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小説『訳ありな演技』

「んだよ、篠倉」
「お前、ムカつくんだよ…邪魔」

そう言って俺はそいつを階段から突き落とした、そいつは多分だけど骨折ぐらいだろう

…死なないと良いけど…

「…これで…良いのか…?」
「うん、最高だよ篠倉くん」

俺は階段裏から見ていた生徒会長に話しかける

「……大丈夫かな」
「何でそんな心配をするの?見てよその子の手足すごい曲がってるよ笑?篠倉くんは不良らしくしててよ」

あぁ…この生徒会長イかれてるんだった、何で俺が落とした子を見て笑っていられるんだろ…

てか、何で俺は生徒会長の言いなりになってるんだろ…?

「何で俺なん?仁が自分でやれば良いじゃん」
「君じゃないと解釈不一致になってしまうからね、僕は常に優等生を演じなければいけないから」

はぁ…こいつの親金持ちだからかな、少し寂しさが伝わってくるのは

「俺は何にもしてない奴を呼び出して怪我させる事なんかしたくない」
「何もしてない?いいや違うよ?陰で僕の悪い噂を立てようとしていたから君に手伝って貰っただけだよ?」

俺はいつからコイツのボディーガードになったんだよ…

当然俺は職員室に呼び出された

「おい、篠倉!お前何やったか分かってんのか!!」
「ムカついたんで殴ろうと掴みかかったらアイツが勝手に階段から落ちた」

職員室の呼び出しで一番嫌な事は先生から大声で説教をくらうこと、もう10回以上呼び出されてる

「アイツは今病院に行ったそしたら右腕と左足を骨折して腰を打撲だ!幸い意識はある!」
「そっすか、良かったっすね」

てか10回以上呼び出されてるのに何で俺は退学にならないんだ?問題児扱いされてる筈なのに


「お帰りなさいませ、仁様」
「ただいま帰りました…父と母は?」

僕は優等生のフリをする…でもそれが疲れてしまった、父はIT企業の社長で母はウチの高校の理事長を勤めている、だから昔から躾が厳しく忙しそうにしている為あまり家に居ない

「旦那様も奥様もまだ帰って来ていません、お忙しいのでしょうね」
「分かった…ありがとう」

今日も一人で夕食か…

「先に召し上がりますか?」
「あぁ…冷めてしまう前に食べるよ」

大きな食卓テーブルに一人…僕だけでも広すぎる…篠倉でも呼びたいな…いや両親になんて言われるか分からないからやめておこう

「お待たせ致しました、今日は新鮮なお野菜のスープとビーフストロガノフで御座います」
「…ありがとう、頂きます」

カチャッカチャッ

皿に金属音が当たりリビングに反響する


はぁ…だりぃ説教聞いてたら遅くなった最悪…

「ただいっ」
「アヤト!!アンタ学校でまた問題起こしたらしいわね!今度は相手の子を階段から突き落として怪我させたのね!!相手の親から怒りの電話が来たわ!今から謝りに行くわよ!!」

…早いなぁ…母さんに連絡いくの…どしよ

「は、俺悪くねぇし、あっちが勝手に落ちただけだろ」
「アンタねぇ!何回問題起こせば気が済むの?これ以上学校や家庭に迷惑かけるのやめて!」

俺だって好きでやってる訳じゃない、ただアイツ…仁が俺に命令してくるからやってるだけ

まぁ俺の家は仁の家と違って古い古屋みたいな家だから母さんが朝から晩まで働いてるのを俺は知ってるだから俺もバイトをしてこの家にお金を入れている

「ウチの息子が本当に申し訳ありません!」
「手足の骨折と腰の打撲程度で良かったです、もし頭に強い衝撃を喰らって昏睡状態になっていたら損害賠償を請求していました」

貧乏人から金取ろうと思ってたのか…

「アンタも謝罪しなさい!!」
「はぁ…すいませんしたー」

俺は嫌な奴を演じる、じゃないとアイツに面倒ごと起こされると思ったから

「アヤト!!」
「まぁまぁお母さん、うちの子も死に至るほどのモノでは無いので…でもお願いがあります」

お願い??何だ??

「はい、何でしょう?」
「今後一切うちの子に関わらないでください、親が見える所であれば行動はして良いですが親なしの時に我が子に接触するのはやめてくださいね」

なるほど、こういうのをモンペと言うのか

「はい…分かりました…」
「もし我が子に接触しようとしたら五十嵐くんのお母様に注意をしてもらおうと思ってます、理事長ならお宅の子はちゃんと言う事聞くんじゃないんですかね?」

うわぁ…すげぇニッコリして言う事か?それ…

「…そう…ですね…そのような事があったら理事長に話しておきます…」
「では、今日は雨なのに突然すみませんでしたね、気を付けてお帰りください」

はぁ…俺の周りって嫌な金持ちばっかりだなぁ…


……いつから仁はあんなヤバい奴になったんだろう…幼少期も大変そうだったけど俺とは遊んでくれたんだよなぁ

確かアイツは小2の頃転校してきて、夏でも長袖を着てたから不思議だった

「今なら長袖着てた理由分かるけど…」

アイツから相談された時どうすれば良かったのか分からなかった

「あ、アヤト…君…あのさ…やっぱり何でもない…」
「どした、仁?悩み事か?」

その頃の仁は何か悩んでいそうな雰囲気だった、そしてよく隠し事をしようとして片腕を押さえる仕草をしていた…

今もたまに片腕を押さえる仕草してるけどな

「……ごめん…」
「言いたくなったら言えよ?俺怒らねーし」

仁は何かに怯えるようにずっと辺りを見渡していた

「あ、ありがとう…」
「あれ?先生がこっち見てる何でだ??」

ありゃ??てか先生こっち来る、何だ?

「仁くん、ちょっと来てもらえるかな?」
「…はい…またね…アヤト君…」

仁は先生に連れられて校長室がある方の廊下に入って行った

後から仁に聞いたら校長室に母親が来ていて変な子とかと遊んでいないかとか色々聞かれてその時に仁は俺の名前を出す事はしなかったらしい

「…アヤト君は…大切な友達…だから…」
「うお!めっちゃ優男じゃんお前〜!」

でも会う度に仁は暗くなっていった

そして中学に上がり仁は俺から離れて母親から推薦され生徒会に入った

「……アヤト君…ごめん…母さんにアヤト君の事がバレて成績が悪い子とは関わるなって…言われちゃって…」
「…そっか…だから最近お前は生徒会の人と話したり遊んだりしてるんだな」

どうやら母親が仁に俺が居ると成績が落ちると思ったらしいだから生徒会に入れて俺と離れるようにしたみたいだ

「…話してる事は内緒にしてるんだ…じゃないとアヤト君が退学になっちゃう…」
「は、は?話しただけで退学?!そんな悪いか俺って…?」

そして仁は何かが外れて狂った

「仁くん、一年の生徒を怪我させたのかい?」
「違います、一年生の子が僕を押して来たので注意する程度の軽いビンタをしただけです、怪我をさせたくてした訳ではありません」

仁の言った事は嘘の証言だったが母親が仁は生徒の事を考える子ですと言ったらしく一年の生徒が嘘をついた事になってしまった

あの時仁は慌てて嘘を言ってしまったと俺に話してくれた、そして俺と一緒に裏でその子に謝りその子は許してくれた、だけどそれは俺が仁に無理やりやらせたという謎の証言が生まれてしまった

そして今現在、仁は高校の生徒会長を務めている、仁の母親は自分の子が変な子とつるんでいないかと理事長になり権力を握っている

「あれ?仁からメール…久々だなぁ」

『篠倉くんへ
 昼休み屋上に来てほしい
 話がしたい
         五十嵐より』

何でこんなメールよこしたんだろ?また何かを企んでるのかな?

昼休みになり俺は約束した屋上に行った

ガチャっとドアを開けるとそこには地べたに体育座りをしている仁が居た、マジで話したいのかな?

「仁」
「…やぁ…篠倉くん…」

なんかコイツの雰囲気おかしいな…いつもの雰囲気では無いな

「話って?」
「散々色々やったけど…優等生のフリ…疲れた」

それはガチなんだろうな

「なら、優等生じゃなくても良くね?」
「…僕が優等生を辞めたら両親が悲しむ…特に母はね…」

あぁ…コイツの母親は今の仁を見たらブチ切れそうだな…いや違うか…哀れな目をしそう

「仁、お前ってさ恋愛した事ないのか?」
「何で優等生から恋愛の話になるんだい?」

青春を楽しめてないんだろうなぁって思ったから

「ほら、女とキスしたりアレしたりとか」
「へ?!あ、あり得ないよ!未経験だよ…」

童貞生徒会長…って思った事は言わないでおこう

「じゃあさ、男とは笑?」
「男とどうやってやるのさ、無理だよ!」

やば、仁っておちょくるの面白いな…

「じゃあ俺にキスしてみ笑?」
「は、はぁ〜〜?!む、無理だよ!!」

あ、照れてる…コイツ可愛いな…

「俺がお前にキスしてやるよ」
「…………うん」

待って?仁って乙女過ぎじゃね?

そんな風に思って居たら急にドアが開いた

「んあ??」
「いやぁぁ!!篠倉アヤト!!勝手に息子に近付いて何してるの!!仁、早くこっちに来なさい!」

うわぁ、出た〜成績しか頭に無い化石おばさん

「え、あ、えっと…アヤっ…篠倉に注意をしていただけだよ母さん」
「嘘を吐くなんていつからそんな出来の悪い子になったの!あなたは腕の良い医者になるのよ?そんな悪い子と居たら頭おかしくなるわ」

まぁチューならしようとしてたけど、今のでプチーンだわ、仁は裏では俺と仲が良いんですよねぇおばはん笑

「仁、こっから逃げようぜ?」
「え?ど、どうやって…?」

この屋上って雨樋パイプが通ってるのを俺は知っている、だからそこを通る

「じゃあな〜化石おばさん」
「な、なんですってぇぇ!!」

俺は仁を抱えて雨樋パイプを掴みスルスルーっと降りていく

「アヤト君?!怖いよこれ!!」
「目を瞑ってな、仁!」

おー、屋上からおばさんが何か叫んでる笑

「さて仁、乗れよ」
「アヤト君いつバイクの免許取ったの…?」

そんなのバイトしてるから取っただけだ

「思い切り飛ばすからしっかり捕まってろよ」
「うん、分かったよ」

バイクのスピードはどんどん上がっていく

「あの…アヤト君スピードは守ってね…?」
「そんなんじゃ後ろに追い付かれちまうよ」

俺と仁はヘルメットを被っているが俺は仁の親が黒い車で追いかけてくるのが分かった

「よし、振り切るわお前の親から」
「…僕ら学校戻れないね…」

コイツはまだ学校の事を心配してるんだ、追いかけ回されてるのに

「そんなん気にするな」
「……分かった」

数分してようやく振り切れた、仁は携帯の電源を切ったらしいGPSが入れられていると言ってたから切って正解だ

「てかさ、俺ら海まで来ちまったな」
「アヤト君かっこよかったよ」

砂浜に俺がドスっと座ると仁も隣にちょこん座った

「…海の音って良いよな」
「……僕、ずっとアヤト君とこうやって遊んでたいな…僕は悪い子でも良いよね?」

俺は仁の頭を撫でて言う

「良いに決まってんじゃん、俺らは悪い子同盟なんだから」
「ありがとう、アヤト君!嬉しいなぁ…」

悪い子同盟はさっき思いついたけど言わないで良いや

海の波音が聞こえて海からくる風が少ししょっぱかった

俺らは共に学校を辞めて好きな事を始めた、勿論理事長にはブチ切れられたが俺らは別に何とも思ってなかっただって俺らは自由な悪い子だから

          
          『訳ありな演技』END

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