【童話】ばくら②《クマ田さんのクリスマス》
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森に落ち葉が舞う秋がやってきました。赤、オレンジ、そして黄色……。たくさんの落ち葉は、まるでカーペットように地面を彩っています。
「ほほう、秋がどんどん深まりますね」
ここは『ばくら屋』。自分が見たいと思った夢を自由に見ることができるばくらという枕を売っているお店です。
森一番のさいほう名人バク山さんは、お店の前をホウキで掃きながら、空を見上げました。
「さて、今日も1日頑張りましょうかねぇ」
この後、バク山さんには大きな仕事が待っていました。
★☆
「クマ田さん、こんにちは!! お邪魔いたしますね」
バク山さんが訪れたのはクマ田さんというおじいさんクマのお家でした。体はビックリする位大きいけれど、優しくて力持ちのクマ田さんは、森のみんなの人気者。そんなクマ田さんは冬眠の準備で大忙しです。
「やあ、バク山さん。今日は来てくれてありがとう。では早速お願いしますね」
「かしこまりました」
バク山さんは家に入ると、カバンの中からメジャーを取り出し、クマ田さんの体のサイズを計り始めました。
「クマ田さん、去年よりも一回り体が小さくなりましたよ」
「そうですか。ハハハ……きっと年を取ったからでしょうな」
「クマ田さんにはまだまだ元気でいてもらわなくては困ります。これから作るばくらで冬眠中にしっかりと体を休めて下さいね」
そう……バク山さんは、これから何ヵ月も眠るクマ田さんのばくらを作るために、ここへやって来たのです。彼の大きな体にピッタリで、長い眠りに耐えることができる特製ばくらを。
「おや?」
バク山さんは、テーブルの上にある1冊の本に気がつきました。雪が降っている夜空をソリに乗ったサンタクロースが駆け抜けている表紙で、それはクリスマスの本だということが分かります。
「クリスマスが来る頃には、私はとっくに眠っていますからね……」
クマ田さんの口調は、ちょっとだけ寂しそうでした。
「そうですよね」
「……だから、ばくらで楽しいクリスマスの夢を見ようと思い、こうやって本を読んでおります」
「そうですか……。クマ田さん、まかせて下さい! 冬眠中、素敵な夢をたくさん見ることができるように、心をこめて特製ばくらを作りますからね」
バク山さんは、自分の胸をポンと叩きました。
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バク山さんは、ばくらのだけではなく、クマ田さんのかけ布団やしき布団も、心をこめて作り上げました。
「よしっ! できたぞ!」
ふかふかの布団にふかふかのばくら。それを見ているバク山さんの心はホクホクです。
「ほほう! いい眺めですな」
そして布団とばくらををヒモでしばって1つにまとめると、バク山さんはリュックのように背負いました。
「よっこらしょ! さあ、出発しましょう」
行き先は、もちろんクマ田さんのお家です。
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「ん?」
森の中を「えっさほいさ」と歩いているバク山さん。小鳥たちのさえずりや虫の声が聞こえている中に、誰かの話し声がまざっていることに気がつきました。
「おやおや、あれはブタオくんとウサキチくんではないですか!」
声がする方へ進んだバク山さんは、2人の姿を見て驚いてしまいました。なぜなら仲良しのはずのブタオくんとウサキチくんが、ものすごい目でにらみ合っていたからです。
「ブタオくんが悪い!」
「ぼくは悪くない!」
どうやら2人はケンカ中のようです。
「まあまあまあまあ、2人とも落ち着きましょう!!」
おせっかいだとは分かっていましたが、ただごとではない空気を感じたバク山さんは、思わず2人の前に飛び出してしまいました。
「あ、バク山さん!?」
2人の声が重なります。
「一体どうしたんですか? こんな森の外れでケンカなんかして?」
「ちょうど良かった。バク山さん、ぼくの話を聞いて下さい。ブタオくんったらクマ田さんにひどいことを言ったんですよ!」
ウサキチくんはそう言うと、思い切りほほをふくらませました。
「クマ田さんに? ひどいこと?」
「ぼくはひどいことなんか言っていない!」
ブタオくんも負けてはいません。
「まあまあ。まずはウサキチくんの話を聞きます。その後ですぐにブタオくんの話を聞くので待っていて下さい。私が何を言うかは、2人の話をしっかりと聞いてからにします」
バク山さんは2人の肩を同時にポンポンとやさしく叩きました。
「はい。じゃあ、ぼくから言いますね。ブタオくんはクマ田さんが冬眠することを知っているのに、クリスマスパーティーの話をペラペラと喋ったんですよ!」
「ほうほう?」
「ぼくはお父さんから『クマ田さんは冬眠するから、みんなとクリスマスを過ごすことはできない。だからクリスマスのことは、なるべく話さない方がいい』って言われていました」
「ほうほう。なるほど」
「ウサキチくん、それはおかしいよ! クマ田さんはクリスマスのことを知りたがっていた。みんなが知っていることを、クマ田さんだけが知らないなんてかわいそうじゃないか!」
ブタオくんは目に涙をためながら声を上げます。
「そうですね。はい、よく分かりました。…………ではでは私の考えを言いましょうかねぇ」
軽くせきばらいをしたバク山さん。ブタオくんとウサキチくんはゴクリとつばを飲み込んで、次の言葉を待ちました。
「私はどちらも正しいと思います。ウサキチくんは、クリスマスパーティーに参加することができないクマ田さんに気を使った。ブタオくんは、何も知らないクマ田さんにクリスマスのことを教えてあげたいと思った。2人がクマ田さんのことを思っているのはよく分かりました」
「…………」
「しかし、これだけは言わせて下さいね。2人が自分のためにケンカをしていたことを知ったら、クマ田さんはまちがいなく悲しみますよ」
「……そうですね。ごめんなさい」
バク山さんの言葉で、2人はシュンとしてしまいました。
「分かってくれてありがとうございます。では、仲直りしましょうかね? 私、ちょうど美味しいお菓子を持っているんですよ。そこの木陰にすわって、みんなで食べませんか?」
「は、はい!!」
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「ねぇ、バク山さん。どうしたらクマ田さんもクリスマスパーティーに参加できると思う?」
ブタオくんがおかしをかじりながら言いました。
「クマ田さんも……ですか?」
バク山さんは「う~ん」と首をかしげます。
「クマ田さんは、冬中ずっと眠っているんでしょ? 夢の中に入ることができるバク山さんなら、何とかできるんじゃないかな?」
「そうですねぇ。私に何かできるといいのですが……」
バク山さんが困った顔をして、また「う~ん」とうなろうとした時、
「そうだ!!」
……と何かをひらめいたウサキチくんが、自分の手をポンと叩きました。
「おや、ウサキチくん、何かいいことを考えついたようですね?」
「うん、ドーナツ型ばくらを使って、夢の中でクリスマスパーティーをすればいいと思う。ほら、流星まつりの時みたいに。ねっ?」
「そうか! あの時はみんなで一緒に宇宙へ行った夢をみたよね? うんうん……楽しかったなぁ」
ブタオくんも喜んで話しに乗ってきましたが、バク山さんは残念そうな顔をしています。
「あれは夏だからできたことです。雪が積もっているクリスマスの時期に、外で眠ってしまったら、全員が風邪を引いてしまいます。それに眠っているクマ田さんを家の外へ連れ出すのは、かなりむずかしいと思いますよ」
それを聞いた2人は、またまたシュンとしてしまいました。
「しかし、クマ田さんには楽しいクリスマスを過ごしてもらいたいですよね? その思いは私も同じです。もしかしたら、何かできることがあるかもしれません。いいえ、きっとあります!」
バク山さんは、落ち葉が舞う空を見つめながら、自分に言い聞かせるように言いました。
落ち葉が粉雪に変わる季節はもうすぐです。
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あれから2週間がたちました。バク山さんは「何かいい方法はないか?」と仕事の合間に一生懸命考えていましたが、いいアイデアはまだ見つかっていません。
「う~ん、困りましたね」
ばくの自分が何とできなければ、クマ田さんをクリスマスパーティーに連れて行くことはできないでしょう。
「ふぅ……。私1人が悩んでいても、答えはずっと出ないのでしょうかね?」
考えすぎて疲れてしまったバク山さんは、そのままソファーへもたれかかります。
「ん?」
その時、バク山さんは部屋のはじに置いてある人形に気がつきました。それは赤い服を着て、赤いぼうしをかぶったサンタクロースの人形です。
「そういえば『餅は餅屋』という言葉がありましたよね。クリスマスのことなら、サンタクロースさんに相談すればいいのでは!?」
バク山さんはソファーからすくっと立ち上がると、急いでトランクを探し出し、そのまま旅のしたくを始めました。
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数日分の着替えとおみやげ用のばくらを持って、サンタクロースの国へ出発です。
久しぶりに森の外へ出たバク山さんは、何度も何度も道に迷いながら、先へ先へと進み、5日後には無事にサンタクロースの国へたどり着きました。
「ほほう、やっと着きました!」
赤と緑のカラフルな門を見つけたバク山さん。喜びのあまり「バンザイ!」と両手を上げてしまいます。
「もしもし? あなたはどちら様ですか? この国はサンタ様のお許しがないと、勝手に入ることはできませんよ」
門の前には2人の小人が立っていました。
「これはこれは大変失礼をいたしました。私はバク山という者です。サンタクロース様のお知恵を借りたいと思い、森の中からはるばるやってきました」
バク山さんはていねいにおじぎをします。
「そうですか。見たところあなたに怪しいところはありませんが、サンタ様は、とてもお忙しいのです。バク山さん、申し訳ありませんが、クリスマスが過ぎたころに、もう一度来ていただくことはできないでしょうか?」
「みなさまがお忙しいのは分かっています。そこを何とかお願いできないでしょうか?」
バク山さんは、先ほどよりも頭を深く深く下げました。
「う~ん、困りましたね」
小人たちは顔を見合わせます。
(かわいそうだけど、やはり断ろう……)と小人たちがそう思った時、突然、別の声が飛び込んできました。
「そちらのお客様を私の部屋にお通ししなさい!」
……と。
「サ、サンタ様!?」
そう……その声の主は、バク山さんが会いたがっていたサンタクロースだったのです!!
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「バク山さん、さぁ遠慮しないでどうぞ」
サンタクロースは、バク山さんを自分の部屋に案内し、ソファーに座ることをすすめます。
「ありがとうございます」
めずらしく緊張しているバク山さんは、サンタクロースに言われた通り、部屋の真ん中にある赤いソファーに腰をおろしました。
「サンタクロースさん。今日はお忙しい中、会って頂きありがとうございました」
「なぁに、大丈夫ですよ。いつもならば小人たちの言う通り、クリスマス前は誰にも会いません。しかし森の子どもたちから、こんな手紙をもらっていましたからね」
サンタクロースはコーヒーと一緒に、1通の手紙をバク山さんに渡しました。
あてさきは『サンタクロースさま』。そして差出人を書く場所には『ブタオとウサキチより』と書いてありました。
「ほほう!」
バク山さんは2人の優しさに感動し、涙が出てきた目を思い切りこすりました。
「クマ田さんにはプレゼントをお届けるつもりです。もちろんブタオくんとウサキチくんにもね」
サンタクロースはウインクをしながらワハハハと楽しそうに笑います。
「ありがとうございます。あの子たちに変わってお礼を言います」
「どういたしまして。バク山さんのご用もクマ田さんのことでしょうか?」
「はい、実は……」
バク山さんは、おみやげのばくらをサンタクロースに渡しながら、冬眠しているクマ田さんのことを話し始めました。
「そうでしたか。クリスマスに1人だけ眠っているのは、確かに寂しいでしょうね」
「そうなんです。しかしいいアイデアが思い浮かばないんです」
途方にくれた顔をしているバク山さんと、プレゼントされたばくらを抱きしめているサンタクロース。しばらく2人はだまりこんでいました。
「そうだ!」
サンタクロースが目を輝かせながら、指をパチンと鳴らしました。
「バク山さん、森にばくらを置けばいいんですよ」
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今日はクリスマスイブです。パーティーを終えた森の仲間たちは、楽しかった気持ちと一緒に、ぐっすりと眠ってしまいました。
バク山さんはベッドに入らず、外に出てサンタクロースを待っています。
やがて、遠くからチリンチリンという鈴の音が聞こえてきました。
「おっ! 来ましたか!!」
鈴の音は、あっという間に近くなり、トナカイが引くソリに乗ったサンタクロースが目の前に現れます。
「よーし! 到着!! お待たせいたしました。おやおやバク山さん、その赤い服がよくお似合いですね」
「ほほう! ありがとうございます」
そう……今夜のバク山さんはサンタクロースの衣装を着ていたのです。それなのに、持っているものはなぜか虫取り網。季節がちぐはぐですが、バク山さんに『この格好で待っていて下さい』と言ったのはサンタクロースでした。
「この森のサンタクロースは、私ではなく、バク山さん……あなたですからね。さぁソリに乗って下さい」
「はい、失礼いたします」
バク山さんを乗せたソリは、思い切り天を駆け上がりました。
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あっという間に小さくなった景色を下に、ソリは森をぐるりと一周します。
「バク山さん、雪をさわってみて下さい」
「はい」
バク山さんは言われた通り、降っている雪を手に取ります。
「これは!? わたですね!?」
冷たくない雪……いいえたくさんのわたは夜の森にどんどん積もります。
「ハハハ……。気がつきましたか。バク山さん、おどろくのはまだ早いですよ。次は布を用意しましょう。それっ!!」
サンタクロースが指をならすと、わたの雪がやみ、雲がわれた空からはたくさんの星が顔を出し始めます。
「ほほう! 満天の星空ですね!」
うっとりしたバク山さんでしたが、その夜空がパッと夜色の布に変わり、ストンと森に落ちていきました。もちろんバク山さんはビックリです。
「これで、わたと布は用意できました。最後は針と糸です。バク山さん、今から星を流しますから、お好きな星をあみでつかまえて下さい」
「なるほど!! だから虫取りあみがひつようだと言ってたのですね!!」
サンタクロースの考えをすぐに理解したバク山さんは、ソリに立ち、虫取りあみをかまえました。
サンタクロースが再び指をならすと、たくさんの星が一気に夜空を流れました。バク山さんは目の前にやってきた元気のいい流れ星をつかまえると、そのままソリからジャンプします。
「バク山さーん! 行ってらっしゃい! そのクリスマスばくらは、太陽がのぼったら元に戻りますからね!! それまで素敵なクリスマスパーティーを!! メリークリスマス!」
「サンタクロースさーーん! 何から何までありがとうございました。メリークリスマス!!」
流れ星にひっぱられたバク山さんは、ソリからどんどん離れていきました。
雪のわたに夜空の布。そして星の針に光の糸。材料はすべてそろいました。
流れ星はへびのように動き、布と布の間に入っていきます。光がそれをしっかりと合わせ、1時間後には素敵なクリスマスばくらが完成しました。
「ふう。疲れましたねぇ」
ばくらがしいてある森に戻ったバク山さん。自分の家のドアを開けると、そのままベッドにバタンキューしてしまいました。
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そしてここはみんなの夢の中。
「あ、バク山さんが来た!」
「待っていたよ」
森の仲間が全員でバク山さんを待っていました。
「バク山さん、ありがとう!」
ブタオくんとウサキチくんがバク山さんに抱きつきました。
「ほほう、どういたしまして」
そして3人を見てニコニコしているのは、あのクマ田さんです。
「やぁ、クマ田さん、メリークリスマス!!」
「メリークリスマス、バク山さん。本当にありがとうございました。クマの私がみんなとクリスマスの夜を過ごせるなんて、夢にも思いませんでしたよ」
「これは夢ですけどね」
バク山さんとクマ田さんは大笑いをしました。
クマ田さんは幸せです。
森のみんなも幸せです。
もちろんバク山さんも幸せでした。
《終わり》
最後まで読んで頂き、ありがとうございました🙇♀️
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