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僕の心に降る雨に、君という光が射した…

そうだったね…

いつも僕のそばには
君がいたんだ
いつだって君は
僕だけを見ていてくれた

なぜ僕は
もっと前に、その事に
気付かなかったんだろう…?

僕には仲間なんていない
必要無いんだ
いつも孤独な一匹狼
それでいい…
そう自分で思い込み
誰に対してもきばをむいていた
あの頃…

理不尽な連中に歯向かい
いつも寄ってたかって
ひどく殴られ蹴られて
傷つけられ追い回されて
必死で逃げて
逃げまくって
転んで、また傷ついて
血まみれの泥だらけになった

そんな僕が
地面から見上げると
いつもそこに
心配そうな顔をした君がいた

僕は強がって
顔から血と涙をぬぐうと
すぐに君に背を向けた
誰にも弱みを見せたくなかった

そして…
意固地いこじになった僕は
負けるとわかってて
また理不尽りふじんに立ち向かい
ボコボコにされ
半殺はんごろしの目に

そして
傷つき疲れ果て
ボロ雑巾ぞうきんの様になって
水たまりに顔を突っ込み
横たわる僕に

君が差し伸べた手に
握られていた白いハンカチ…

僕は身体を起こし
ふるえる手で
君からハンカチを受け取り
口から流れる血をぬぐ
痛む首をかしげて
君にたずねた

 「何で君は
 いつもそうやって
 倒れた俺のそばにいるんだ?
 ボロボロになった俺を
 見てると面白いのか?」

僕を見つめた君の
華奢きゃしゃな肩が細かくふるえ始め
大きく見開いた目から
ポロポロと涙があふれ出す

 「どうして…?
 なんで、君は泣くんだ?」

半分ふさがった眼を開き
不思議そうに問いかける僕に
泣いてる君は答えないまま
クルリと背を向けて
雨の中を走り去って行った

地面に彼女のかさ
さかさになって落ちていた
ぎゃく向きの傘に
しとしと降る雨が
少しずつまっていく

「なんだよ…」

僕が彼女を怒らせたのか…?
いや、彼女は泣いていた…
僕が傷つけたのか…?

僕はふと…
右手に握ったままだった
血のにじんだハンカチを見た

そういえば、あの時も…
記憶がよみがえる

前にもボロボロになって
土砂降りの雨の中
泥だらけの地面で気を失い
目がめた僕は
建物の屋根の下…
濡れない場所で寝ていたんだ
空はいつの間にか
晴れ上がっていた
でも僕には
冷たい水まりにかりながら
気を失った記憶しか
残っていなかった

誰かが僕を運んでくれたのか?
そう言えば
泥の中から引きずって来た
跡が残ってる
それに身体中びしょびしょに
濡れていたのを
誰かが拭き取ってくれた様だった
この季節にあのままじゃ
きっとこごえていただろう

痛みに顔をしかめ
起き上がろうとした僕の胸から
白いハンカチが一枚
ひらりと地面に落ちた

誰のだろう…?
僕をここまで運んでくれたヤツ?
ハンカチはとても清潔で
いいにおいがした

女ものか…?
女がこの僕を引きずって
ここまで運んだってのか?
大柄おおがらで気を失った僕は
とても重かっただろうに…

それよりも
どうして僕を…?

「はっ!」

雨に打たれながら
僕の中でフラッシュバックしてた
あの時の記憶が
今と重なって消えた
そして僕は
ハッキリとさとった

このハンカチは
あの時と同じにおいがする
そうか…
あの時も彼女が僕を…

他にも心当たりがある
いつも彼女は僕を…
見ていてくれたのか
そして僕を
何度も救ってくれたんだ

無謀むぼうで怖いもの知らずの
先が鋭くとがった一匹狼で
いつもボロボロの傷だらけで
無様ぶざまに地面にいつくばってる
この僕を…

僕は濡れたハンカチを握りしめ
落ちていた彼女のかさを拾い上げると
よろよろと立ち上がった

彼女に礼を言わなきゃ…
そして
彼女の気持ちを確かめたい

彼女の僕に対する気持ちが
今僕が彼女に感じている
この胸の高まりと同じなのかどうか…

どうか…
同じであって欲しい

今、僕の胸は
彼女へのおもいで痛いほど
激しく鼓動が高まっている

この気持ちと同じかどうか
彼女の口から確かめたい…

僕はいつも孤独で
愛や温もりと無縁な
飢えた一匹狼だった

いや…
今の今まで自分で
そうとしか思っていなかった…

でも、ひょっとしたら…

ひょっとしたら
そんな僕を彼女が変えてくれる?

ずいぶんと身勝手だけど
そんなあわく切ない期待が
僕の高鳴る胸にこみ上げてくる…

まだ遅くない…
彼女を追いかけよう…

僕は彼女の走り去った方角へ
ふらつく足で歩きだした

 「お願いだ、待って…
 僕の話を聞いてくれ…
 君の話も聞きたい
 もっと君を知りたいんだ」

いつの間にか僕は
傷だらけのよろめく脚で
泥だらけの地面をみしめ
雨の中を走り出していた

雨はだんだんと
小雨こさめに変わって来た
空が少しずつ
明るさを取り戻していく…

ひょっとしたら…

この現実の雨と同じ様に
いつも僕の心に降っていた雨も
むのかもしれない

彼女の存在が
いつも涙の雨が降っていた
孤独だった僕の心に
光をさしかけてくれるかもしれない

僕は彼女のハンカチを握りしめ
身体中の痛みを忘れて
雨上がりのぬかるみの中を
懸命に走っていた

彼女という…
たった一つの太陽の光を求めて
走り続けた

ただ、ひたすらに…

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幻田恋人
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