「いつも、どうやって記事書いているの?」同僚の編集者に聞いてみた。
意外に知らない他人の「書き方」
同じ雑誌の編集部で働いていても、編集者同士、普段は「どうやって仕事しているの?」という会話を交わすことは、意外にもほとんどない。
雑誌の編集者は、筆者から原稿をもらうだけでなく、自らインタビューや座談会などの記事を書くことも多い。しかし、それぞれの編集者がどうやって書いているのかは、謎に包まれている。当然といえば当然で、「書く」というのは1人で完結する作業だからだ。
しかし、他の編集者が何を考えて文章を書いているのか、気になる。脳の中を知りたい。気になったら聞かずにはいられないのが、編集者である。
そこで、面倒くさい奴と思われることを覚悟して、「文藝春秋」編集部の人びとに、「どうやって文章書いてますか?」というインタビューを行うことにした。
忙しそうな先輩たちにお願いするのは怖いので(笑)、まずは、編集部最年少の20代女性編集者・後藤さんに話を聞いてみた。編集部では、「後藤さんの文章にはこだわりが感じられる」という高い評価を得ている。
最近は、以下の記事などの構成を担当した。
後藤さんが大切にしているポイントは4つあるという。では、さっそく聞いてみよう。
編集者っぽい後藤さんのデスク。
【ポイント1】「読む」「真似する」から始める
--後藤さんは原稿を書くのが上手い印象がありますが、元々、文章を書くのは得意だったんですか?
子どもの時は、書くのが好きでした。でも、会社に入ってから、苦手意識が芽生えてきて、一気に好きじゃなくなりました(笑)。
--初めて原稿を書いた時のこと、覚えていますか。
はい。入社1年目に週刊文春に配属されたんですけど、秋以降、短い原稿(ワイド記事)を書かされるようになりました。
--最初から上手く書けましたか?
全然書けませんでした。いざ原稿を書こうと月曜日(※週刊誌の原稿を書く日)に席につくんですが、驚くことに何から書けばいいのか、何をどの順番でどう書けばいいのかが、全く浮かんでこなかったんです。
そもそも、週刊誌を読んだこともないのに週刊誌の部署に配属され、当時は特に興味もないまま取材をしていたので、毎号の記事を読んでいませんでした。すいません。だから「書け」と言われても、書けるはずもないですよね。
--(笑)。それで、どうしたんですか?
とりあえず、いろいろな記事をコピーして読んで、真似をして書くことから始めることにしたんです。文章を書く時にためらっている人は、「真似すること」がポイントだと思いますね。
ちなみに、私の同期に「原稿の天才」と呼ばれるくらい文章が上手い子がいてコンプレックスを抱いていたんですけど、悔しい気持ちを抑えつつ、その子が書いた記事をよくコピーして読んでいました。
--その後、週刊誌から月刊誌に異動しましたよね。記事のテイストも、文体も週刊誌とはまったく違う。その時はどうやって対応したんですか?
「文藝春秋」に配属された当初も、それまで(「文藝春秋」の)記事をまったく読んでなかったので、思考停止しました(笑)。
だから、会社の資料室に籠もって、バックナンバーを読みまくりました。「文藝春秋」には、色々な分野の記事が掲載されているのですが、あらゆる分野の記事をコピーしました。
「なんでこの記事は面白さがバシバシ伝わっているのか」
「なんでこんなにスラスラ読めるのか」
「なんでこの記事は読み終わってもモヤモヤするのか」
「自分ならこの部分はどうするか?」
「どういう言葉が足りないのか?」
インプット・アウトプットの両方の視点を意識しながら過去記事を読みまくり、「いいな」と思う記事を真似するようにしていました。
--効果はありましたか?
ありましたね。こういう地味な反復作業を続けていると、1年くらい経ったところで、「この原稿だとこう書くのが基本パターンなんだろうけど、違うふうにやっていこうかな?」と、急にオリジナリティーを生み出す心の余裕が出てくるんです。そうなると、書くことがだんだん楽しくなってくるというわけです。
【ポイント2】構成は「考えすぎない」
--次は、ちょっと技術的なことを聞きますね。僕は、記事を書く時は結構細かく構成を作ってから書き始めるようにしているんだけど、後藤さんはどうですか?
私は、そこまでIQが高くないので(笑)、最初から「完璧な構成」が思いつかないタイプなんです。
昔は、村井さんのように構成を緻密に考えて、最初から順番に書いていたんですが、途中で一度「つながりの悪さ」に気が付いてしまうと、そこで思考停止しちゃったんです。自分で最初に作った「型」=構成にとらわれたまま、ドツボにはまってしまう。そうなると、私は原稿をそのまま放置し続け、あっという間に数週間が経過します。すると、いらだちを隠せないデスクからの「後藤、原稿まだ?」という催促が始まる……という負の循環に陥ってしまいます(笑)。
なので、私の場合、構成は3つくらいだけふわっとメモしておく感じ。「巨大な枠の中」で柔軟に対応できるようにしておくイメージです。
例えば、この間、担当させてもらった田中圭さんのインタビューの場合だと、「映画のこと→現在のこと→これまでの人生」くらいの構成を作って、書きました。
記事の構成を記した紙。シンプルだ。
【ポイント3】一番楽しい、面白いと思う部分から書き始める
--そもそも論ですけど、文章を書くことは楽しい? それとも辛い?
基本的に原稿を書くのは、億劫な作業ですよ。書く前は憂鬱な気分になるし、書いてる途中もしんどいし、デスクに提出する時も憂鬱になる。だから、みんなダラダラやっちゃうし、〆切も守れないんだと思います(笑)。
--(笑)。〆切を守るため、面白く書くためには、どうすればいいですかね。
まずは、原稿を書くために自分の気持ちをアゲることが大事なので、私は、「自分が一番好きな部分」「読者に面白いと思ってほしい部分」から書き始めるようにしています。
それを記事の冒頭に持ってくる、ということじゃないです。構成の話じゃなくて、「着手する部分」という意味です。
だって、書くのがしんどい部分に最初にとりかかって、ダラダラ悩み続けるのは時間の無駄じゃないですか(笑)。
例えば、構成を担当させていただいた、田原総一朗さんと萩原欽一さんの対談記事の場合、私は「運・鈍・根」のエピソードが一番好きでした。結局、あのエピソードは中盤に置いたんですけど、私はそこから書き始めました。
自分が一番好きなパートを完璧に仕上げると、いつも「なんて面白い原稿なんだ!!」と謎のカタルシスを感じるんです。そこさえビシッと書ければその原稿は成功したも同然(笑)。2番目に好きな部分にとりかかるか、そこから流れを拡大させていき、最終的な原稿の形態に持っていきます。
【ポイント4】「違和感」を大事にする
--推敲はどうしていますか?
原稿をある程度まで書き上げたら、村井さんがnoteに書いていたように、一旦コピーして、新鮮な気持ちで眺めて(読んで)みます。
その時に一番大切にするのは「違和感」です。
「何か繋がりが悪いな」
「説明不足、要素不足だな」
という違和感を抱いた部分に印をつけ、「なぜ自分はそう感じるのか」「どうしたらそうならないのか」を考えるようにしています。
今、推敲をしている時に、この「違和感」を抱けるようになったのは、昔、ひたすらに過去の記事を読む作業をしたからだと思っています。たくさん読んで、自分の中に、上手い原稿の「引き出し」を増やしてきたからこそ、この違和感が身についたのだと思います。
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編集者が100人いれば、仕事の仕方も100通りある。後藤さんの話は、「なるほど」「それは使えるな」と思わせる部分も多かった。
引き続き、機会があれば、他の人の話も聞いてみようと思う。
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