地元の方言だと思っていたら実は1000年前の言葉だった「かす」
「かす」は悪口の「カス」ではありません。
「貸す」でも「粕」でもありません。
私の地元で「水に浸けること」を意味します。
「食べ終わったお茶碗かしといて」みたいに使います。
これ、方言だと思っていたら実はなんと約1000年前、平安時代の頃から使われていた言葉だったのです。
なぜその事実が判明したのか。
ことの発端はこんな話です。
15年くらい前に、妹が大学の授業で
「方言の中には、古文の教科書に出てくるような古語がそのまま残って、今でも使われているものがわずか数語ほどある。」
って聞いたという話をしてくれたことがあり、私は興味深く耳を傾けていました。
しかも驚いたことに、そのわずかに残った「古語かつ方言であるもの」が使われている地域の一つとして、ドンピシャで私の地元の地名が挙げられたというのです。
その時は「まさかそんなことが」という驚きの方が強く、具体的にどんな語が該当するのかは覚えていなかったのですが、私は方言というものに対して昔から興味や関心が強かったので、ずっと気にはなっていました。
で、10年前に東大受験の勉強を始めた頃にその話を思い出して、思いつく方言を片っ端から電子辞書の古語辞典で検索し、ついに「かす」が当該の語であることを突き止めたのです。
この事実を発見した時はちょっと感動しました。おお、これがあの話に出てきた古語かと。RPGで伝説のアイテムを見つけたような気分です。
冒頭で「食べ終わったお茶碗かしといて」という用例を紹介しましたが、これは茶碗にこびりついた米粒のかすが、固まってとれにくくならないように水に浸しておいてねという意味で、よく母親に言われていました。
まさに①の意味にぴったりです。
と同時に、別の疑問が湧いてきました。
というのも、冒頭で「かす」が方言だと書きましたが、実はこの語は私の周りでも使っている人を見かけたことがなかったからです。
小学校の時、どういう流れか、この「かす」という言葉の話を友達にもちかけたところ、
「えっ、そんな言葉知らないよ」
という反応が返ってきました。おかしいなと思い他の子に聞いたのですが、やはり皆「そんな言い方しない」の一点張りです。
家に帰ってこのことを母親に話してみると「いや、うちではずっとそういう風に言ってるよ」ということだったので、もしかしたら私の家の周り数軒ほどのごく狭いエリアで使われていたのか、あるいは私の家系だけで代々受け継がれてきた語なのかもしれません。
どちらにしても、中世からの言葉を連綿と受け継ぐ、日本有数の超レア種の人間にまさか自分が該当しているとは、と分かった瞬間の感動は何とも言えませんでした。
というわけで皆さん、私が方言界隈における人間国宝です(おい)。
各大学で方言を研究されている先生方、もしサンプリングが必要であればお気軽にお問い合わせください。
方言の話は大好きなので、また色々と他の話もできればと思います。それでは、今回もここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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