僕の母さんは恐ろしく家事ができなかった
今でもはっきり覚えている。
母さんの作った不格好な料理の数々。
母さんの畳んだ揃っていない洗濯物。
母さんの荒っぽい掃除の仕方。
「めんどくさ~」という母さんの口癖。
母さんは、玉子焼きひとつも上手にできなかった。
だから、僕は、遠足などで弁当を食べる時、
母さんの作った弁当を友達に見られるのが恥ずかしくて、
なるべく皆から離れて、さっさと早食いして、蓋を閉じるのを急いだ。
ただ言っておくが、見た目はあんまりでも、味はそこまで悪くなかった。
最高に美味かったというわけではなかったが、僕的にはそれで十分だった。
あと、見た目は悪くても、それなりに栄養バランスは考えてくれていたと思う。
偏った感じは、弁当に限らず、食事全般に見られなかった。
そう。母の作ってくれた料理は、ただ単に、見た目(形)が悪いだけなのだ。
そのことに対して、
「恥ずかしいから、もっと、上手に作ってよ」とか
「上手に作れるよう、練習したら」など
言ってみたい衝動にかられたこともあったが、結局、最後まで言えなかった。
いざ口に出そうとすると、あまりにも傲慢な息子という感じがして、
言葉が喉につまってしまったのだ。
聞いたことはないが、父もそのことで母に注意したことはないと思う。
もし、父にこのことを聞いたら、父はきっとこう言うだろう。
「そんなに重要なことでもないじゃないか。それよりも、そのことを指摘されて気にしてしまう母さんの気持ちの方が大事だ」
と。
そんな(文字通り)不器用すぎて、めんどくさがり屋の母さんだったが、
僕は、「他のお母さんがよかったな」とは、一度も思ったことがない。
そんな女の人が、そんな母親が、世の中にひとりぐらいいたっていいじゃないか。
と、思っていたから。
母さんは、いわゆる家事業が人と比べて、うまくできないだけで、別に人間として劣っているわけではない。
むしろ、他のお母さん達にはない魅力だって沢山もっている。
だから、これから、お嫁さんになる女の人・お母さんになる女の人には、そこまで身構えないでほしい。
完全無欠の母さんになれなくても、こんなに母さんを尊敬している息子がここにいるのだから。