見出し画像

令和6年兵庫県知事選挙は本当に"SNS選挙"だったのか?「2つの補正」をかけて検証したら意外かつちょっと淋しい結果に…

斎藤元彦・前知事が失職したことに伴う令和6年兵庫県知事選挙が11月17日に行われました。パワハラの疑いなどを告発する文書が出て県政が混乱し、議会から不信任を議決された斎藤元彦氏。彼は知事選に再び立候補し、当初は「ことの経緯を踏まえれば再選は厳しいのではないか」という声もありました。しかし蓋を開ければ斎藤氏は急速に支持を広げ、有力視されていた他の候補を破って勝利しました。

各メディアはこれをソーシャルメディアとマスメディアが対立した構造で取り上げ、「SNSの勝利、マスコミの敗北」「SNS選挙だった」という結論を見出しつつありますが、本当にそうなのかを過去のデータを組み合わせて元テレビ局マーケター・公務員なりに検証を試みます。

選挙結果を振り返る

▽斎藤元彦 無所属・前 111万3911票<当選>
▽稲村和美 無所属・新 97万6637票
▽清水貴之 無所属・新 25万8388票
▽大澤芳清 無所属・新 7万3862票
▽立花孝志 無所属・新 1万9180票
▽福本繁幸 無所属・新 1万2721票
▽木島洋嗣 無所属・新 9114票

前知事の斎藤氏が、前兵庫県尼崎市長の稲村氏らを抑え、2回目の当選を果たしました。投票率は55.65%。前回・3年前の選挙に比べて14.55ポイント高くなりました。なお1位の斎藤氏が全体の投票に占める得票率は45.2%、2位稲村氏は39.6%で5.6ポイント差をつけていました。

また、ここからは投票結果ではなくアンケート調査など各種データも組み合わせて検証していきますが、まずは年代別の投票先です。実データはありませんので各媒体の出口調査を参考にすると、以下のような結果が公表されていました。

ABCテレビの出口調査(引用)
NHKテレビの出口調査

結論の方向性としては、「年齢の若い人ほど斎藤氏を支持しており、その人達が投票へ行ったから斎藤氏が勝利した」「年齢層の若い人がよく見ているSNSにおいて斎藤氏のほうが効果的に活用できたので支持につながった」となっていますが、本当にそうなのか、2つの補正をかけて検証します。

1つめの補正:人口比率

日本の人口分布は少子高齢社会であり、各年代が均一にいるわけではありません。以下が兵庫県の人口ピラミッドです。

兵庫県の人口ピラミッド(国勢調査2020年より)

投票日に近く、かつ投票権対象者に絞った年代別人口割合は以下のとおりです。

人口を10歳刻みで見た時に一番多いのは50-59歳の14.9%、次いで40歳代・70歳代が13%台となっています。1%が約5万人ですので、20歳代と50歳代で30万人ほどの差があるわけです。こうした人口の多寡を投票先に反映するとどうなるでしょうか。

上記からは、斎藤氏231万票・稲村氏166万票と比率ベースでは実際の結果よりも差が開くこととなりました。それも今回斎藤氏が不利だったのは70歳以上であったので、人口割合を加味したとしても全体での優位性は揺るぎませんでした。(40・50歳代で斎藤氏が優位だったこともかなり効いています)

2つめの補正:投票率

もうひとつ考慮しなくてはいけないのが、「若年層ほど投票に行く人が少ない、つまり投票率が低いのではないか」ということです。まだ兵庫県選挙管理委員会から実データが公表されておらず、あくまで参考になりますが宝塚市が前回の県知事選挙での年代別投票率を公表しており、以下のような傾向が見られました。

このように、10-20歳代に比べ60-70歳代は2倍以上投票率が高く、人口比率とともに加味しなくてはいけない要素となります。今回の選挙では前回より15ポイント近い投票率になりましたが、それが特定の年齢だけの投票率を上げるものではないと考えたならば、以下のような年代別の結果となります。

投票率を加味する前は70歳代での差分だけで10-20歳代と上回ることはなかったですが、2つの要素を踏まえるとよりドラマティックにSNS年代とテレビ愛好世代が2極化しているようにも見え、投票率まで加味すると実際の結果に接近する様子が伺えます。

このように、支持層の違いをもとに人口分布・投票率を踏まえても、斎藤氏が有利となった年齢層の広さが際立った形となりました。なお引用した元データ(ABC)がNHKよりも斎藤氏に有利な結果であり、使用する調査データによって差の大小が生じることを(言い訳として)付け添えておきます。

SNS選挙というよりは…

今回の検証をもとに改めて「この選挙はSNS選挙だったのか」という問いに立ち返り、YESというほどSNSを愛好する世代に偏って斎藤氏が支持を得ていたわけではない点を見ると疑問が残ります。広く見積もって30歳代までをSNS愛好世代と考えても、40-60歳代での斎藤氏優勢もしくは拮抗している状況について理由はまだ明らかになっていないと言えます。(年代を問わずSNSに沢山触れた人ほど斎藤氏に投票したなどのエビデンスが待たれます)

むしろ、今回の選挙に至る経緯などを具に報道し一部では偏向していると評されたマスメディアが投票行動に影響したのは70歳以上だけだったかもしれないという点を考えると、テレビを中心とする「マスコミ離れ選挙」であったということが言えるかもしれません。これはテレビ局出身者からすると少し淋しい結果ではありますが、それが直近でのアメリカ大統領選挙をはじめ世界の趨勢と考えると、メディア側もそれに触れる側も情報の取り扱いについて再考を迫られているのではないでしょうか。

カギを握ったのは11万人以上いる公務員?

最後に、今回の選挙結果に影響したかもしれないデータをご紹介します。兵庫県には県庁職員が約5万人、市町職員が約6万人が働いています。こうした斎藤知事のもとで仕事をした、あるいは間接的に関わった公務員が約11万人=全県の2%いて(ただし必ずしも全員が県内在住ではありません)その方々が今回の選挙をどう捉えたかということも影響するのではないかと思います。彼らがマスメディアの報道をどう感じ、家族や知人に賛同したのか否定したのかも結果を方向付けたひとつの大きな原因になったかもしれないことを付け添えておきます。

最後までお読みいただきありがとうございました。あなたは今回の選挙、そしてその結果にどう思いましたか。


いいなと思ったら応援しよう!

公務員のための新しい広報の教科書著者は元テレビ局員&地方公務員|西垣内渉
サポートいただける方は、どんな記事をご所望かを是非お伝えくださいませ。日頃の発信に活かし、還元させていただきます。