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なぜ、社会課題解決にビジネスが必要なのか。そして、その先にあるもの。

GEMSTONEで、事業デザイナーをしている今尾江美子です。GEMSTONE事業参画前の2014年~2017年、JICAという国際協力機関で官民連携を担当していました。JICA(官)が、日本企業(民)と協力して、途上国の課題を解決するのがミッションです。具体的には、日本企業がビジネスを通じて、途上国の課題を解決するという取り組み(BOPビジネスやSDGsビジネスの実践)に対して、資金的・非資金的支援をするプログラムの立ち上げや運営をしていました。

今回は、その中で感じた、世界の課題解決に、なぜ官民連携なのか?なぜビジネスなのか?について書きたいと思います。そして、その先にある「豊かさ」とは何かについて。

農村の人が豊かになるには?

「貧困削減」は、SDGsでも最初のゴールに置かれる、世界の最重要課題です。貧困層の多くは途上国の地方部にいて(もちろん都市部にも貧困層は多い)、農業を営んでいたりします。地方の零細農業に貧困層が多い、という方が適切かもしれません。だから、貧困削減に対する一つの解決策は、農家の所得を上げること、と考えられています。

そこで、JICAのような公的機関は、農作物の収穫量を増やしたり、品質を上げるための技術的な支援をします。専門家を派遣したり、設備を整えたり、トレーニングしたり。同じ面積から収穫できる作物の量が2倍になれば、単価が同じでも収入は2倍になる。量が変わらなくても品質が上がれば、より高く売れて収入が上がる。他にも、作る作物を変えるとか、分散させるとか、様々な方法があります。

さて、品質が上がる → 高く売れる → 所得が増える、というこの流れ。品質が上がれば、必ず所得が増えるのか?実際には、公的機関の支援で品質は上がった、でも所得は上がらない、ということが起こったりします。なぜか。このロジックは「品質が上がったら、ちゃんとそれに見合った高値で買ってくれる」買い手の存在が前提になっていますが、実際はそうとは限りません。そして、この部分は公的機関だけで解決できず、ビジネスとの連携が必要になってくるのです。

世界のあらゆる社会課題に、公的機関だけで解決できるもの、ビジネスだけで解決できるものは、限られています。それぞれの強みを活かしてうまく連携することで、もっと多くの課題がもっと早く解決できる。その可能性が広がると思っています。

所得が上がると、豊かになるのか?

そして、もう一つ。いま、農村の人たちを豊かにするために所得を上げる、そのためにビジネスとの連携が大切だ、と書きました。しかし、果たして、所得が上がると豊かになるのか? 貧困な人の所得が増えれば、豊かになるし幸せになる。それは、もしかしたら「先進国」と言われる国にいる私たちの思い込みかもしれない。それを、インドネシアのカカオ農園で思い知らされたことがあります。

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そこではカカオの品質を上げて、ちゃんと高く買ってもらえるようになっていました。所得も上がった。だから「収入が増えてよかったね」と言ったら、こう返されたのです。「収入が増えたことはもちろんよかったけれど、それは一番大事なことではない。自分の作ったものをちゃんと評価されること、自分の仕事に誇りを持てること、それが一番大事なんだ」と。その言葉は胸に刺さりました。

ある程度の生活をするために、お金は大事。お金で解決できる問題はたくさんあるから。でも、所得が上がったから幸せになるとか、豊かになるとか、それはまた別の問題。それは、むしろ先進国という「豊かな」国にいながら、必ずしも幸福とは言い切れない私たち(もちろん個人差は大きいです)が一番わかっていたかもしれないのに。

所得を上げれば、貧困は見た目上、解決できるかもしれない。でも、そもそも貧困削減が、人々の豊かさや幸せのためであるならば、所得向上だけでは十分ではないかもしれない。途上国の人たちも、当たり前だけど、自分たちと同じ人間で、お金以外に豊かさや幸せを感じていたりする。

社会課題解決とは、社会課題の先にいる人を自分と同じ「人」として見られるか。官民連携の前に、それが出発点、という気がしています。

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(文:今尾江美子)


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