ファイアーエムブレム風花雪月を300時間で3周してからが本番だった話
基本的にネタバレなしで、最後だけちょっとネタバレあり(手前で予告します)という構成にします。
公式サイトからわかる情報では
(公式の情報も見ないでやりたいという人は注意)
というわけで、作りからして興味を惹かれる構成になっています。
私はファイアーエムブレムは「覚醒」しかプレイしたことなくて、にわかの部類ですが、風花雪月はやたらとコアゲーマーからの評価が高く、気になっていました。
発売してわりとすぐに買ってプレイはしてたんですが……私の長考癖も相まって……時間がかかる!周回することで多面的なストーリーが楽しめる、はずなのに、1周に100時間かかってしまいました。
とはいえ、これは多分私が「シミュレーションはターン数を最小化するゲームだ」という(多分戦ヴァルの評価システムに影響された)基準で考え抜いたプレーをしていたためで、もっとサクサクユニットを動かしてターン数を気にせずにやっていれば、そこまで時間はかからないと思います(ゲーム内の「ターン数」を短くしようとすると、現実の「プレイ時間」は伸びるという皮肉)。
1周するごとにまったく違った視点が得られるので、満足感はあるんですが、1周100時間かかってしまうと「流石にちょっと違うゲームやるか……」となって、を繰り返したため、3周するのに結構な年月がかかってしまいました。
以下、とくにネタバレ関係ないゲームの感想としては
音楽:最高
↑はインタラクティブミュージックの説明用ですが、ここに限らず音楽は全編通して良いです。そして何より、テーマとなるフレーズが非常に多彩な変奏をされながらゲーム全体に統一感を持たせ、重要な場面で心に素直に響くように作られています。
クリア後にサントラを買って、そのテーマとなる曲の曲名を見ただけでも、「あぁ……」と納得せざるをえない、ゲーム全体を貫いた楽曲構成でした。
第一部、第二部での音楽的な空気感の変化、そして、キャラクターのボイスの変化にも注目です。1周目はある意味自然すぎて気づきませんでしたが、周回を重ねるごとにこの変化が病みつきになってきます。
3周目をやるのはかなり重い腰を上げる必要があったのですが、その原動力となったのは、とあるルートの最後に流れる「神を屠る星」という神曲でした。これをサントラ買って先に聴いて「一体どんな極限的な状況・物語を作ったらこの音楽を生み出せるんだ??」という気持ちになってしまい、それを確かめたい一心で最後までやりました。最終戦の極限的な状況を含めて、良かったです。ここに違法なリンクを置きたくないので各自でたどり着いて欲しいんですが、オペラなんですよ。ゲーム音楽でガチのオペラ歌手が歌ってる時点でかなり珍しいと思うんですけど、それも純粋なオペラ歌曲というより、非常にゲーム音楽的な高速アルペジオをベースにおいたプログレッシブ・オペラとでも言うべき新ジャンルで、マジで聴いたことがない。この曲を作ったインテリジェントシステムズの森下弘生さんは、同じく私の好きな「交わらぬ道」も作曲しており、多分、リズムのセンスがすごく好き。
キャラクター:非常に魅力的
ストーリーの魅力にも直結するんですが、とにかくキャラクターの描き方が丁寧で、性格やバックボーン含めて魅力的、そして全員顔がいい。
3Dでこんなに完璧な造形の顔を作れているのは、モデルの人が頑張ったんだろうか?とにかく違和感のある角度というのが全然なくて、どこから見ても魅力的です。
これが無かったら300時間やれてなかったと思います。
システム:楽しい
自分は長考しすぎるためにタイムパフォーマンスで考えてしまうと悩みどころですが、それでもマップの中でキャラをどう動かすか、最適解をうまく見つけるとターン数がぐっと抑えられ、それによって武器の耐久消費も温存でき、考えた分の嬉しさがちゃんとありました。
また、「英雄の遺産」「神聖武器」と呼ばれるレア武器の数々も、私はかなり温存しましたが、大切な場面で「仕方ない、伝家の宝刀を出すか……」という気持ちで出すのがメチャクチャ楽しく、作り方としては低コスト(武器のアイコンがちょっと光って、攻撃力や攻撃速度がちょっと強くて、少しだけ特別な技が使えて)なのに、ものすごい高揚感があるという、美しいゲームデザインであると感じました。
UI:概ねわかりやすい
戦闘中のUI表示などは洗練されており、無駄がないと思いました。
一方、(UIってどうしてもダメな所ばかり指摘されて損な役回りですが……)配備する騎士団を選んでいる時に必要な指揮レベルが見えなかったり、不便な点はいくつかありました。
アニメーション:本家を見習ってほしい
これが最も不満なところで、ファイアーエムブレム覚醒で見られたような、見ているだけで気持ちが良いアニメーション、というのがほとんどありませんでした。
キャラクターが最も活躍する「戦技」を使うシーンも、アニメーションの使いまわしが多く、カメラワークも緩急もグッとくるところが少なく……仕方がないので、周回する上では戦闘シーンをほぼすべて演出スキップするのがデフォルトになりました。
このあたり、最新作のファイアーエムブレムENGAGEでは目を見張るクオリティで、さすがはインテリジェントシステムズ、と感じさせられます。
支援会話:それ自体は面白いという感じはしないのに、それが無いと全然面白くない
昨今のFEにはよくあるらしい「支援会話」、要はキャラ同士の友好度が深まるごとにイベントが発生して、イベントを見ることで支援値が上がり、戦いでも連携の効果が高まるなどしてフィードバックされるシステムですね。
FE風花雪月の場合はそれが主人公のみならず各キャラ同士の掛け算で用意されており、クラスメイト8人x3学級にサブキャラたちが10人くらいで、(他クラスへの支援は用意されているのが限られているにしても)膨大な数になっています。
この支援会話、パターンが多いということで、一つずつの絵的・音的な作り込みは平々凡々、背景もロード短縮のためかキューブマップベタ貼りだし、効率を重視した非常に簡素な作りです。なので、これを見ていて感動するっていうことは、そんなにありません。
ですが、一つずつのエピソードが非常によく練られており、キャラクターそれぞれの「価値観の対立」をえぐり出し、「あなたと私はこういう所が違うんだね。あなたと話すことで、自分のこういう良さに気づけた」など、それぞれが別の視点を得ることで自分の価値を昇華していくような構成になっており、興味深いです。
そして何より、ここで掘り下げられる各キャラクターの確固たる価値観、何を信じ、何を疑い、何を尊び、何を蔑むのかといった情報があってこそ、その後のストーリーや世界の説得力が段違いになるという感覚がありました。ゆえに、不思議な表現ですが、「それ自体は面白いという感じはしないのに、それが無いと全然面白くない」という評価になるのです。
ストーリー:噛めば噛むほど味がする
上記の支援会話によってキャラクターや世界に強い説得力があったことが功を奏して、最高です。
ゲームを進めていく最中とかクリアした瞬間とかにめちゃくちゃ感動したーーーーとか衝撃の展開がーーーーってのは(あるにはあるけど)そこまで記憶に残ってなくて、ただ、どのルートも、それぞれの考えを持ったキャラクターが動いた結果なんだなということがわかり、納得できます。
納得感があるのに三国が対立してるんだから「どうなってんの?」というのがこの物語の一番の魅力なわけですが、どうなってんのかは実際プレイしてみて頂きたいし(時間かかるけど)、ここではネタバレしません。
「噛めば噛むほど味がする」ってのは、プレイ中よりもクリア後にあれこれ調べたり考えたりしてからが「この物語本当にヤバいことをやっていたのでは??」とじんわり気付かされるんですね。
私は読解力が足りてなくて「ふーん」で終わっていた数々の出来事について、以下のようなネットの記事を読むことで「えっそんな所まで深く考えて作られてたの!?!?」と後から感動するみたいな事をしてました。
このブログが、「ここ最近読んだ文章の中でぶっちぎりで一番面白い」のは絶対保証できる、ってくらい凄いんですが、このブログはネタバレ全開であり、この面白さを理解するにはまずファイアーエムブレム風花雪月を3周しないとダメなんだ。そうじゃなければ意味がない。残念だなぁ。
でも「この文章の面白さを理解できるようになるために、ゲームをクリアして良かった」と思えるくらい、大満足しています。
大アルカナが表す「終わりのない螺旋」
その超絶面白いブログを読み漁っていると、「アルカナの元型」というシリーズに出会うことができました。
ここでは、本作の重要な設定である「紋章」が22の大アルカナに対応しており(これは単なる推測ではなく、実際にゲーム中に出てくる「紋章石」にタロット番号と名前が書いてあることからも意図的)、その紋章を持つキャラクターの造形にも深く関わっているという事が示されていました。
興味深いのは、このアルカナの順番が筆者いわく「人間が成長物語の中で出会う規範や限界、葛藤の、一連の流れをあらわして」いるそうなんです。
読み進めていくうちに、これまでタロットやアルカナというものを全く通ってこなかった私が、その美しさや合理性に幾度となく感動させられました。成長物語の中で必ず通る段階が絵札として表されて多層的に意味が圧縮されており、あるカードでの価値観が、他のカードの価値観から見ると相容れない部分がある(それが支援会話における「私達は似ているようで違う」という多様な構造に活かされている)といったトレードオフの概念が網羅的に整備されており、それが全体として螺旋階段のようなループ構造を持つことにより、どこかが絶対的な終着点ではなく、必ず時代は周る、という諸行無常栄枯必衰の理を表しているというのです。
えっ……そんなこと当たり前だって……?
恥ずかしながら、私にとってはかなり衝撃的な概念でした。タロットやアルカナにそんなに考え抜かれた有用性があるとは知らなかったからです。
単なる分類ならいざ知らず、ループ構造があるというのが特に良いアイデアだと感じました。ゴールが無い。絶対的な正義や絶対的な目標というのが無い。だから無限に新たなる価値観が必要とされる。人々の認識が今どんな段階で、世界が今どの段階に差し掛かっているかを抽象化することができる。
というわけで、次に大アルカナの構造分析を……書いてたんですが気がついたらそこだけで1万字を超えてしまったので、別の記事に独立させました。
こちらの記事ですが、FE風花雪月のネタバレを前提とした同人誌「紋章xタロット フォドラ千年の旅路 FE風花雪月とアルカナの元型」から読み解く、大アルカナの構造分析となっておりますので、ところどころ小さいネタバレが散りばめられています。クリアしてからの方が安心して楽しめますが、FE風花雪月に関する内容は、以下のように
クリアするまでより、クリアしてからが面白くなるような作品との出会い
こうして、FE風花雪月はクリア後に色々調べたり考えたりすることで得られたものがすごく多かったです。
もちろんこのブログや同人誌を書いた人が凄いのもあるんですが、この人にこれだけの特大感情と膨大な文化歴史考察を行わせるに至ったファイアーエムブレム風花雪月の世界、キャラクター、物語の作り込みがヤバすぎる。そして、これを理解するための文化的土台が自分に植え付けられた、という意味で、やはりこのゲーム、この世界、この物語を体験して本当に良かった!と思えるわけです。
以前DEATH STRANDINGをプレイしたあとに「サピエンス全史」や「ホモ・デウス」といった元ネタにたどり着いた時も世界が広がりました。「面白さ」の源泉として知識や教養といったものがあると、非常に楽しく学ぶことができて、エンタメの価値をいっそう深めてくれると思います。
続きの大アルカナ構造分析はこちら。
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あと、最後にネタバレあり感想も置いておきます。
ネタバレ喰らいたくない人は、回れ右。
ここからネタバレあり
本作の魅力はなんといっても、一つ屋根の下で学んだ級友たちが、結局のところ5年後の第2部において対立して三つ巴の戦いに発展する、しかも、その何れかが最終的に正しいルートという事ではなく、どのルートにおいても当人の視点では正しい世界を作る道筋として描かれることでしょう。
より直接的なところで言えば、戦場でかつての級友と殺し合いをするに至った際に様々なバリエーションが聞ける、戦場会話でしょうか。かつての仲間と殺し合えるのがこんなにも楽しいとは……これが逸楽……
英雄の遺産や神聖武器を持ち、他のモブキャラとは比較にならない(普通に主人公の学級生徒の強さと比肩する)ユニット性能で、しびれるような戦いが繰り広げられます。
ここぞとばかりに自分も温存していた英雄の遺産を使うのもアツいし、どのユニットを当てるかによっても会話が変化する所でも自分で物語を演出できるし、その会話によって彼らがいかに「譲れないもの」をそれぞれに持っているかが描かれるのがたまらない。このシーンのために数百時間やってたんだなぁと思うことしきり。ついでにこの時かかる音楽「交わらぬ道」が超かっこいい。やっぱり敵と味方は交わらぬ存在であって欲しい。
これは私のグッとくるポイントなんですが、カットシーンなんかで敵に赦しを請われたりしても、ちゃんと殺してほしい。敵が逃げ出そうものならちゃんと悔しがってほしい。それは現代の倫理に照らし合わせるとやりすぎかもしれないけど、ゲームなんでプレイヤーは「殺したい(=勝ちたい)」と思ってやってるわけで、主人公がそこに重なってくれる方が嬉しい。
だから、(青エンドネタバレ→)青ルートの最後でディミトリがエーデルガルトに一瞬だけ手を差し伸べつつも、その裏に潜む殺意に気がついてしっかりとアラドヴァルをぶっ刺したのは個人的に満点でした。
やっぱり俺たちは「完全にわかり合えないんだな」という事を確認して、プレイヤーが行ってきた殺戮という道を否定しない。これを否定する方のショックを与えるゲームもありますけどね。私は否定しないほうが好きですね。
あ、どうでもいいところで一つだけ、ストーリーとキャラに関して納得いってないところがありました。
5年後のペトラ、もうちょっと日本語(フォドラ語?)喋れるようになってても良くない?(5年もいたら変わらない?そうでもない?)
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