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【実話】なぜ東大生はインターンに落ちるのか?
はじめに
2浪して東京大学に入ると、進学選択が迫ってくる2年生の夏ごろには同い年がみんな就職先を見つけている、という奇妙な現象が発生する。
「浪人している分人生に深みがある」という手垢のついた戯言を振りかざしながらなんとかここまでやってきたはいいものの、就活にも卒論にも目処がつきつつあるかつての同級生たちを目にした私は尋常じゃない焦りに駆られ、授業もそっちのけでインターン先を探そうと必死であがいた。
進学なんかのために勉強を頑張る暇があったらインターンでもやって「社会経験」を積んだ方がいいんじゃないか?
そんな、勉強もできなければ社会経験にも乏しいダメ人間独特の発想を抱えつつ、勉学に励む東大生らを横目に駒場キャンパスを歩いていると、あるものが目に飛び込んできた。
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「インターン早期化反対」の立て看だ。たしか、Twitterでちょっとバズっていた。
しかしこれを見て笑ってリツイートした人の中に、「じゃあインターン探さなくてもいいか」と思う人はどれだけいるのだろうか? 結局、自分だけは予防線を張っておきたいのに違いない。「マラソン一緒に走ろうね」論と一緒で、知らないうちに抜け駆けされて一人取り残されるのがオチだ。
こいつらも立て看なんか作る暇があったらインターンでもやって「社会経験」を積んだ方がいいんじゃないか?
「ハイクラス大学生向け」長期インターン
気を取り直して、私はインターン先を探し始めた。普通に「インターン 探し方」で検索すればいいのだが、悲しきプライドが発動し、「東大生 インターン 探し方」と検索した。
インターンとアルバイトの違いすら答えられない私だが、インターンでは選考において自己アピールが求められる、くらいのことはわかる。でも今までの人生で特に心血を注いだ活動などなく、手持ちのカードが文字通り東大の学生証しかなかったのだが、それさえあれば全てどうにかなるだろうと考えていた。
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そうしたら、「ハイクラス大学生向け長期インターン求人サイト」というなんかすごそうなサイトが出てきた。
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インターンの案件がずらりと並んでおり、募集元の中には名前を聞いたことがある企業もあったが、いわゆる「ベンチャー企業」が中心だった。「ベンチャー」。グレネードランチャーのようなその響きがカッコよくて頭がくらくらしてくる。言葉の意味はよくわからないが。
しかし、出てくるのは「【"松尾研" 発】AIスタートアップでのインターン募集」「【優秀層向け】東大早慶8割の新規事業でコアメンバーを募集!」「【MBB/Big4出身の経営陣】経営コンサルティングファームのコンサルタント募集!」といった、なんだか意識の高そうなワードの洪水。頭くらくらどころか、溺死しそうである。
この募集を見て血気盛んにやってくるハイクラス東大生と張り合っていかねばならないのか……。ローとは言わないがハイには届かない、ナイスミドルといったところの私はつい気が引けてしまい、そっと画面を閉じた。
普通の長期インターン
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次に私が訪れたのは、学歴の高さにあまりこだわらない感じのミドルクラス的なインターンサイト。東大生限定のインターンに参加して落ちこぼれるよりも、東大生のいない環境の中でのさばり返りたいと思ったためだった。プライドだけはハイだが実力はミドルな私に相応しいだろう。
「ハイクラス大学生向け」のサイトよりも心なしか雑多な職種がリストアップされており、少しでも興味を持ったものには申し込んでみることにした。
その中で一つだけ最初から好感触だった会社があったが、調べてみるとその会社は新入社員をTiktokで踊らせることでなんjで炎上しており、うまく踊る自信がなかったので辞退することになった。
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その他、オンライン面接までこぎつけたのは2社。
動画編集
1個目はとある広告会社で、業務内容は主に動画編集とのこと。「動画編集のインターンやってるんだよね」と言ってみたいがために応募した。zoom面接では、「編集メンバーはほとんど100%男性だけど大丈夫?」となぜか最初に確認された。
どんな動画を作るのかと思ったら、コスメやライフスタイルについて紹介するインスタのショート動画で、その動画を出しているアカウントを見てみたら、プロフィールに「20代OL女子」と書かれてあった。マスキュリンな集団が「20代OL女子」のアカウントを運営しているというのがなんだか怖くなって逃げてしまった。
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ウェブメディア
2つ目はウェブメディアを運営している会社。業務内容は記事の編集とあったので、これが本命だった。意気揚々と面接を受けに行くと、出てきたのは長髪のバンドマン的な男性。
開口一番に、私の首のピアス痕を指さして「男に噛まれたんか」と言われた。業務内容は記事のSEO対策等で、「結構地味だからあなたみたいな人には向いていないかもしれない」と面と向かって言われ、これもやめることになった。「首に傷がある→男に噛まれた→派手な生活→地味な作業が苦手」みたいな勝手な連想をされたのであれば遺憾ではあるが。
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ここまで色々調べてみて思ったのが、思ったよりも雑用・事務的な業務が多いな、ということだった。これでは普通のアルバイトとあまり変わらないような気がする。
やりがいがあって面白い仕事を探しつつも結局は「インターンやってるんだよね」と格好つけたかっただけの私は、なんとなくすごそうだから、という理由で、有名企業のインターンを探しはじめた。ちょうど、大手の夏季インターンの募集が増えてくる時期だった。
大手企業の短期インターン
テレビ局から不動産、チームラボに至るまで、夏季は様々な企業の短期インターンが開催される。選考課題の面白さで2つの企業を選んで応募してみた。
フジテレビ
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「さんまの東大方程式」で東大生をパンダにすることでお馴染みのフジテレビ。「アナウンス部門」「ドラマ部門」など、インターンには6つの部門がある。その中から1つだけ申し込めるのだが、私は「バラエティ部門」に申し込んでみた。
「2024年に観たテレビ番組の中で、『最も面白かったもの』は何ですか?また、その理由も教えてください。」
「今までにない新しいバラエティ企画を考えてください」
選考課題は作文形式で、こういう質問がいくつか並んでおり、「chatGPTの手助けは借りないで自分の頭で考えてみましょう」という小学生の先生みたいな注意書きがついていた。
ちなみにこの1個目の質問に対しては、
バカリズムさんがMCをしている『私のバカせまい史』(フジテレビ)です。プレゼンターが巧妙に話を本題からずらしながらふざけていくところが本当に面白く、かつ知的好奇心が掻き立てられるようなところが最高だと思います。例えば『全国のライブハウスにある内田有紀のサイン史』は、構成の巧みさやいい意味での無駄な手数の多さによって満足度が半端じゃなかったです。
といった回答を提出した。
結果は落選。
不登校だった頃に毎日ヒルナンデスを見ていた以来、テレビを一切見てこなかったことがバレたのだろうか。この回答はネットのレビューの出鱈目なつぎはぎだ。バカリズムなど10年も見ていない。
電通
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次は、広告業界最大手の電通。この会社は一風変わったインターンに力を入れており、毎年「アイデアの学校」なるインターン専用のサイトができる。
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エントリー課題も一風変わっており、体育系だと言われる社風とはそぐわないようなお洒落な内容だった。「表現クリエイティブコース」で応募し、課題②に関しては、校長先生が生徒とMCバトルするみたいな滅茶苦茶なことを書いた。
課題①では小説だかポエムだかよくわからない文章を書いたのだが、我ながら痛すぎて死んでも載せられない。あのデータが電通にまだ残っているかと思うと、胸を掻きむしって絶命してやりたくなる。電通製品を見ると思い出してしまいそうなので、今後はCMを見るのをやめようと思う。
結果はもちろん落選。
課題は面白かったのだが、かえって自分自身の面白くなさが露見してしまい、プライドがズタボロになった結果となった。
脱力系インターン
大手企業に呆気なく破れたことで就職に対する自信が絶滅しかけていた私は、最後の希望として、脱力系インターンに応募することにした。
脱力系インターンとは、大手企業ではないこそすれ単調な事務作業以上のことができ、かつ意識も高くなくゆるい空気の中でできそうな、奇特極まりないインターンのことだ。
「意味のないインターン」
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株式会社「ペンシル」という、「ぺんてる」と非常に紛らわしい会社が毎年開催しているインターン。「日本一『意味のない』インターン」と銘打って、どこかの離島で謎の合宿を行うらしい。今年のテーマは「宇宙とつながろう」。
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合宿の前には、面接ではなくオンラインミーティングがある。「意味のない」インターンにすら落ちたら私はどうすればいいのだろうか、という一抹の不安を抱えながらも入ってみた。
そこは、カオスそのものだった。タロット占いをやらされたり、テレビ黎明期のニュースを見せられたり、「今心の中にあるものを思うがままに描いてみましょう」と言われたりと、もう滅茶苦茶。
最後に社長が出てきて、「就活なんかそんなに頑張らなくてもいいのよ」という脱力系のお言葉をいただいた。
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それを聞いて「私の居場所はここにしかないかもしれないな」とぼんやり思ったものの、2回目のオンラインミーティングをうっかりすっぽかしてしまい、インターン本編には参加できなかった。
うんこミュージアム
「意味のない」インターンすら逃した私は、意味がないどころかマイナスの存在であろう。絶望に打ちひしがれていた私の目の前に、突然、一筋の光明が見えた。
その会社を見つけたとき、私の体に電流が走り、思わず漏らすかと思った。「これだ」と思った。運命の出会いだと思った。
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そう、それはうんこミュージアム。
正確には、うんこミュージアムを運営している株式会社カヤック。「面白法人」と名乗っているだけあって、うんこを筆頭とするユーモアある事業を展開している。
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この会社もインターンを募集しているらしく、早速申し込んでみた。インターンの業務内容も、応募者個人に合わせて柔軟に対応してくれるとのこと。
オンライン面接ではノリのいいお兄さんが出てきて、思わず「ヒッチハイクとか好きなんですよ〜」変人アピールをしたら、「面白いですねえ〜w」とかなり好意的な反応をいただいた。
お台場のうんこミュージアムは最高でした。特に気に入ったのは愛のうんこルームとうんこシャウトで、あいあい傘をすることやカップル用のフォトスポットで写真を撮ることも、うんこを介せば恥ずかしくないのだということに気づいて衝撃を受けました。またうんこシャウトでは最初は叫んだつもりでも全然小さいうんこしか降ってきませんでしたが、何度もやるうちに大きなうんこに来てもらえるようになり、感動しました。 あまりにもフォトジェニックな空間であるがゆえにみんな写真を撮ってあげるので大体ネットで見てしまっているので、一抹の寂しさがありました。
うんこミュージアムに行ってから、一体どんな人があれを思いついたんだろうと思って調べてみたところ、生命力とユーモアに溢れる貴社の存在を知って衝撃を受けました。バイトやインターンを色々探していたのですが、雰囲気が堅苦しかったり他の人との交流が少なすぎたりして正直自分には合わなそうなところが多く、ここであれば楽しく前のめりになって働かけそうだなと思い応募させていただけました。
ここぞと言わんばかりに、私はうんこミュージアムに対する想いをぶちまけた。ここまで熱情のある学生を、どこの企業が落とすというのだろうか? ありえない。
今まで散々落ちてきたのは、この企業に入るためだったんだ。ここが私の在るべき居場所だったんだ。
まさかの落選。
は? なんで?
お祈りメールが返ってきた当初はひどく混乱したが、よく考えるとそれも当然だった。
冷静な頭で思えば、頭のおかしい学生かさもなくばただの痛い女が乗り込んできた構造に他ならなかった。仮にも面接という場でヒッチハイクとうんこしか武器のない女をどこの誰が救済するのだろうか?
また、うんこミュージアムに行ったはいいものの、入場料が地味に高くて入り口で引き返したのがバレたのかもしれない。
おわりに
結局私を採用してくれる企業はどこにもなかった。東大生の平均エントリー社数は13.7社・平均内定社数は3.0社らしく、4~5エントリーにつき1社は内定する計算になるが、結局1社も引っかからなかったのだ。
最後の御祈りメールを受け取ったその日、肩を落として駒場キャンパスをうろついていた私の目の前に、なんだか大きなものが立ちはだかった。
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お前は、あの時の…。
こいつだけは、いつも変わらず同じ場所にある。就職活動で身も心もすっかり疲弊した私に、「おかえり」と言ってくれているかのようだ。
どうして私はあの時、この立て看の言うことを笑い飛ばしたんだろう。真実はいつもすぐそばにある。そのことがひしひしと実感させられた。
私も立て看、始めようかな。
文責【馬耳内】
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