インドネシアの新型コロナ状況と現地医療系ベンチャーの活動
「ギギさん達、どうしてるかな。私たちにできることあるかな?」
去年、日本人のCo-Proメンバー(※)と共にインドネシアの医療系ベンチャーであるWeCare.id(※)の事業展開を支援した。オンライン・遠隔と現地渡航2回を組み合わせた3ヶ月の活動。そのメンバーとのオンライン対話会でこんな声があがった。
そこで急遽きまったオンラインミーティングで、インドネシアの社会起業家本人が、現地の様子や活動の様子がリアルを語ってくれた。文章でどこまで伝わるかは疑問だけれど、自分が受け取ったことを書きたいと思う。
今回は、GEMSTONEの代表で、国際事業家・ビジネスプロデューサーのひできが書きます。
※Co-Pro: GEMSTONEが主催する新興国ソーシャルベンチャー共創プログラムの略称「Co-Pro =Co-Produce, Co-creation Programから」。プログラムでは3ヶ月間、現地の社会的企業との共創プロジェクトを行う。
※WeCare.id: インドネシアにおいて経済的制約のある患者を支援するためのオンライン・クラウドファンディング・プラットフォームを運営。ソーシャルベンチャー共創プログラム「Co-Pro」第二弾 共創団体
Web: https://wecare.id/
WeCare.idの新型コロナ対策活動紹介VTRは以下
メンバーの発声から数日後にミーティングが開催
「今、ギギさん(Wecare.id CEO)達頑張ってるよね。どうしてるかな。私たちにできることあるかな?」
Wecare.idの活動を知ったメンバーからそんな声があがった。
その翌日には過去のプロジェクトで使用したチャットグループでメッセージが送られ会話が始まり、日本サイドは調整さんでスケジュールが組まれ、ZOOMアドレスが発行され、数日後にオンライン会議が開催された。それが昨晩だった。
インドネシアからの参加は医療系ソーシャルベンチャーであり、Co-Pro第二弾の共創団体であったWe Care idのCEOギギ。Mr.Wellnessと私が勝手に呼んでいる彼は、困難な状況にいる患者さん達と日々向き合っているにもかかわらず、我々と話す時はいつもWell beingな姿だ。笑顔、気さくさ、そして軽やかだけどはっきりとした人としての芯がある。
「インドネシアの新型コロナ状況は?政府対応は?
それは法的措置なの、自粛呼びかけなの?
We Care idはどんなことしているの?ギギは元気?みんなは元気?」
たくさん、気になることがある。知りたいことがある。オンライン会議でインドネシア・日本を繋ぐのはCo-Proメンバーの基本動作。初めから壁はない。
ギギ(We Care id CEO)とCo-Proメンバーとの会話--------------------------
インドネシアの新型コロナ状況は?
・インドネシアは新型コロナ感染者数が9000人超、死亡者700人超。Large Scale Social Distancing(都市閉鎖のニュアンスでこの言葉を遣っていた)が大都市部エリアの4地域で取られている(※1)。ジャカルタ、バンドン、スラバヤが含まれるエリア、、、。徐々に警戒態勢は強化されており、現状では5月末まで国内・国際線共に停止の措置まで来ている。希望的には、6月から緩和されるという見通しがある。また、インドネシア特有の問題として、今はイスラム教のラマダン(断食)の時期であり、イフタール(※2)の集いで感染拡大が進んでしまうという懸念がある。現在のジャカルタの様子は、店、レストラン、モールは営業しているところもあり、人の移動もある(但し、夜の営業は行われていない)。市民の数に対して、取り締まるほどの十分な警察の出動は無い(※3)。
※2020年4/23-5/23、※日没を迎え断食を破り、家族・友人、もしくは見知らぬ人同士で集まって水や食事を摂る行為、※3:本人の発言のまま記載の為、現地政府の発表等についての正確な情報は別途ご確認ください
医療系ベンチャーWe Care idの活動
・We Care idは、病院向けPPE(Personal Protective Equipment、個人防護具)の配布を行っている。新型コロナ前は、保険でカバーされない患者さん向けの医療系クラウドファンディング・プラットフォームのみの運営だったが、今は会社を医療物資の物流センターとして、日々配送を行っている。在庫管理も物流のオペレーションもかなり上達した。
この活動はどこから始まったのか?
・この活動はまず病院からの要請を受け入れる(Open up requests)ところから始めた。2000の病院から要請が入り、その声を基にキャペーンを作った。そして、この課題に貢献する意思のある企業や団体、個人の寄付を集めた。次に、PPEを調達できるベンダーを探し、調達し、病院からの要請に沿って配布を始めた。今では、結果として病院向け資材配布のハブになっている。150のベンダーからPPEを調達し、3社の物流会社と提携し、これまで700の病院へ配布した。
政府、病院が対応できない領域
なぜこの活動をWe Care idが行うのか?政府、病院が対応できないのか?
・政府の対応には限界がある。まず数が不足している。一つの病院あたり15のPPEを配布する政策を取ったが、15では例えば20人の職員がいると既に数が足りない。十分ではない。また、(確固たる根拠を取るのは難しいが)汚職の問題なども動きを歪めている。
・病院には既存のPPEベンダーがもちろんいるが、今回の様な急激な需要増には、地域の小さなベンダーは対応しきれない。在庫も不足している。PPEを準備できるベンダーから調達して配布できるルートが必要だと考えた。
We Care idが、対応できるているのはなぜ?
・一つは、必要なパッケージで届けていること(Complete package)。例えば、マスクのみの配布では、身体を守れないが、自分たちは病院の要請に応じて必要なものをまとめて送ることを行っている。
・第二は、PPEの質の担保。認証されたPPEのみを送付している。PPEを寄付する活動も他にもあるが、質が低く感染リスクあるものが届くケースがある。
・第三は、寄付者への報告(Reporting)を真剣に行っていること。元々自社で運営していたクラウドファンディングの寄付者(企業・団体、及び個人)が寄付やパートナー探しで力になってくれている共に、彼彼女らがインフルエンサーにもなってくれている。
We Care idの強み(このパートのみ筆者考察)
僕なりに上記が実行できていることをWe Care idの強みとして整理する。
以下の4点が相互作用していると考えられる。
1. We Care idの医療現場知見及び関係性
(既存業務で病院をパートナーとしており、パイプ有り。
また、創業メンバーに医師がいるなど医療に明るい)
2. クラウドファンディングで培ったキャンペーン力
3. 寄付者報告・関係性構築力
4. 真面目にオペレーション・改善を積み上げる力
今必要なことは?次に必要になることは何か?
・PPEはある程度行き渡ったように見えている。病院向けは、今の物流体制を活かして、例えば食料の配布など次に必要なものを考えている。また、ノンフォーマルセクター(※)の労働者、例えば市場に野菜を運ぶ人のような人、は仕事が減ると共に感染リスクも高い。彼彼女らに資金的・物資的支援を考えていきたい。
※解説:雇用や医療の保険などに入っていない労働者。経済活動としての登録も無いケースが多い。一般的に、開発途上国ではこのセクターが大きい。対義語はフォーマルセクター(政府、企業、登録されている団体など)
We Care idの既存事業は運営しているのか?影響は?
・これまでやってきた医療系クラウドファンディングも継続して行っている。今回、新型コロナ対策で立ち上げた医療系物資配布の活動で寄付者が急激に増えている。ネットワークも拡大し、世の中への認知も高まっている(※)
※解説:ギギやWe Care id自身は目の前の事業に懸命で、既存事業への影響を計算し尽くして動いている訳では無いと推測されるが、今回の動きが結果として既存のクラウドファンディング事業の飛躍につながる可能性が高い。インドネシアのヘルスケアのインフラの一つとなる事は、元々のWe Care idの目指すものであり、その北極星が今の動きを導いていると見える。
今、我々(Co-Pro日本チーム)にできる事はあるか?
・アイデアとして今思いつくのは、以下。
1. 寄付:日本からインドネシア向けに寄付を募る。寄付可能性がある団体・人の紹介など。但し、日本でも新型コロナとの闘いがあるので、これが適切かは分からない
2. いかにWe Care idの活動を加速・強化できるかアイデアなどの提供
・Co-Pro日本チームは一旦持ち帰って、チームで議論を持ち、アイデアややれる事を練ることとした。
-------------------------------------ギギとCo-Proメンバーとの会話ここまで
この一連の動きをみて自分が思うこと
一夜明けて。インドネシアも日本も同じ感染症と闘っているという事、インドネシアの仲間が今彼らにしかできない素晴らしい動きをしているという事、そこへ様子が知りたい・力になりたいと連絡を取るCo-Pro仲間がいて、楽しく真剣に会話ができているという事。その事に想いを寄せるだけで胸が熱くなり、涙腺がゆるむ。
自分にとっては、インドネシア社会起業家、Co-Pro仲間一人一人が「勇者」であり、素晴らしい存在。Co-Proという場に、それぞれの目的を持って参画してくれ、その先にしっかりとつながった関係性が残っている。そして、必要な時にまた役割を持ち直そうとしている。自分も勇気をもらい、ベストを尽くそうと思わせてくれる。今だから、自分だからできる事を、できる形でやっていきたい。 そんなことを思う春の空。
(We Care id向けにCo-Proチームが現地で実施したワークショップの様子。2019年8月)
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