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俺の上には空がある広い空が

 著者の桜井昌司氏は、1967年に強盗殺人事件の容疑者として逮捕され、78年に無期懲役が確定した。しかし、物証はなく、取り調べでは自白の強要が行われていた。いわゆる布川事件である。桜井氏は再審請求を行い、11年に無罪を勝ち取った。

 私は以前、同じく無実の罪で逮捕された村上正邦氏が主催する会で、桜井氏とお会いしたことがある。明るい人柄が印象的だった。20歳から冤罪と戦い続け、29年間も獄中で過ごすという経験をしながら、なぜこれほど前向きなのかと驚いた。

 本書にはその答えが記されている。桜井氏は無期懲役が確定したとき、人生が終わったと思うほどショックを受けたが、「今日という日は社会にいても刑務所にいても、どこで過ごしても一日しかない。ならば刑務所へ行っても、一日一日を人生の一日限りの今日として大事に生きよう」と決めた。泣いても叫んでも自由にはなれない。そんな姿を見せれば、自分を犯人に仕立てた警察や検察、裁判官が喜ぶだけではないか。だから、一日しかない今日という日を明るく楽しく過ごしてやろうと考えたのだ(本書46〜47頁)。

 とはいえ、挫けそうになる日もあった。「自由になりたい!」と思い、息ができないほどの苦痛を感じることもあった。そういうときは深呼吸をし、「俺の上には空がある。広い空が広がる。自由な空がある」と考え、心が静まるのを待った(73〜74頁)。

 桜井氏は無実を明らかにしようと苦闘する中で、苦難にあうことは悪いことではないと思うに至った。苦難は乗り越えたときに喜びに変わる。苦難は喜びの種なのだ。「苦難よ来い!」。これが桜井氏の信念である(144頁)。

 19年にはステージ4の直腸癌が見つかり、余命1年を宣告された。しかし、桜井氏は新たな苦難にも屈せず、どうすれば喜びに変わるか楽しんでいるという(同前)。

 本書には、日本の司法の問題点に加え、私たちが日々の生活を豊かに送るためのヒントも詰まっている。(編集長 中村友哉)

(『月刊日本』2021年5月号より)

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書 籍:『俺の上には空がある広い空が
著 者:桜井昌司
出版社:マガジンハウス


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