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2024年ノーベル化学賞 ~コンピューターを用いたタンパク質の設計と構造予測~
2024年のノーベル化学賞は、デイビッド・ベイカー教授(ワシントン大学)とデミス・ハサビス氏、ジョン・ジャンパー氏(共にGoogle DeepMind)に授与されました。3人の研究は、計算によるタンパク質設計とAIを用いたタンパク質構造予測に関するもので、生物学や医薬品開発の分野に大きな影響を与えると期待されています。
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https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/
デイビッド・ベイカー教授は、コンピュータープログラム「Rosetta」を用いて新しいタンパク質を設計する技術を開発しました。彼の研究は、アミノ酸の配列から新たなタンパク質の構造を予測し、それを実際に合成することを可能にしました。
一方、デミス・ハサビス氏とジョン・ジャンパー氏は、AIモデル「AlphaFold」を開発しました。このモデルは、タンパク質の立体構造を高精度で予測することができ、従来の方法では数年かかっていた解析を短時間で行うことが可能です。特に「AlphaFold2」は、その精度が約90%に達し、バイオサイエンスや創薬分野に革命的な影響を与えています。
ノーベル賞選考委員会は、これらの業績が「人類にとって最大の利益」をもたらすと評価しています。この受賞は、AI技術が科学研究において重要な役割を果たしていることを示しています。
では、2024年のノーベル化学賞を受賞したデビッド・ベイカー氏、デミス・ハサビス氏、ジョン・ジャンパー氏のそれぞれのアプローチについて説明します。
デビッド・ベイカー氏のアプローチ:タンパク質の設計
デビッド・ベイカー教授は、タンパク質の「設計」に焦点を当てています。彼の研究の特徴は、自然界には存在しない新しいタンパク質を設計することにあります。通常、タンパク質は20種類のアミノ酸から構成され、その配列が決まると自動的に特定の立体構造をとり、生命活動に必要な機能を発揮します。しかし、ベイカー教授は、既存のタンパク質を模倣するだけでなく、全く新しい機能を持つタンパク質を計算を通じてデザインしました。
具体的には、彼が開発した「Rosetta」という計算プログラムは、アミノ酸の組み合わせから新しいタンパク質の構造を設計するのに使われています。この技術により、医薬品やワクチン、ナノマテリアルなど、さまざまな応用が可能となる新しいタンパク質を生み出しました。特に「Top7」という、全く新しい構造を持つタンパク質は、既存のタンパク質とは異なる設計が可能であることを示す重要な成果です。
ベイカーのアプローチは、自然界に存在しないタンパク質をゼロから作り出すという点で革新的であり、この技術は医療や産業分野での応用が期待されています。
デミス・ハサビス氏とジョン・ジャンパー氏のアプローチ:AIを用いたタンパク質構造予測
一方、デミス・ハサビスとジョン・ジャンパーは、タンパク質の「構造予測」に注力しました。タンパク質の機能はその三次元構造に依存していますが、アミノ酸の配列から正確にその立体構造を予測するのは、長い間未解決の課題でした。過去50年にわたり、多くの研究者がこの問題に取り組んできましたが、従来の方法では精度が不十分でした。
この問題を解決したのが、ハサビスとジャンパーが開発したAIモデル「AlphaFold2」です。このモデルは、深層学習技術を駆使し、タンパク質のアミノ酸配列から正確な三次元構造を予測することに成功しました。AlphaFold2は2020年に発表され、これにより約2億種類の既知のタンパク質構造がほぼ完全に予測可能になりました。AlphaFold2の予測精度は非常に高く、抗生物質耐性メカニズムの解明や、環境問題解決に向けた酵素の設計など、さまざまな応用が進んでいます。
彼らのアプローチは、これまで手作業や実験的にしか解明できなかったタンパク質構造を、計算のみで迅速かつ正確に予測できるという点で革命的です。
アプローチの違いと相互作用
ベイカーのアプローチは、全く新しいタンパク質を設計することに重点を置いているのに対し、ハサビスとジャンパーのアプローチは、既存のタンパク質の構造を正確に予測することに焦点を当てています。これら2つのアプローチは、互いに補完的な関係にあります。AlphaFold2のような予測技術により、デザインされた新しいタンパク質の機能や構造が正確に評価できるようになり、さらに高度なタンパク質設計が可能となります。
これらの技術が組み合わさることで、タンパク質科学の新しい時代が到来し、医療やバイオテクノロジー分野での応用がさらに拡大すると期待されています。
以下のサイトは、AlphaFoldで計算したタンパク質構造のデータベースです。興味のある方は覗いてみて下さい。
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