聖フランチェスコとの出会い

アッシジの語学学校には日本人が一人だけいた。

シスターの卵だという。修道院に住んでいる。

まず私は彼女が「俗人じゃない」ことに安堵した。基本、日本人留学生は日本人に優しくないのだ(個人的見解)。そして疑問。シスターの卵として修道院に住んでいるって…なぜそんなことに?修道院って…見たい!

「来ますか?」と彼女…シスター名キアラ(仮名、アッシジなのでもちろんキアラ)は言ってくれた。ヤッター!

私が2か月通っていたイタリア語学校は生徒の9割が聖職者だった。知らなかったがアッシジの多くの建物は修道院なのだそう。学校が終わった後、キアラは修道院に連れて行ってくれた。ぞろぞろと同じ修道院に帰る仲間たちはみんな韓国人だった。私たちは習いたてのイタリア語で話した。

修道院でお昼をごちそうになった後、キアラが院内ツアーをしてくれた。僧服をまとってない私に対して、シスターたちは笑顔で歓迎してくれた。自室まで見せてくれるキアラ。まだ会って2日目なのに。隣にある礼拝堂はこじんまりして家庭的。手作りレースの花瓶敷きとか。土産屋で買ったようなタペストリーとか。キアラたちは毎日ここでお祈りをしている。

キアラは足立区で生まれた。実家は普通に仏教。なぜシスターを目指しているのかと問うと、小さいころから教会に通っていて、自然にこうなった、とのこと。

全く理解できなかった。つまり環境だけで信仰心が育ったということか。信仰心についても聞いてみたが、もっと理解できなかった。「思し召し」「呼ばれた」という言葉が何回か出てきた。まあ仏教でいうところの縁、だよね、と。

おいとまして、広場のベンチで頭を冷やす。なんも分からんかったな…

私の住んでいる町には教会がない。だからキリスト教になじみがない。環境なら分からなくても仕方ない気はする。この2、3年前に初めてアッシジを訪れた時、恥ずかしながら私はここがフランシスコ会の総本山だということ、さらに言うなら聖人フランチェスコのことも、全く、知らなかった。単純に、わーここ、なんか地元(岐阜県)に似てる!めっちゃいい!と一瞬で好きになった。そして鈍いのであんなばかでかい大聖堂も特に何も思わず観光していた。

フランチェスコが気になりだしたのは町から離れたところにあるサンタマリア・デリ・アンジェリ教会に併設された美術館。ここにフランチェスコの像があるのだが、その手の上に白いハトが乗っていたのだ。

眼をこらすと、ハトは本物だった。嘘みたい。餌がまいてあるに違いない。と思いながら、私はフランチェスコが好きになった。そういえば『地球の歩き方』に書いてあった。「自然を愛した聖人」。なんて素敵なんだ。ハトもフランチェスコが好きなんだわ。私もハトだったら作り物でもいいからフランチェスコの手の上に乗りたい。美術館のお土産売り場で、フランチェスコのブロマイドと、キーホルダーを買った。キーホルダーは帰国後に職場の歯科技工士さんにお願いしてネックレスにしてもらった。

だからフランチェスコ会のシスターというのが、羨ましかった。

いいなあ。私もなりたい。

しかしそんな動機でなるものではないことくらいは私でも分かる。この後、私のカトリックへのあこがれはわりとしつこく続くことになる。