ホーチミン市で本を探す 1:総合科学図書館
私が主催している科研費プロジェクトの援助を受けて、2024年2月19〜24日にホーチミン市でベトナム語学に関する資料収集を行いました。
この研究プロジェクトでは「ベトナム人がどのようにベトナム語を研究してきたのか」を調べたいと思っているのですが、ベトナム語で書かれた書籍や資料は日本の大学図書館には大して収蔵されておらず、日本の本屋でも全く取り扱いがありません。最近はインターネット上で公開される論文や書籍も増えてはいるのですが主に欧米の研究者が英語で書いたものばかりで、ベトナムで発行された論文はまだまだネット上でも見つけることはできません。
つまり、ベトナム語研究に関する資料を見つけたいのであればベトナムまで行って自力で探すしかないのです。ここをクリアできないと研究自体が始まりませんので、非常に重要なミッションなのです。
これまでベトナムでの資料収集は3回行なってきました。コロナ禍が明けてからの初訪問がちょうど一年前ですが、その時の感想を以前noteで書きました。
ハノイでは国家図書館を拠点として資料収集を行なってきました。国家図書館は入館証もすぐ作れるし書籍のコピーサービスにも対応しているため、大量の書籍の中から必要なものをピンポイントに検索できる人にはすごく便利な施設です。
ただ、冬から春にかけてのハノイは大気汚染が凄まじく、呼吸器疾患の持病を持っている身としては健康を損ないながら調査をすることに大きな心理的不安を感じていました。ちょうどホーチミン市(サイゴン)で発行された書籍の集まりも悪かったため、今回は初めてホーチミン市で本を探してみることにしました。
結論から言うと、この選択は大正解でこれまでの資料調査と比べても良質かつレアなベトナム語書籍を何冊も手に入れることができました。折角ですので、これからホーチミン市で書籍を集めたいと思う人に役立つように今回の資料探しについてまとめてみたいと思います。今回はホーチミン市総合科学図書館、次回は市内各地の本屋の二本立てで紹介します。
ホーチミン市総合科学図書館の入館方法と閲覧室
1区にあるホーチミン市総合科学図書館(Thư viện khoa học tổng hợp thành phố Hò Chí Minh)は外国人でも利用可能な大規模図書館です。ベンタイン市場の近くのLý Tự Trọng通りにあり、ホーチミン市博物館に隣接しています。
80年代に建てられた熱帯モダニズム建築の代表であり、質実剛健さと機能性が両立している建物です。私自身、建築は全く詳しくないのですが最近出版された『ベトナム建築行脚』にも収録されています。ちなみにこの本、ベトナム各地の名建築について専門的な観点から分かりやすく説明されていて、歴史や文化に興味を持ってベトナムを訪れる人には必携の書です。
図書館の建物に入っていくと真正面に受付ホールがあります(入館ゲートはありません)。ハノイの国家図書館は入館証がなくても館内に入ることができるため、こちらも大丈夫かなと何食わぬ顔で入ろうとしたら受付のおばさんに止められてしまいました。
さぁ、ここからはベトナム語の能力が必要となります。
私「ここは外国人は入れないの?」
おばさん「外国人は入れないよ!」
私「言語学の本を閲覧したいのだけど、入るための手続きとかはないの?」
おばさん「…あそこのパソコンで情報を登録してから4万ドン払えば入れるよ」
振り返るとデスクトップパソコンが置いてあり個人情報を入力するフォームが開いてあります。ささっと入力してから4万ドンを渡すと、今度は受付にあるPCカメラで写真撮影。それが済んだらあっさり入館証を渡してくれました。
15分くらいのやり取りと手続きで比較的簡単に入館証をゲットできたのですが、受付の人はベトナム語しか話せないため英語だけでなんとかしようとすると「外国人は入れないよ!」のところで終わってしまうと思います。そもそも、この図書館に収蔵されているのはほぼベトナム語書籍ですので、ベトナム語を理解できない人を入館させる意味はありませんよね。
開架閲覧室は受付の左手から入ります。開架図書も結構充実しており言語学の棚には新しく出版された図書が沢山並んでいました。「これは来た甲斐があった」とワクワクするとともに、必要な本を効率的に見つけられるように集中力を高めていきます。
連日30度を越える暑さだったのですが、この閲覧室にはクーラーがかかっていません。「さぞ暑いだろうなぁ」と心配になりますが、壁全面が開放されていて風通しがとても良いため暑さが全くこもりません。特に半屋外のベランダに設置された閲覧席はすごく快適で何時間でも本を読むことができました。
ここまでで図書の閲覧には成功しましたので、次は図書のコピーが頼めるかを確認してみます。閲覧室のスタッフに尋ねてみると外国人用の入館証では図書の閲覧のみ可能で貸出やコピーは不可とのことでした。
となると、わずか数日間の滞在で数千ページは下らない大量の書籍に目を通して、しかも内容を記憶しないといけません。そんな超人的なミッションをこなせる能力はもちろん持ち合わせていないので次の作戦、すなわち「図書館で見つけた書籍の中で本屋で購入できるものは全て買ってしまおう作戦」に移る必要があります。
閲覧室は本当に快適でいつまでも本を読んでいたいのですが、それでは私の記憶できる分の情報しか収穫が得られません。そのため純粋な図書閲覧から「書籍リストの作成→書店巡り」にタスクを徐々にシフトしていきました。
図書館でまとめた図書リストを参考にしながら市内各地の本屋を巡っていくのですが、ここでも色々なコツがあります。次回の記事では書店の効果的な利用方法を紹介していきましょう。