【トマトとお祖母ちゃん】 11 プチフルート 2020年12月27日 08:01 僕の祖母は、明治生まれの、強くて明るくて社交的な性格の人だった。小柄で〈E.T.〉を可愛くしたような顔をしていた。大工の亭主との間に、男5人、女2人の子供を生み、7人全員を立派に育て上げた。彼女の社交性は際立っていて、往年、例えば京都旅行に行った時には、英語など分かりもしないのに、見知らぬ外人さんにニコニコと話し掛けては、一緒に写真に収まったりもした。それとは裏腹に実に根性があって「ワシにキ〇〇マが付いとったらのぉ」と言って悔しがることもあった。男性中心の明治社会の中で幼少期を過ごしてきた祖母は、自分が男なら大きな仕事をやってやるのになぁと思ったのだ。息子たちが〈女傑〉と呼んだ程の明治の気概がある女だった。・・・・・・・祖母たち一家は、実は、昭和の激動時代の流れに乗って〈満州〉へと渡った組である。満州では色々苦労をしたようであるが、祖母は持ち前の明るさと根性で生き抜いた。社交性がものをいって、満州人とも上手く付き合ったそうだ。最初は当然、言葉なんて分かる訳がないのだが、そんなことはモロともしない祖母なのである。さて、祖母が市場に〈トマト〉を買いに行った時の話だ。中国の言葉なんて鼻から無視した祖母は日本語一本で勝負をする。「トマトじゃトマト❗️あ~かいえぇ、ま~るいでぇ❗️」そう言ってシッカリとトマトをゲットして帰って来たと、そういう話を祖母の娘、つまり僕の叔母さんから聞いたことがある。・・・・・・・僕が小学生の時お祖母ちゃんに訊いたことがある。「ねぇねぇおばあちゃん!赤ちゃんは結婚したら生まれるよねぇ・・結婚せんかったら生まれんでしょ? なんで?」すると流石の筋金入り明治女も困った顔をして、怒ったように言うのだった。「子供はそんなこと考えんでもええっ❗️」そんなことでタマには困らせたこともあったのだが、僕たち孫には、それはそれは優しい優しい〈おばあちゃん〉だったのである。亡くなってから何年になるのだろうか・・数えることも、もうあまりない。 ダウンロード copy いいなと思ったら応援しよう! チップで応援する #エッセイ #毎日note #イラスト #短編小説 #家族 #ラーメン #昭和 #トマト #明治 #面白い話 #満州 #社交性 #兄弟姉妹 #お祖母ちゃん #引揚者 11