(感想)鈴木大介著「ネット右翼になった父」を読んで
「ネット右翼になった父」(講談社現代新書)
とてもインパクトのあるタイトルのこの本。
拍子にはこんな煽りも書いてあります。
「ヘイトスラングを口にする父」
「テレビの報道番組に毒づき続ける父」
「右傾したYouTubeチャンネルを垂れ流す父」
うちの父は大丈夫だろうか…
そんなことを考えながら今日手に取ってみました。
なかなか面白い本だったので、新鮮な衝撃が残っているうちに感想を書いておきたいと思います。
1.概要
著者の父は晩年、いわゆる「ネット右翼」となり、外国人や女性、社会的弱者への差別的発言を家族の前で公然と発言するようになっていた。長男である著者はそんな父に怒りを覚え、父とのコミュニケーションを断絶し、距離を置くようになる。
著者と父の溝が深まって、お互い碌に話もできないまま、父はガンで死んでしまった。聡明な父を変えてしまったネット右翼とは一体何なのか。著者は父の遺品を整理しながら検証を始める。
…というノンフィクション。
2.この本の特徴
ネット右翼とは一体どんなもので、なぜ父はネット右翼の思想に染まってしまったのか、その答えを提供してくれるような本に思えますが、実はこの本はそういった本ではありません。
結論としては、著者の父はネット右翼になっていなかったからです。
ネット右翼とは何かということについても、著者自身が数冊の参考文献を基に定義・分析していますが、正直、客観的な説得力を持つ説明とは感じられませんでした。あくまで著者なりの主観的な考えを提示しているのみにとどまります。
えっ?じゃあこの本全然役に立たないじゃん?
そう思うかもしれませんが、この本の真の面白さは、実はネット右翼云々ではないところにあります。
コミュニケーションの断絶した父と子において、何が断絶の原因だったのか。どうしたら解消することができたのか。家族関係を再構築するための手法を、著者自身が試行錯誤しながら、自分なりの言葉と思考で検証していくところが、この本の最も面白い部分です。
…本のタイトルはちょっとミスリードですね。
3.本を読んで感じたこと
実は、私自身も父とのコミュニケーションに悩んでいます。
この本に記載されているように、父の発言や考え方に違和感を感じることが多く、その違和感はここ20年位における社会の価値観の変化を、父が受け入れられないことが原因だと漠然と感じていました。
しかし、この本を読んで、自分は父の過ごしてきた世代を理解しようとしてこなかったと思うようになりました。父の発言や考え方は何処から来たものなのか、原因を理解すれば違和感が解消できるのではないかと。
さらにちょっとした違和感で、父とのコミュニケーションから距離を置いてしまうのは、父だけじゃなく自分の方にも原因があるのではないか。
例えば、自分がその違和感に過剰に反応するのはなぜなのか、その違和感を別の嫌悪感と結びつけて、父に勝手にレッテルを貼って拒絶しているのではないか。自分が違和感を覚えている原因を、自分側の視点で分析する必要があるのではないか。そんな事にも気づかされました。
4.最後に
この本を読んで最終的に感じたのは、最近距離を置きがちだった父と、もう一回話してみようということです。
そう思わせてくれただけでこの本には十分すぎる価値があると思います。
最近、両親と話せていないあなたにおすすめの1冊です。