某国紀

天地創造の神は、一つの書物を授けようと思い立ってそれに相応しい男を探し続けた。もうかれこれ三五〇〇年ほどが経っていた。しかし探しつづけていたかいがあったのかある時、候補の男が3人見つかった。神は暫く時間をかけて試してみようと思い、それぞれの課題を与えてみた。

その課題というのは、それぞれの男の夢の中に神が出てきて一つの書物を取り出し、人々に書かれた言葉を述べ伝えよ、というものだった。

そのうちの一人は売れない作家だった。

夢の中に出てきた一つの書物を述べ伝えよ、というお告げによりこれは売れっ子作家になるチャンスだ! 彼は起床するなりいきなり執筆活動を始めた。どれくらい時間が経ったのだろうか、思い出せないくらい遮二無二筆を進め、ついに完成し、知り合いの編集者がいる出版社に原稿を持ち込んだ。それを読んだ編集者は「これは素晴らしい! 上司と掛け合ってみる。感触が良かったら連絡する」と。

暫くしてトントン拍子で出版への道がひらけて来たと作家の男は期待に胸を膨らませ、ついに発売日を迎えた。その本はベストセラーになった。しかし、SNS上で「これは盗作ではないか?」という指摘が相次いだ。

口の悪い人間からは「これはある本からコピペしただけだ、このコピペ野郎!」と言われたり、更には「自分で勝手な解釈をして、神を冒涜するものである」という声も出ていた。更には「この置換(痴漢)野郎!」などと、評判は散々だった。この作家は様々な指摘を否定し、自分の都合が悪くなれば、訂正の告知をしないまま改定に改定を重ねていった。

天地創造の神は、自分の言葉を正しく解釈してくれる者がいないことに絶望し、怒りのあまり、このベストセラーが世に出たあと、地球上の人類をひとり残らず滅ぼし尽くしたという。

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