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チャン・チョン・キム著『 Một cơn gió bụi(一陣の埃風)』⑤第5章 ハノイへ / 第6章 ベトナム政府と国内情勢

チャン・チョン・キム著『 一陣の埃風』

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第5章 ハノイへ


 陽暦1月末、午後7時に車で出発し、ドン・ハで一泊した。翌朝にゲ省へ到着し甥っ子の家で休憩し、翌日昼にはタイン・ホア着。そして、その翌日にハノイに到着した道中は天候に恵まれたが、ザィン川の渡し場に着いた時は、川幅が広い上に強風による高波が出ていた。渡し場の傍に、車を乗せて筏を牽引する小型船が目に入ったので、「この船は動きますか?」と尋ねると、「燃料切れだ。」と言うので、「どこかで私達を向こう岸に運べる屋根付船が借りられますか?」と聞いて見ると、「屋根なしの舟しかない。」と言う。どうしたらいいかと思案している所へ、丁度通り掛かった船を運転していた船員が、筏を操っていた男たちへ何かひそひそと話をして行った。それから少しして、屋根付きの小舟が来て私達を乗せてくれた。小舟は、エンジンをかけて勢いよく筏を引っ張って走り出した。向こう岸へ渡ってから賃金を訊ねると、「幾らでも構いません。」と言う。この後で分かったことだが、あの時通りかかった船員が私達のことを知って居り、業者に頼んで渡し船を走らせてくれたそうだ。これは中部の人々が私に対して多少なりとも親しみを抱いてくれており、私達が職務に就いていた間は誰にも恨みなど持たれていなかったことを示す一つの出来事だ。道中はたった一度、タイン・ホアに着いた時に支那兵とベト・ミン兵の検閲に遭遇し、私の書籍を容れた大籠が突き刺されてボロボロにされてしまった。
 
 ハノイに着いた時は、本当に嬉しかった。私は既に老人で病弱の身だ、だからこれからは何もせず何処へも行かず、ただ古い書籍の山と旧知の友人達に囲まれ、お喋りして老後を過ごすと心に決めていた。これでやっと静かになる。しかし、そう思っていた自分の意に反して、再び漂流の日々を経験することになった。
 

第6章 ベトナム政府と国内情勢

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