見出し画像

2024マイベスト本「勉強の哲学 来たるべきバカのために 増補版」

 2024年もまもなく終わり。
 1年間、たくさんの本を読んできましたが、今年のマイベスト本はコレです!!!

 ・勉強の哲学
  〜来たるべきバカのために〜増補版
  千葉雅也著(文春文庫)

 この本はずっと手元に置き、これからも繰り返し読んでいくことになるでしょう。実におもしろく、よみやすく、ためになる。

 そしてそれだけでなく、自分の勉強の可能性を広げ、ものの見方を変えさせてくれる1冊です。

 今回はこの本のことをちょっと紹介させていただきますね。

1.この本の概要

 著者の千葉雅也氏は大学で哲学を教えている40代の先生。
 その千葉先生が、哲学的な考え方をバックボーンにしつつ、勉強するとはいったいどういうことか、について論じている本です。

 概要を箇条書きするとこんな感じ。
(あくまで私の解釈です)

  • 勉強の第1段階は自分の属する環境(コード)の客観視。例えば職場や学校のルールや雰囲気や空気がどんなものかを認識し、それに合わせること。

  • 第2段階はコードから外れキモくなること。マイルドな言い方をすれば場から浮くこと。例えば職場や学校の暗黙のルールに異を唱え「これってそもそも意味なくない?」と空気を読めずに言ってしまうこと。

  • 場から浮いてしまう場合には、2種類のキモさがある。それはアイロニーとユーモアである。

  • 「アイロニー(批判)」とは垂直方向のキモさのこと。これはある言葉の意味するところを掘り下げていくことを指す。例えば「この珈琲はおいしい」という言葉について、「そもそも珈琲とはどういう定義の飲み物か」とか、「人が美味しいと感じるのはどういう状態か」といった風に、言語の意味を深く追求していく。これは究極的には無限に追求することができるのできりが無い。どこかで追求をやめて次のユーモアに移行すべし。

  • 「ユーモア(転換)」は平行方法のキモさのこと。ある言葉から連想されたり関係する言葉について検討を拡張することを指す。「この珈琲はおいしい」という言葉についてなら、「カフェオレもおいしいよね」とか「珈琲っておいしいけど苦いよね」とか。これも延々と連想し続けることができるので、自分なりのこだわりを持って範囲を限定する必要がある。

  • こうしてアイロニーとユーモアにより問題を掘り下げ拡張しつつ、無限に突き詰めることのないように、自分のこだわりにより問題を有限化する。そしてこだわりは変化しうるものだと考え、一度検討した結果についても比較を続け、よりよい答えを探し求めていく。これが勉強である。

  • 勉強とはコードから外れ、アイロニーとユーモアで検討を深めていくことだと知ったうえで、場の空気を読みながらもあえてコードを外し、確信犯的にキモく(場から浮ける)ようになると、ただのバカではなく場を変えられる来るべきバカになることができる。これが勉強の第3段階である。

2.この本のおもしろさ

(1)エキサイティングな理論の実践

 「1」で概要を過剰書きしてみましたが、こんな理論、今までに見たことや聞いたことありましたか?

 誰もが生きている以上、なにかしらの勉強をしていると思います。でもその中で「環境(コード)」とか「アイロニー」とか「ユーモア」なんて発想で勉強を捉えたことのある方はまずいないでしょう。勉強の2段階目としてキモくなることが求められますが、それだけ聞くと???という感じではないでしょうか。

 「勉強の哲学」で語られる理論は、とても独特でエキサイティングです。次はどのような発想や切り口で勉強が語られるのだろう?と、まるで冒険小説やミステリーを読むように、先へ先へと読ませられてしまいます。単純にアイデアがおもしろいのです。

 そして、「勉強の哲学」のおもしろさは、頭の体操とか、ことば遊びゲームとしてのおもしろさではありません。現実世界で実践できるからこそ、より魅力的なのです。

 現実世界での実践を目的とした本としては、ビジネス書や自己啓発本などのノウハウ本が一般的ですが、「勉強の哲学」の魅力はそれらの本とは違います。いわばこの本は哲学書と自己啓発本のハイブリッド。一般的な哲学書よりは具体的な実践例を易しく提示していますが、自己啓発本のように「○○だけやればいい」といった単純化はされておらず、「考え方は示すけど何をどうすべきかは自分で考えてね!」と突き放すような本です。

 この本は勉強のやり方が一方的に情報として示されているのではなく、読み手に考えさせる、本を通じた著者との対話が求められます。
 さらに言えば、著者からの挑戦というか挑発のようにさえ感じます。「読者は『勉強の哲学』をどう料理するのか?」という。
 この本を読むと、自分なりに勉強方法を考えて実践したくなって、勉強意欲が刺激されること受けあいです。

(2)勉強の哲学の拡張可能性

 「勉強の哲学」は、とてもコンパクトにわかりやすく書かれた本ですが、最終的な実践方法は読者に委ねられています。
 この本だけを読んで、自分なりに検討したやり方を仮固定して実践するのもいいでしょう。しかしもっと面白くていい方法があります…それは、「勉強の哲学」の関連本を読むことです!

 「メイキングオブ・勉強の哲学(千葉雅也)」では、「勉強の哲学」の執筆に至る経緯や構想が、「言語が消滅する前に(千葉雅也/國分功一郎」では勉強の哲学出版後の対談が掲載されており、どちらも勉強の哲学をさらに一段掘り下げた内容となっています。

 これらの本を読むことで、自分なりに解釈した「勉強の哲学」の答え合わせを行うことができ、理解が深まり実践がしやすくなります。
 また、これらの本を読んで理解しようと思うことは、ある意味では勉強の哲学の実践そのものです。関連本を読むことにより、アイロニーやユーモアの幅を広げ、勉強の哲学の勉強を継続していくことで、「勉強の哲学」に書いてあったことはこういうことなのだと実感できるのではないかと思います。

 また、「勉強の哲学」は翻って"哲学の勉強"でもあります。
 「勉強の哲学」の考え方は、千葉雅也氏がドゥルーズやラカンなどの現代哲学思想を基に編み出したものだからです。勉強の哲学を読むと、知らず知らずのうちに現代哲学のエッセンスが自身の中に入り込んでいくため、ルーツとなる哲学そのものをきっと勉強したくなるはずです。
 
 その時は「現代思想入門(千葉雅也)」が役に立つでしょう。 現代哲学における主要な思想を平易な言葉でかつ刺激的に紹介した入門書で、「勉強の哲学」が気に入ったなら、間違いなく面白く読める1冊です。この本を読むと、勉強の哲学の思想のオリジナルがわかり、勉強以外の様々な分野や生き方においても現代哲学は応用ができそうだという可能性を知ることができると思います。

3.最後に

 以上、「勉強の哲学」の概要と面白さを述べてきました。

 ここまで読んで内容が難しそう…と思った方もいるかもしれませんが、著者の千葉雅也氏の文章は非常にわかりやすく、巻末には主要なトピックのまとめまで書かれているという、哲学書にあるまじきほどの超親切設計です。

 それほどまでに読み手への配慮がなされている、魅力的理論の哲学本。ポケットに入れてどこにでも持ち歩けていつでも開ける大きさの文庫本254ページがなんと700円+税で買えてしまうのは、もはや資本主義経済のバグと言っても過言ではありません。

 おもしろくて役に立つ上に、まだ見ぬ新しい勉強の世界が開ける一冊。
 はっきり言って超絶おすすめ本。未読の方は早く書店へ。
 文春文庫、著者名「ち」のコーナーですよ!!!

※私は文春文庫や立命館大学の回し者ではありません。念のため…


いいなと思ったら応援しよう!