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トルロニア・コレクション展(ルーヴル美術館)
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ルーヴルでやっていたトルロニア・コレクション展についてざっくり。日本ではまず観られない水準なのはもちろん、ヨーロッパでも観られません。150年門外不出で公開してなかった特別中の特別なコレクションです。
トルロニア家は例に漏れず豪商から貴族化したタイプの一族で、フランスからイタリアに帰化しました。ナポレオン戦争の混乱期に一気に資産を拡大して、混乱期に衰亡したイタリア貴族から古代彫刻を買い漁りました。そのようなコレクションであり、やや強欲さが背景に見えてきます。
つまりのところルーヴルもイタリアの混乱期にイタリア貴族から古代彫刻を買った(奪った)のが、今のコレクションの源なので、両者のコレクションを辿ると元は同じ貴族から来ているものもあり、いわば姉妹コレクションです。
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看板作品はヤギで、トルロニア・コレクションのホームページでもドンと構えています。毛の柔らかさや滑らかさまで感じる、動物彫刻の傑作です。頭部の表現、髭や髪は英雄の肖像のような貫禄があります。横から見ると重い頭部と軽い胴体のバランスが絶妙に取れています。爪は大理石の特性をそのまま活かしていますね。
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アスリートの肖像彫刻。現代風のムキムキではなく均整のとれた身体、引き締まった緊張感が魅力的です。押し付けがましくない静謐さ、動きを秘めた静止の湛える凛々しさがみなぎっています。お気に入りです。いわゆるローマンコピーと呼ばれるもので、ギリシャ彫刻(大方ブロンズ)をローマが1〜2世紀に大理石でうつしたものになります。
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「じゃあ何すか、全部コピーってことすか?」と言うことになりますが、それはネガティヴな意味ではないと思いますし、ローマらしい個性もちゃんとあります。特に男性の肖像彫刻に見られる皺や傷も含めたリアリズムです。
普遍的な美や観念に走りがちなギリシャと違い、ローマは現実主義的で肖像性がしっかりある像や、服装なども精確に彫り出します。拝む気にはなれずとも、すぐそこにいるかのようなリアリズムに驚くばかりです。
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2世紀には大理石の加工技術はもう最高まで達していたのでは、と思うような大作と優品がてんこ盛りです。
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一瞬ラオコーンかと思ってしまいました。コミカルですね。荘重なものだけが古代彫刻ではありません。
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私たちが思うギリシャ彫刻は概ねローマンコピーであり、ローマのコピーを観てギリシャ彫刻と言っているわけですが、ではローマのオリジナル彫刻もあるのかということになりますが、あることが示されます。第二ブースはそれがメインですが、このような古代彫刻におけるギリシャとローマの違いを示せる展示はそうそうありません。
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例えば牛と火を用い、ローマ帝国下で一時大流行したミトラ教のレリーフがあります。謎の宗教ということで日本語でも文献がありますが、その表紙によく使われているものです。
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特に神話由来でもなく、赤ちゃんを2人抱えたお母さんの彫刻もあります。かなり世俗的な像も盛んに作られました。
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未完のまま残っている巨像はダキア総督の肖像彫刻です。ダキアは黒海の方なので、世界帝国ローマならではの表現で、顔の形や帽子などローマ人らしくありません。このように国際色が感じられることがあります。
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この時点で教科書的な古代彫刻の理解からは離れたものばかりです。それもそのはずで、トルロニアコレクションは長く門外不出だったため、このコレクションの作品を知らないで美術史家たちが古代彫刻論を記述したことによります。
ですからこのコレクションが公開されるようになったことで、古代彫刻についての記述が一部変わるか豊かになることが期待されます。それくらい多様で自由なものです。
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最後は、冒頭に述べた通り元々同じ所有者のものだったがそれぞれ引き取られたという、両コレクションからルーツが同じものが一堂に会していました。200年ぶりの同窓会といった雰囲気です。
魂が何度か飛びかけたいい展覧会でしたし、今後このような形で公開されることはあるのかわからない、稀有な機会だったと思います。
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