猫と人が快適に暮らせる賃貸の作り方、教えます。 〜エピソード10:猫が3次元に動ける工夫
Gatos Aptが考える猫専用賃貸に必須装備その3「猫が3次元に動ける工夫」編です。大体の方が壁に、板やボックスを設えたキャットウォークを思い描かれる事と思います。が、ここではキャットウォークの作り方や種類を解説する訳ではありません。もっと根源的な、猫が積極的に使いたくなる上下に動く工夫についてお話ししたいと思います。
近年「猫共生物件」と謳った物件が増えていることを実感しています。この事自体は喜ばしい限りなのですが、「猫共生物件を建てたけれど、思う様に入居者さんが集まらない」というご相談を頂く事も増えました。こうしたオーナーさんに「猫共生として、どんな工夫をされましたか?」とお聞きすると100%「キャットウォークを作りました!」とお答えになります。大抵の場合、それ以外のアピールポイントはなかったりします。どんなキャットウォークか写真を拝見すると、居室の壁1面に板を貼り廻らせたり、天井にも板を設置して自由に猫が板の上を歩き回ることができるようになっているやり方を良く拝見します。中には猫のイラストを配したり、猫の肉球の型に板をくり抜いたり、猫カフェの様に天井に吊り橋を設置したりと、皆さん苦労して創意工夫されています。なのに不人気なのは何故なのでしょうか?私は2つの大きな勘違いが引き起こした悲劇だと考えます。
猫を3次元に動かすには、目的が必要
完全室内飼いの環境下において、猫が動ける範囲は自ずと限られます。いつまでも健康で長生きして欲しいと願う飼い主としては、少しでも運動をさせたいと思うものです。犬は2次元の生き物で、原っぱなどの広い空間があれば走り回って運動することが出来ますが、対して猫は3次元の生き物、上下に動くことを好む生き物です。なので一見、室内にキャットウォークを設置することは理に適ったことに思えますが、実はここに大きな落とし穴があるのです。
人間が善かれと思って作ったキャットウォーク、猫にとっては魅力的ではないケースが多いのです。「こうやって板を連続して配置すれば、猫は喜んで使ってくれるだろう」、「吊り橋にすれば、猫もスリルを味わえて面白いだろう」という考え方は、あくまで人間が思い描く勝手な想像に過ぎません。またキャットウォークの素材が木材であろうが、ガラス製であろうが、スチールのグレーチングであろうが、猫からすれば「どうでも良い事」なのです。下から見上げて猫の香箱を見ることが出来る!と喜んでいるのは「人間側」です。足場がグラグラ揺れることや、透明な床であることに、猫は不安こそ感じることはあれ、喜ぶことはありません。これが1つ目の勘違いです。こうしたキャットウォーク、最初の内は猫も「これは何だろう?この先に何があるんだろう?」という好奇心から使ってくれます。が、1ヶ月もしないうちに使わなくなるケースが大半です。理由は単純明快で、猫からすると「キャットウォークを使う理由、メリットがないから」なのです。猫自らアクションを起こして積極的に昇り降りをしようと思うのは、そこに何かしらの「メリット」があるからです。単に板を設置しただけでは猫が感じるメリットには成り得ないのです。
本末転倒、キャットウォークのせいで家具が置けない!
2つ目は、借主は猫を飼っているのだからキャットウォークを喜ぶはず、と言う勘違いです。エピソード8で述べた様に、日本の賃貸市場は如何に無駄なスペースを作らないか、に心血を注いでいます。限られたスペースにおいて、壁は借主にとって意外と重要なスペースなのです。本棚やタンスやTV台を置いたり、デスクを設置してワークスペースとしたり、その用途は人それぞれ。この貴重なスペースをキャットウォークが占拠していて、尚且つ取り外しが出来ないものだと、借主は不自由な生活を強いられることとなります。実際、「この備付けのキャットウォークがあるせいで、今持っているタンスを置くスペースがないので入居を断念します」とおっしゃる内見者を多数見て来ました。人にも猫にも充分なスペースを確保出来る広い部屋であれば良いですが、20㎡前後のワンルームでこれをやるのは、住む人の使い勝手をスポイルしてしまい得策とは言えません。
Gatos Aptが考える「猫自ら進んで行きたく場所の3条件」
では、猫にとってのメリットとは何でしょうか?長年、猫専用賃貸コンサルタントとして活動して来た中で、多くの猫が実際に使ってくれるものには3つの条件があると分かりました。1つ目の条件は「陽が当たる」です。猫は暖かい所を好みます。特に冬場は太陽の光が当たる場所で日向ぼっこをするのが大好きです。2つ目が「外の様子を窺うことができる」です。鳥が飛んでいるのを眺めたり、街行く人を眺めたり、興味深げに闊歩する野良猫を凝視したり、外界は刺激に溢れていて、猫の好奇心を刺激してくれます。3つ目が「風を感じることができる」です。風は、花、土、水など様々な匂いを運んで来てくれます。日向ぼっこで火照った身体を優しく風が吹き付けるのは気持ちの良いものです。網戸越しに眼を細め、鼻をクンクンさせている猫を良く見かけます。
で、この3条件を叶えられる物は何かと言いますと、ご想像の通り「窓」なのです。陽が当たれば窓から日差しが入り、外の様子を伺うことができ、開ければ風が入って来ます。近年の私のプロデュース物件は、この条件が叶えられる所に窓と猫が乗るための板を設置しています。3条件全て揃えられればベストですが、物理的に難しい場合は、2条件またはどれか1条件が叶えられる場所を選定します。実際には「風を感じる」を諦めるケースが多いです。何故ならば、人の手が届かない高い所に窓を設置するケースが多いので物理的に窓の開閉が難しいからです。単に窓があれば良いと言う訳ではなく「猫が進んで行きたくなる」場所を作ることが目標ですから、高い所に作らなければなりません。これを私は「猫窓」と呼んでいます。猫が猫窓に至るまでの導線は、全て御膳立てすることはありません。ケースバイケースですが、飼っている猫の特性に合わせて飼い主が工夫して自由に導線を作れるよう、スペースを作ることが多いです。
猫窓に至るまでの導線は、入居者に作ってもらえば良い
「猫窓まで猫が辿り着くまでキャットウォークが要るんじゃないの?じゃないと折角作った猫窓が無駄になっちゃうよ!」と思われることでしょう。私の結論は「要らない」です。そう言い切るのはこういう理由があるからです。
昨今、飼い猫の長寿命化が進んでいます。一昔前の猫の平均寿命は10年前後と言われていましたが、最近では20年生きる猫も珍しくありません。室内飼いの定着、食べ物のレベル向上、医療技術の向上など、猫を取り巻く住環境が整って来た証左でしょう。猫の語源は「寝子」から来ている(※諸説あります。)という話しがある位、良く寝る生き物です。歳を取るにつれ、寝ている時間も増える傾向にあります。若い頃より体力が無くなって来て、活発に動かなくなるからです。賃貸には若い猫から年老いた猫まで、様々な猫が暮らします。「ウチの子はオスの1歳で元気なヤンチャ盛りだから、高めのブックシェルフを設置しよう。」「ウチの子は20歳のお婆ちゃんであまり運動をしないけど、いつまでも健康でいて欲しいから低いところからシェルフを組んで緩い階段を作ってあげよう。」「大きいテレビ台を置きたいから、市販のキャットツリーを設置してあげよう。」など、飼い主さんが創意工夫をして、自分の飼っている猫の特徴・特性に合わせた導線を楽しみながら作ってくれれば良いと考えています。無印良品、IKEA、ニトリなど、安価で高品質なメーカーが多数ある現在において、テイストの押し売りをするのではなく、住む人の好みを体現しやすい環境を整えてあげることが重要だと考えています。
猫窓を作ることができるのは、オーナーだけ
最近は「原状回復義務のないDIY可賃貸」が人気を呼んでいます。借主は大家さんに断りなく、好きに部屋をDIYしてOKという賃貸です。壁を好きな色に塗ったり、棚を作ったり、自分好みにDIYしても退去の際、元の状態に戻す原状回復をする必要がないという手軽さから、人気を博しています。DIY可賃貸だとしても、出来ないことが多々あります。その代表格が「窓を作る」ことです。構造計算もせず無闇に壁を抜いてしまうと、建物全体が崩落するリスクすら考えられます。例え構造計算をした上であったとしても壁をくり抜いてサッシを入れて、という作業はもはやDIYのレベルではなく、リフォーム業者・工務店といったプロに依頼するレベルのものです。それ以前に素人が「窓を開けよう!」という発想には至らないのが普通です。入居者が「ここに猫用の窓があればなぁ…」と思っても、おいそれと叶えることはできません。それが出来るのは、賃貸オーナーだけなのです。監修者の私は、毎度「ここに猫窓を付けたら喜んでくれるかな?」とワクワクしながら設計図を眺めています。
Gatos Apt監修、猫が三次元に動くための工夫
それでは、私が監修した賃貸物件の「猫が三次元に動くための工夫」の例を写真でご覧ください。