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物語づくりからバイアスの根源を考える。 #常識を考え直すワークショップ 【レポ】


わたしの常識とあなたの常識は、同じでしょうか。違うでしょうか。

人は、それぞれ固有のバイアス(偏見)を持っています。他者とのコミュニケーションを観察すると、それに気が付きます。自分のバイアスに自覚的になることは、少し痛みは伴えど出来ないことではありません。しかし、バイアスをもつ他者が誰かを傷つけているとき、わたしたちに出来ることはあるのでしょうか。

「他者は変えられない。変えられるのは自分だけ」
そう思うしかないのでしょうか。今回は、そんな問いをあなたと一緒に考えていけたらと思います。

「主人公のふつうが変わるまで」を作るワークショップ

株式会社リブセンスが、NPO法人soar、株式会社ミミクリデザインとの共同設計のもと企画した、「“常識”を考え直すワークショップ」に参加してきました。

ジェンダーバイアスを切り口に、完全オンラインでのワークショップが毎週水曜日、4週にわたって開催されました。
テーマは「1つの価値観から抜け出せず葛藤する人の変容を助ける"協力者"のあり方とは?」。偏見に苦しむ側ではなく、苦しめてしまった側を主人公とし、変容を描くシナリオをチームで作成することがゴールです。相手を思ってしたことでも、持っている常識の違いにより誰もが「苦しめてしまう側」になる可能性があります。ワークショップの設定は、その可能性に気づくきっかけとなるものでした。

DAY1 チームビルディング
DAY2 差別の歴史から「主人公」を考える
DAY3 変容のシナリオを考える
DAY4 変容を助ける理想の「協力者」とは?

「偏見により誰かを困らせる人」を主人公とした物語。現存の作品を探してみると、その数は多くはありません。ましてや、バッドエンドでない結末のものは非常に限られます。ファシリテーターを務めるミミクリデザインの臼井隆志さんも「誰も答えを持っていない、実験的なワークショップになります」とワクワクしていらっしゃいました。

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有志で参加したリブセンス社員と社外からの参加者、合わせて30数名で、答えのないワークショップへと船出しました。


主人公"偏見によって人を困らせるB"は悪だろうか?

シナリオづくりは、あらかじめ作られた下の関係図に基づき進みます。まずはチームでキャラクター設定に取り掛かりました。

・Bの偏見に困っているA
・偏見によってAを困らせるB
・Bの「願い」の実現を助けるX
・Bの「願い」を挫くY

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事前資料を読み込み、それぞれがA、Bの人物像を作成します。
項目は「プロフィール」(年齢・職業など)、「思い込み」(どうあるべきだと考えているか)、「どんな風に困っていたか?/困らせたり傷つけたりしたか?」、「願い」(本当はどうありたいと思っているか)の4つです。

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例えば、わたしは「性的マイノリティ」をテーマにA、Bの登場人物を設定しました。同性愛者であることを父親に打ち明けられないAと、息子に早く結婚をして家業を継いでほしい父親B。実際にストーリーを書き出してみると、息子Aを困らせる父親Bは生粋の悪人というより、「子どもに幸せになってほしい」願いを持つがゆえに自分の方法を押し付けてしまっている。すれ違いの構図に気が付きました。

このようにメンバーそれぞれが人物像を持ち寄り、話し合いました。結果、成果主義や競争社会にさらされがちな「男性差別」をテーマにシナリオ作成を進めることになりました。

A、B同様に協力者X、Yの人物像も固めていく中で、キーだと感じたのはBの「願い」です。Bの言動は願いを叶えるために起こされるものなので、願いを揺さぶる、あるいは助けるようなX、Yの行動を考えなければなりません。

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わたしのチームのBの願いは「部下と良い関係を築きたい」でした。
これを叶えたいだけなのに、「仕事は全力でやるべきだ」といった思い込みによってBはAを困らせる振る舞いをしてしまいます。その思い込みは、Bの育った環境や世代の常識によって武装されたものでしかありません。

Bをはじめ各キャラクターの背景を深めるにつれ、それぞれのキャラクターがバイアスをもつに至った理由が身近に感じられました。参加者から共有される気付きが、ワークの時間をより深く、豊かにしていきます。

「Bもまた、Aによって苦しめられていると言えるのではないか。」
「今は立場が固定されているけど、本来はAにもBにもなりうるのではないか。」
「Bを意識的に悪く描かないと物語が成立せず、辛い。」
「誰かの何かに加担する物語になってはいけないと思うのに、つい都合よく考えたくなる。」

シナリオを作る立場になると、キャラクター視点に加え、それぞれの振る舞いの背景を知る「全体を俯瞰する視点」も得られます。キャラクターの背景を作り込むほどに、キャラクター間で引き起こされる葛藤の複雑さが増し、ワークの難易度が上がっていくようでした。

「シナリオが完成しなくてもいい。考えるそのプロセスこそが価値です。」「ハッピーエンドとは限らないかもしれません。」ファシリテーターからの助言を受けながら、全8チームがなんとかシナリオを完成させました。

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完成させたシナリオを共有し皆で読み合ってみると、他のチームの議論の跡や「薄っぺらい綺麗事で終わらせない」強い意志が感じられ、鳥肌が立ちました。

誰もが「困っている人」にも「困らせる人」にも「変容を助ける人」にもなりうる

最終日のワークでは、シナリオを材料に「1つの価値観から抜け出せず葛藤する人の変容を助ける"協力者"のあり方とは?」を話し合います。最終日は敢えてそれまでのチームをバラして行われ、各チームでの気づきを新チームに持ち寄る設計でした。

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「協力者に必要な要素を3つ挙げる」内容でしたが、まとめるのは骨が折れる作業でした。

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シナリオも三要素も、一つとして同じ解が出たチームはありませんでした。チーム内でも一人ひとり感じたことが違うと思います。
ただ、きっと多くの人が「誰もが登場人物のどの立場にもなりうる」と感じていたのではないでしょうか。

「差別をなくす」と聞くと大げさに思えたが、ワークを通して登場人物を身近に感じるようになり、普遍的なものだと思えるようになりました。

差別とは言いきれないようなバイアスの衝突が、日常でも至るところで起こっています。自分がどんな立場でどう振る舞うことができるのか、自分の「願い」は何なのか、この世界のキャラクターの1人として考えてみてもいいかもしれません。

矛盾を受け止め、綺麗事を考え続ける

最後に、ファシリテーターの臼井さんが発した言葉が非常に印象的でした。

どこかのチームで「無理に相手を変えようとしない」という言葉が出ていました。大切な姿勢だと思います。「変えようとしない」ことと「変容を助ける」ことは矛盾するかもしれません。その矛盾の間に、今回の問いをより深く考えるヒントがあるのではないでしょうか。

変えられるのは自分だけかもしれません。しかし、誰かに気づきを与えることは出来るかもしれない。どんな気づきを、どのように与えていくのか。どのようにして気づいてもらうのか。どのようなあり方で他者と関係を紡いでいけば、お互いのバイアスにいい影響がもたらされるのか。

「差別をなくす」「変容を助ける」など、綺麗事に聞こえるかもしれません。しかし、綺麗事を一生懸命に考える、そんな時間が今の社会にはあってもいいのではないでしょうか。

今回のワークを通して、綺麗事と現実をつなぐ思考の片鱗を体験しました。これをきっかけに、さらに答えのない探求の入り口に立った気がします。最後に投げかけられた問いを胸に、一人ひとりが常識を考え直す新たな日々に臨んでいければと思います。


文・編集/櫻庭実咲         デザイン/清川伸子


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