風俗探偵 千寿 理(せんじゅ おさむ):第21話「恐るべき伝説の超金属! 『オレイカルコス』」
「バシッ!」
俺は超音速で飛来したモノから間一髪で頭を躱し、それを右手で掴んだ。
右手に握りしめたそれは、ライラが俺に放った鞭だった。
「何て奴だい… バリーのあの突進をいなして、あたしの超音速鞭を二度まで躱した挙句に片手で受け止めやがった…
しかも、白虎の指先が青白く光ってやがる…
何なんだあれは…?」
ライラの悔しそうなつぶやきと疑問の声が、彼女から十数m離れた位置に立つ俺の耳にはっきりと聞こえてきた。俺の聴覚なら100m離れた場所の蚊の羽音でさえ聞き取れる。
「ふっ… ライラにバリー、残念だったな。
昨日までの俺なら、この時点でお前達にやられていたかも知れない。
だが、俺も成長したってわけだ。決してお前達が弱いわけじゃない。
相手が悪かったな。」
俺は二人に聞かせようと思って言ったわけでは無く、無意識に自分に対してつぶやいていたのだ。
ライラが俺の右手に握られた鞭を奪い返そうと引っ張ってきた。
プロレスラーどころではなく、人間としては信じられないほどの並外れた怪力で彼女は鞭を引っ張るのだが、俺の右手はピクリとも動く事は無かった。
俺は自分の右手に握った黄金色をした鞭を、前にライラと戦った時と同じ様に噛み千切ってやろうと口に咥えて牙を当てた。
「二度と悪さを出来ない様に、こんな玩具は壊してやるぜ。」
俺はライラに向かい、そう言って口に咥えた鞭を嚙んだ。俺は噛み千切ろうと顎の筋肉にグッと力を入れた。
「ん…? 嚙み切れない…?
そんなバカな… 俺の強靭な白虎の顎と牙で噛み切れない物など、この世にあるはずが…」
だが実際、何度牙に当てた鞭を噛みしめても噛み切れないのだ。
鞭は弾力があり、ある程度は口の中で形がへしゃげはするのだが、それ以上は俺の強靭な顎で噛みしめられる牙が食い込むのを拒むのだ…
「こんな事が…」
俺には信じられなかったが、事実なのだから仕方が無い…
「あはははは! 不思議そうな顔しちゃって、可笑しい!
可愛いよ、そのあんたの間抜けな表情。
何であんたの牙で一昨日みたいに、あたしの鞭を噛み切れないか不思議でしょうが無いんだろ。
その秘密を教えてやろうか?
その前に、これを食らいな!」
「バリバリバリバリィッ!」
「ぐわっ!」
鞭を噛みしめていた俺の口中に衝撃が走った。鞭の端を握っていた右手も同様だった。
その衝撃で、鞭を嚙んでいた俺の牙も鞭を掴んでいた右手も一瞬にして痺れてしまい、鞭を放してしまった。
俺から解放された鞭はライラの元へと瞬時に引き戻されていった。
「な、何だ…電気? くそっ、電磁鞭か…」
そう口走りながらも俺の口からは、まだ痺れが取れていない。
「その通りだよ、白虎! この新しいあたしの鞭は500万ボルトの高電圧を発生させられるんだよ。普通の人間なら即、ショック死するほどのね。
いくら不死身のあんただって、死なないまでもショックは受けるだろうさ! 実際、鞭を放したんだからねえ…
あははははは!
あんたにも電気ショックは効くと見えるね。」
「くっ!」
俺はライラの鞭で電気ショックを浴びた上に、自慢げな口調の彼女のしゃべりを聞いて腹が立って当然のはずだが、あの鞭を白虎の牙で噛み切れなかった事の方にショックを受けていた。
「フフフフ…
あんたのそのショックを受けた不思議そうな顔、可愛いったらありゃしない…
メスのあたしがオスのあんたを犯してやりたいぐらいだ。
それじゃあ教えてやるよ、この鞭の秘密をね。
この鞭はねえ、バリーの角に被せてあるカバーと同じで超金属『オレイカルコス』製の糸で編んであるのさ。
『オレイカルコス』は現在の科学技術では生成不可能で、元素記号にも含まれちゃいないけど地球上で最も固い金属さ。
そのくせ展性もあって、どんな形状にも成型させられる。しかも面白い事に、その一度成型された形状は物理的な力では二度と変形出来ないのさ。
例え、ギリシア神話の神々達の力を持ってしてもねえ…」
俺はライラから聞かされた話に驚きを禁じ得なかった。ライラから見れば、きっとまた俺は間抜けな顔をしている事だろう。
だが… 俺も耳にした事はあるが、伝説の金属とされていた『オリハルコン』の恐るべき実態を現実にこの目で見、しかも実際に俺の牙が文字通り歯が立たなかったのだ。
満月期の俺の牙と顎を持ってすれば、厚さ1㎝の鉄板でも穴を開け噛み千切れるのにだ…
このライラとバリーの二人共が『オリハルコン』製の武器を持つとなると、相当厄介な敵となる。ただでさえ、手に負えないヤツらなのに…
「ブモオオオッー!」
おっと、バリーの奴が怒り狂って立ち上がりやがった。
まったく…
もう少し寝てろってんだ。
「ふふふふふ… あたしとバリーの二人に加えて『オレイカルコス』の武器…
これはどう見ても、あんたに分が悪いわね。
土下座して謝るって言うなら、命だけは許してやってもいいけど…
あんたがそんな玉じゃないって言うのは分かってる。なるべく苦しまない様に殺してあげるわね。
あたしね、本当はあんたの事を気に入ってたんだ。でも、仕方ないわねえ…
あんた見てると興奮して濡れてくるんだけどなあ、あたし…」
ライラが嘘かホントか、少し潤んだ様な瞳で俺を見ながら言った。
「ふっ… 嬉しい事を言ってくれるじゃないか、ライラ。
そんなこと言われたら、俺も嬉しくて勃起しちまうぜ。」
俺はまんざら嘘でも無くそう言ったのだが…
「あんた… ふざけるんだったら、今すぐ殺すよ!」
怒りに任せてライラはそう言うが早いか、『オリハルコン』製の鞭を有無を言わさず振るいやがった!
俺は、さっきバリーの猛突進を躱した時の様に瞬時に空中に向けて飛び上がり、空中で身体を後方に二回宙返りし一回ひねる体操競技で言う『ムーンサルト(Moonsault)』を披露してライラの鞭を間一髪で躱した。
「ちっ! ちょこまかと!」
ライラの鞭が容赦なく何度も超音速のスピードで、俺をめがけて襲って来る。
『ふっ… お前、あの女に何か悪い事でもしたのか、理よ。
ありゃ異常じゃぞ…』
俺の頭の中で林大人が面白そうに話しかけてきた
「けっ、あんたの軽口に付き合ってる余裕なんて無えよ!」
『馬鹿者! あんな超金属だかオレカル…コだか知らんが、攻撃が当たらなければどうと云う事もないわい。
ほれ、またお前は目を開けとる! 瞑らんか、この馬鹿者!』
林大人が俺の頭の中で好き勝手にガミガミ言いやがる。
「何だ、人の頭の中に勝手に居つきやがって…このクソジジイが…」
『理よ、何か言ったか…?』
「い、いや… 何にも…」
あーっ、俺はこの戦いの最中に何やってんだ…
俺はボヤキながらも目を瞑った。
しかし、目を瞑った途端… 俺の視覚を補う他の感覚が凄まじいほどの働きを始めた。
まるで、指令室に備え付けられた各管制装置のモニターに全ての情報が飛び込んでくるように、周囲の全ての情報が俺の脳に集中した。
ライラが俺に超音速鞭を放つ姿、バリーが空中から俺の着地する地点に回り込んで二本の角で俺に狙いを付ける姿、鳳 成治が残りのオニどもを2丁のベレッタM92をぶっ放して次々に葬っている姿…
音、匂い、空気の流れ…
目を瞑っても他の四つの感覚はもちろん、もう一つの感覚…第六感とでも言うべき超感覚が加わった情報が、俺の脳に目で見るよりもはっきりとしたヴィジョンで飛び込んで来る。
周囲の全ての状況を、俺の脳は一瞬で把握した。
俺は天井を両足で蹴って一瞬で自分の跳躍の方向と角度を変え、身構えていたバリーの背後に回り込んでヤツの背中に俺の強靭な爪先蹴りを叩き込んだ。
またもやバリーが前方に向かって、腹ばいの体勢で床に吹っ飛んだ。
そして、着地した俺を狙って放たれたライラの鞭を紙一重で躱す。
バリーが素早く立ち上がり、俺に向きを転じた。
俺はもう一度床を蹴って空中に大きく跳び上がる。
林大人仕込みの無明陽炎拳の稲妻の様な動きを使った空中殺法で、俺に付いて来れるヤツなどこの世に存在しない。
しかし、俺は疾風の様な素早い動きで逃げているばかりで、二人に対して打つ手がないのも事実だった
すると、空中を飛び回る俺に対して銃を撃つのを中断した鳳が、銃に替えて右手に何か棒状の物を掲げているのが俺の脳に映った。そして鳳は、俺に対して何か言っている…
「千寿っ! これを使え! これならヤツらの『オリハルコン』に対して有効なはずだ!」
そう叫んだ鳳が俺に対してというよりも、空中に向けて手に持った棒状の物を放り投げた。
「何だ? 貴様、何を投げたっ?」
ライラが叫びながら鳳 成治の投げたモノを空中で弾き飛ばそうと、超音速鞭を放った。
「そうはいくか!」
俺は文字通り疾風の様な動きで、旧友の放り投げたモノをライラに鞭で弾かれる前に右手でしっかりと受け取った。
俺がその棒状のモノを掴んだ瞬間だった…
この地下二階のフロア中に、そのモノを握った俺の右手から眩く青白く輝く光が迸った。
それはまるで、近くに雷が落ちた様な眩い光だった…
目を閉じた俺でさえ、瞼を通して青白く輝く光を感じた。
「何だ、この光は…?」
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