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帝都に咲く花3 ~立志編~

以下の文章は戦争小説です。基本的に一般的な世界線とは異なり、
著者の趣味、妄想、思想も含まれますので諸々のデータは
史実のものとことなる場合がございます。
その点を理解したうえでお読みくだされば幸いです。




機密事項

 召集令状                             緋月みさと
  
  貴方の後衛陸軍士官学校への召集を命ずる。
  他人への本状の内容の漏洩を禁ず。
  本状が到着した日時より72時間後に迎えの車両が向かうので
  それまでに荷物を用意し、本状と同時に送付した書類に必要事項を
  記入の上、本状が到着した24時間後に到着する将校鞄へ
  必要書類及びその他日用品を収納すること。なお娯楽用品は
  認められない。
  この召集命令に関しては貴殿の意思により拒否することも可能。
  拒否する場合は24時間以内に「reject」と書いた葉書を
  ████████████へ送付すること。
  しかし、再度令状を受け取った際には拒否することはできない
  であろう。
 
 なお本状は内容把握次第速やかに破棄すること。

緋月みさと―――みさとは可及的速やかに令状を
破り捨てようとした。



彼女は確かに陸軍士官としての素質はあったし、
それを彼女自身も自覚していた。彼女には他の人にはない生まれ持った
特別な才能があった。だからこそ、彼女は陸軍士官への道を拒否した。
彼女は既に、男性として生きることの可能性を排除していた。
排除した生き方を強要された。必要がそのように求めた。
彼女は女性として生きることを強く望んだ。
彼女は周りに振り回されることを拒んだ。
現在の状況こそが調和の取れた平穏な状況。
この状況を崩してはならない。彼女はそう考えたのだ。




そこで彼女は召集を拒否する方法が記されていることを思い出し、
改めて令状を読み直す。そして、すぐさま「reject」と葉書に書き込み、
郵便差出箱に投函して████████████へ送付するために
最寄りの郵便差出箱まで走り始めた。家から出る際に遠藤に
怪しまれたが、この内容を言わないのは遠藤のためでもあるのだ。
と、騙すことに自身に対する若干の嫌悪感をごまかすために考えた。
いつ憲兵が遠藤を消しに来るのかわかったものではない。
「散歩。」とだけ言い残し、飛び出してきた。
(実際は遠藤に怒られるので歩いていたが普段の歩行速度と比較したら
走っているも当然であろう。つまりは早歩きだ。)
門を左に曲がってそこからさらに右へ。そのまままっすぐ―――。


門を曲がった瞬間、どん、とタバコの匂いのする黒いスーツの胸に
衝突して、その表紙に転んでしまった。
そこには見知らぬ男が立っていた。
「すみません、急いでいたものですから、、、。」
みさとはそう言い、起き上がろうとした。
すると上空から黒い手袋が差し出される。
スーツの男はみさとを起こしながら言った。
「こちらこそすみません。」
その手袋は人間のそれではなかった。
「では。」
男は歩き去っていった。去っていこうとしていた。

まさか想像もしていなかった。
たまたまぶつかった男からこんなセリフがつぶやかれるとは。
みさとと肩がすれ違うときに彼は小声でこうつぶやいたのだった。
「召集令状はまた現れる。召集令状はあなたを見つけ出す。
召集令状はあなたを救うための切符となるであろう。」
みさとははっとして男の顔を確認しようとしたが、男は目深に山高帽を
被っており、その表情や人相をうかがい知ることはできなかったことを
思い出した。
そのまま男は去っていき、みさとは予定通り郵便差出箱に
葉書を投函した。
無意識に髪を触ると髪の毛がうねっていた。

どうやらこのあと雨が降るようだ。




「帝都に咲く花」立志編第三話は以上となります。
今後もこのように趣味全開で定期的に投稿してまいります。
小説以外にも情勢解説や、個人見解なども公開して参りますので
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