ。後は俺に任せろ。」
「嫌です! ヤツのとどめは僕が…」
伸田は懸命に白虎に訴えた。
「甘ったれるな! もう、お前の個人的な感情に付き合ってなんかいられねえんだ!
野衾、急げ!」
「ぎゃあああー!」
白虎が命じると、飛行妖怪『野衾』は雄叫びを上げながら『黒鉄の翼』から離れ、ヒッチハイカーの飛び去った方向目指して飛行を開始した。
伸田は『黒鉄の翼』の機体の上に取り残され、吹き荒れる吹雪に晒されて一人佇んでいるしかなかった。
「僕が甘ったれか… きつい言い方だよな…」
伸田は、白虎が自分に向けて言い放った言葉に打ちのめされていた。
「そうじゃないのなら、早く『黒鉄の翼』の中にお入りなさい。そんなとこに、いつまでも立ってたら凍え死んでしまうわよ。さあ、早く!」
突然『黒鉄の翼』の操縦席から聞こえて来た女性の声に伸田は振り返った。見ると彼が座っていた後部座席側では無く、白虎こと風俗探偵の千寿 理が座っていた操縦席側の前部キャノピーが開いていた。
伸田は女性の声に導かれるまま操縦席に乗り込み、シートに座った。
「千寿所長は、これ以上あなたを危険な目に遭わせたくなかったのよ。だから、あんなきつい言い方をしたのね。彼の気持ちを分かってあげて。」
伸田が座ると同時に、先ほどの女性の声が再び伸田に語りかけてきた。だが、その声は『黒鉄の翼』の完全自立思考型AIの『スペードエース』の聞き覚えのある声では無かった。
「この声って、スペードエースの声じゃない…」
首を傾げた伸田が操縦席でつぶやいた。
「そう、私は『スペードエース』でもAIでもないわ。風祭聖子という生身の人間の女性よ。今、私のいる事務所からの通信であなたに話しかけているの。
私の職業は、新宿カブキ町の『千寿 理探偵事務所』の秘書よ。そう、あなたもよくご存じの白虎こと風俗探偵の千寿 理所長の秘書をやってるの。
今は詳しく私の自己紹介をしている暇は無いけど、その『黒鉄の翼』も人工知能の『スペードエース』も私と私の父が作ったものよ。『ロシナンテ』の人工知能である『ロシーナ』もね。
ふふふ、驚かないでもいいわ。私は博士号を持つ科学者でもあるのよ。
今夜あなたが『黒鉄の翼』に出会ってからの出来事は、『スペードエース』を通して全て私のいる探偵事務所まで映像も音声も送られて来てるわ。それに悪いけど…伸田伸也君、あなたの事も調べさせてもらった。だから、私はあなたの事を全部知っているのよ。
さあ、『黒鉄の翼』でヒッチハイカーと白虎達を追うわよ。あなたはそのつもりなんでしょ?」
伸田は風祭聖子と名乗る女性の話を、ただ口をポカンと開けて聞いているだけだったが、彼女の『追う』という言葉を聞いた途端、思考がハッキリとした。
「ええ、お願いします! ええっと、風祭…聖子さん…」
「ふふふ。聖子でいいわ、ノビタ君。
じゃあ、飛ばすわよ! アイアンウイング、GO!」
正直に言って伸田は、自分の現在置かれた状況が分かった様な分からない様な複雑な気持ちだった。だが、声だけとは言っても伸田にとって、この突然現れた風祭聖子という女性は救世主の様なありがたい存在だと言えた。
白虎に置いて行かれた自分を、理由は不明だったが『黒鉄の翼』と『スペードエース』の創造者だと名乗る女性が、ヒッチハイカーと白虎の追跡を手伝ってくれると言う。
この際、伸田にとって、彼女からの申し出はまさしく渡りに船だったのだ。伸田は一も二も無く彼女の申し出に飛びついた。
「はい!」
操縦席に座ったとは言っても、初めて乗る伸田に『黒鉄の翼』を操縦出来る訳がない。だが、彼の乗った機体は勝手にヒッチハイカーと白虎達の飛び去った方向へと向けてツインティルトローターの角度と回転を調整し、速度を徐々に加速させていった。
「安心していいわよ、ノビタ君。アイアンウイングは私が事務所から遠隔操縦してるの。加速するからGに注意して!」
『このテキパキと指示を送って来る風祭聖子という女性… 千寿さんの秘書だって言ってたけど、いったいどういう人なんだろう…?
でも…この際、彼女の事を信じる以外に無い。とにかく先行するヒッチハイカーや白虎さんに追いつかなきゃ…』
そう思いながら伸田は、操縦席のフロントガラスに吹き付ける吹雪の中の闇を透かし見る様にして前方に眼を凝らした。
********
「鳳さん… あの『『妖滅丸』』っていうおかしな槍… あ、あの槍からあなたが言った様に本当に妖怪が出て来ました… ですが、自分には、まだ信じられません…」
『夕霧橋』の近くに駐車している『ロシナンテ』の車内後部座席で、隠密追跡ドローン『ハミングバード』から配信されてくるライブ映像を液晶モニターで見つめていた県警SITの島警部補が、運転席に座る鳳に話しかけた。青ざめた彼の顔は、信じられない物を見たという表情で引きつっていた。
隣の座席に座る皆元 静香も、島と同じ表情を浮かべてゴクリと生唾を飲み込みながら、鳳の方を見つめていた。
「君達は、この期に及んでも、まだ信じられないモノがあると言うのか?
魔界の怪物と化したヒッチハイカーの存在や、陰陽師でもある私の使役する式神はどうなんだ? あの神獣白虎などは、君達の信じる常識では神話や伝説にだけ登場する存在なのでは無いのか?
それらは皆、今夜一晩だけで一度に君達の眼前に現れたんだから、理解するのが難しいのは仕方が無いが、すべて現実に存在し起こっている事だ。この世の中には、人知の及ばぬ不思議な事などいくらでもある。
あの魔槍『妖滅丸』も、『妖滅丸』の中から現れた飛行妖怪の野衾も信じ難いだろうが現実に存在している。
今、再び皆元さんの元へ向かうヒッチハイカーを追って、白虎を乗せた野衾もじきにここへやって来る。」
鳳の話を聞いた静香は、暖房の効いた暖かい車内で毛布にくるまれているにもかかわらず、寒気が身体を襲い鳥肌が立った。
「あいつがまた、ここへ来る…」
静香はヒッチハイカーに拘束されていた時の恐怖を思い出し、震えながら血の気を失った唇でつぶやいた。
「ロシーナ! ヒッチハイカーの、この地点への到着までの時間は? それと白虎の乗る野衾はどうだ?」
鳳が、万能装甲戦闘ビークル『ロシナンテ』の頭脳である完全自立思考型AIの『ロシーナ』に問いかけた。
「飛行タイプのヒッチハイカーが当地点に到着するまで、約5分。マスターの乗った野衾は3分遅れて到着すると思われます。」
『ロシーナ』が感情の起伏の無い声で鳳に答えた。
「なら、我々は白虎の到着までの3分間を、ヒッチハイカー相手に持ち応えなきゃならんと言う訳か…」
そう鳳がつぶやいた時だった。
『鳳 成治さん! こちら、風祭 聖子! 応答して下さい!』
突然『ロシナンテ』の車内に『ロシーナ』ではない女性の声が響き渡った。
鳳が、その声に反応して顔を上げた。
「風祭さんだって? どうして、あなたが?」
この非常時における突然の思いもかけなかった女性からの呼びかけに、鳳は仰天した。
鳳は、この千寿の探偵事務所の秘書をしている風祭 聖子という女性をよく知っていた。
********
彼女はただの秘書として千寿に雇われ、彼の下で働いているだけの存在では無かったのだ。カブキ町にある千寿探偵事務所の入ったビルその物を所有するオーナーでもあったのだ。
そして、何よりも驚くべきなのは『黒鉄の翼』の設計と開発は、科学者である彼女自身によるものだったのである。そして、車体そのものは多くの車を愛する技術者によって作られた『ロシナンテ』の、事実上の頭脳と言える完全自立思考型AI『ロシーナ』の開発も、彼女が主体として関わっているのだった。
『千寿探偵事務所』において秘書の仕事を始める前の風祭 聖子は、アメリカのMIT(マサチューセッツ工科大学)で三つの博士号を取得した科学者であり、ハーバード大学の医学部で医学博士の資格も取得していた。
そして、もう一つ驚嘆すべきなのは、彼女が世界でも数本の指に入ると言われる天才ハッカーであり、世界中のコンピューター関係者は正体を知らぬままに彼女の事を『電脳世界の魔女』と呼んで、その存在を恐れている事だった。
内閣情報調査室の『特務零課』という、日本国内における唯一の公的な諜報機関の実質的ボスである鳳 成治でさえも、彼女には一目も二目も置いているのだった。
これまでにも『特務零課』の扱う案件に、鳳の旧友である千寿を通じて彼女の助けを借りた事が少なからずあったのだ。
********
「現在、私はカブキ町の『千寿探偵事務所』にいます。この会話は、うちのスーパーコンピューター『MOTHER』を介して、そちらの『ロシーナ』に解読不能の暗号通信で送っているの。
逆に『ロシーナ』と『黒鉄の翼』のAI『スペードエース』を通じて、うちの所長が関わってからの、そちらの今までの状況は全て把握しています。
いよいよヒッチハイカーとの戦いは大詰めの様ね、鳳さん。」
新宿カブキ町から送られて来た暗号通信は遅滞なく瞬時に解読され、はきはきとした歯切れのよい女性の声が『ロシナンテ』の車内に流れた。
それを聞いた鳳 成治がときどき頷いているのを、後部座席に座る皆元 静香とSITの島警部補の二人は緊張した面持ちで見つめていた。どうやら、この二人は旧知の間柄の様だった。
「風祭さん、こちらの状況が分かってるのなら説明の手間は省く。
もう間もなく、飛行能力を手に入れた怪物ヒッチハイカーがこちらに到着する。飛行する以前のヤツならいざ知らず、今のヤツには『ロシナンテ』の火力では対抗出来ない。
トンボの様な動きをするヤツにいくら照準を付けても、あの素早い飛翔能力では着弾する前に躱されるのがオチだ。
ヤツの狙いは、私の後ろに乗っている皆元 静香さんという女性だ。ヤツは彼女と彼女の胎内にいる赤ん坊を手に入れるために必死で最後の特攻を仕掛けるつもりの様だ。
風祭さん、あなたに何か良い策があったら教えて欲しい。」
鳳ほどの常に冷静沈着でクールな男が教えを乞うている、この風祭 聖子と名乗る女性は何者なのか、後部座席に座る二人は気になって仕方が無いのだが、ただ黙って聞いている他に仕方が無かった。
「|陰陽師でもある、あなたお得意の結界でヤツを閉じ込めるのよ。」
「そうは簡単に言うが風祭さん、ヤツを封じるための大きさの結界を張るためには私がこの『ロシナンテ』から出なければならないし、ヤツが私が結界を張る間おめおめと手をこまねいて見ているはずが無い。
不死身の千寿と違って、生身の私などはヤツの猛毒性の溶解液を浴びればイチコロで溶けてしまう。私の武具である『ヒヒイロカネの剣』は、現在貸し出し中だ。」
鳳が彼には珍しく自嘲めいたセリフを吐いたので、後部座席の二人が大きく開いた目で顔を見合った。
「すみません、僕が鳳さんから『ヒヒイロカネの剣』を借りているから…」
鳳の話に答える様にして、恋人の伸田の申し訳なさそうな声が流れて来て、静香は思わず微笑んでいた。
現在の自分が置かれている状況が危険であるにも関わらず、愛する人が無事だったのを自分の耳で確認する事が出来て、とにかく静香は嬉しかったのだ。
そんな静香の明るい表情を見て、娘の喜びを見る父親の様な気持ちになった島警部補の顔にも微笑みが浮かんでいた。
「みんな、良く聞いて。
ヒッチハイカーが『ロシナンテ』のいるそちらの場所にたどり着いた時点で、その『夕霧橋』一帯を巨大な結界で包み込むわ。」
「何だって?」
聖子の発言を聞いた人々すべての口から異口同音に似た疑問の声が上がった。『ロシナンテ』の車内にいる3人だけでなく、『黒鉄の翼』に乗った伸田も同様に声を上げていた。
風祭 聖子の言う、『夕霧橋』一帯をも包み込むという『巨大な結界』とは果たして?
********
「くっそう… なかなか追いつけねえ!」
飛行妖怪『野衾』の背に乗り、先行して『夕霧橋』を目指すヒッチハイカーを追う白虎が焦りの唸り声を上げた。
「このままじゃあ、ノビタの彼女が危ねえ! 急げ、野衾!」
「ぎゃああああっ!」
白虎の叱咤激励に野衾が悲鳴にも似た鳴き声で応じた。野衾にしても、ちょうど都合良く追い風となっている吹雪に乗りながら懸命に飛行しているのは、白虎にも分かっていたのだ。しかし、昆虫のトンボに匹敵する機動力を発揮するヒッチハイカーの飛翔能力には及ばなかった。
両者の間隔は離されはしても、詰まっていく事は無かった。
「くそ! 俺が着くまで持ち応えてろよ、鳳!」
後は白虎自身の愛車である万能装甲戦闘車『ロシナンテ』の戦闘力と、それを使いこなす鳳 成治の手腕を信じるしかなかった。
「とにかく急いでくれ、野衾! 頼むぞ。」
********
「『夕霧橋』一帯を結界で包み込むって… そんな事、陰陽師である私にだって出来ないぞ、風祭さん。そんな事が出来る人物と言えば、現在の日本には私の親父くらいしかいないぞ…」
目の前にいない風祭 聖子に対して、鳳 成治が首を捻りながら言った。そして、自分の実の父でもある近代日本における最強最大の陰陽師、安倍賢生の顔を頭に思い浮かべた。
「そう、あなたのお父様は今そこにはいない。ヒッチハイカーを封じ込める『結界』…いえ、『疑似結界』とでもいうべき空間を、その地域一帯に機械的に作り出すのよ。」
今の風祭 聖子の発言を聞いた者達は全員、自分の耳を疑った。直接彼女と話をしていた鳳だけでは無く、『ロシナンテ』車内にいるSITの島警部補と皆元 静香はもちろんの事、ひとり『黒鉄の翼』の操縦席で会話に耳を傾けていた伸田もびっくり仰天したのはいうまでも無かった。
「『疑似結界』…?」
聞いていた全員が異口同音に同じ疑問をつぶやいた。
「ええ、そう。鳳さん、あなた達の様な陰陽師の様な術者が作り出す『結界』が現実に魔界の存在に対して有用な効果を発揮するのは、今この話を聞いているみんなが全て承知しているはずよね。
『結界』とは、霊的な能力を持つ者がその力を用いて生じさせた、悪霊などの外敵を排除し侵入させない霊的な壁に囲まれた空間を言うのよ。逆にその『結界』の中に邪悪な存在や異質な存在を封じる(閉じ込める)事も可能なのね。
鳳さん… 私は以前にうちの所長が、あなたのお父様のご自宅で繰り広げた『ライラ』と不死身の怪人『バリー』との戦いの際に苦しめられた『逆結界』の働きを、科学的に解明し応用出来ないか自分なりに研究してみたの。
その結果として、『結界』の全てを解明出来たわけでは訳では無いけれども、現在の科学で似た様な現象を起こせる事が分かったわ。
技術的な事をグダグダと説明しても時間の無駄だから、ここでは省略するわね。とにかく、電磁波と超音波を応用した技術だとだけ言っておくわ。
その現代科学の魔法を、あなた達のいる『夕霧橋』を舞台に起こして見せようというわけ。分かった?」
風祭 聖子と主として会話している鳳だけでは無く、聞いている誰にも分かるはずがなかった。
ただ、すごい事が起こせると彼女が自信を持って言っているのだけは、何となくだったが全員に理解出来た。
彼女が語るのは、科学的に作り出した『疑似結界』を用いて魔界の存在と化した怪物ヒッチハイカーを封じ込める… そういう壮大な作戦だという事を。
********
「ゲギギギ… 見えてきたぜ、俺が作り出した巣がある『夕霧橋』が。
あそこには俺の嫁さんのシズちゃんと、生まれてくる俺達二人の子供がいるんだ。俺は二人を連れて暖かい南へ行く。そこで三人で幸せに暮らすんだ。
そして、もっと子供を増やして俺の家族だけの王国を作る。俺が大好きだった母さんと成し遂げられなかった幸せな生活を、今度こそ築き上げるんだ。
だから、俺がシズちゃんを連れて行くのを邪魔するヤツらは…皆殺しにしてやる。」
ヒッチハイカーは背中の4枚の翅の羽ばたきを強くし、『夕霧橋』を目指してまっしぐらに飛んだ。
********
こうして、参加する全ての者達が様々な想いを抱きながら集結する決戦の場は、再び夜明け前の『夕霧橋』を舞台に繰り広げられる事になる。
吹き荒れる吹雪の中に白く煙る『夕霧谷』に、今まさに最後の戦いのゴングが鳴り響こうとしていた。
【次回に続く…】
この記事が参加している募集
もしよろしければ、サポートをよろしくお願いいたします。 あなたのサポートをいただければ、私は経済的及び意欲的にもご期待に応えるべく、たくさんの面白い記事を書くことが可能となります。