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福島からはじまり、世界へ。GATCHは伝統工芸品の魅力を伝えていく

こんにちは。ガッチ株式会社広報部です。

私たちは、福島県双葉郡浪江町の大堀地区で約350年間生産されてきた国の伝統的工芸品「大堀相馬焼」松永窯の4代目松永 武士が始めた会社です。現在は、日本各地の伝統工芸品の魅力を世界に向けて発信する商社・メーカーとして活動しています。

今回の記事は、ガッチ株式会社の創業から現在までのストーリーを前後編でお届けします。前編では、松永が福島から大学で上京し、学生起業や海外起業を経て、東日本大震災で被災した「大堀相馬焼」の復興に携わっていく覚悟までをご紹介しました。

震災後の海外起業を経て、1年後に日本に帰ってきた松永。東京電力福島第一原子力発電所の事故のため、浪江町は帰宅困難区域として封鎖され、多くの「大堀相馬焼」の窯元は廃業に追い込まれていました。松永は、家業である「松永窯」をいかにして復興していったのか。ガッチ株式会社が歩んできた、これまでとこれからをお届けします。

「全方位課題」状態。ウェブサイトをつくることからはじめた

ーー震災の1年後。松永さんが海外から戻ってきたとき、故郷の福島県浪江町や「大堀相馬焼」はどんな状況だったのでしょうか。

浪江町は帰宅困難区域になり、地域に25件あった「大堀相馬焼」の窯元は、すべて町外への避難を余儀なくされました。僕の両親も、栃木県の那須塩原に避難して、仕事どころではなく、生活だけで精一杯の大変な1年間を過ごしていました。

「大堀相馬焼」松永窯での生産の様子

「大堀相馬焼」は、青磁釉による「青ひび」というひび割が器全体に広がった焼き物です。この色合いを出すためには、青色が綺麗に出る「浪江の土」が不可欠なんです。しかし、放射能汚染で土が使えない。まずは、愛知から土を持ってきて、色合いや風合いを出せるように調合するところから始まりました。震災から3年後の2014年に、「松永窯」は福島と栃木の県境にある新白河で仮設工房を作り、焼き物を生産し始めました。

縁起の良い「走り駒」、ひび割れのひろがった「青ひび」模様、冷めにくく、手に持っても熱くない二重構造が「大堀相馬焼」の特徴です

ーー工房を移転して、変化したことはありますか?

これまで見えていなかったコストが見えるようになりました。震災前は、自分の土地の窯で、原材料の土も近くの山から採ってきていたので、コストがほとんどかからず、利益があまり出なくても事業として成り立っていた。しかも観光客のお土産としてのニーズも高かったんです。しかし、新しい場所に窯を建てて始めると、家賃も原材料もかかる。新しい販路を開拓して、ブランディングを確立していかないといけない。まさに「全方位課題」状態でした。

まずは情報発信をしようと思い、ウェブサイトを作りました。大堀焼の窯元は、当時ひとつもホームページを持っていなかった。ECサイトを作り、道の駅や県内のアンテナショップに卸していて、被災を免れた商品を引き取り、売り始めました。

最初はなかなかうまく行きませんでしたね。けれど、都内でよく開催されていた「復興イベント」「東北マルシェ」に出展したり、SNSも活用して、こつこつと売り続けました。少しずつメディアが取り上げてくれるようになり、売上が上がっていきました。

「大堀相馬焼」のリブランディングと海外販路の開拓へ

ーー販路の開拓とともに取り組んだ新商品の開発では、どんなことを大切にしていたのですか?

「大堀相馬焼」は伝統的でシンプルなデザインの商品が中心であったため、より多くの人に届けるために、リブランディングが必要だと思ったんです。デザイナーとコラボレーションして、洗練されたデザインの商品を開発していきました。

LIFE×DESIGNアワード・ベストストーリー賞を受賞し、グッドデザイン賞にも輝いた「クロテラス」。東京・南青山のレストラン「NARISAWA」をはじめ、数々の星付きレストランで料理を演出している

松永窯で粉末を釉薬の一部にしていた石巻の伝統工芸品「雄勝硯」の特性を活かして、石巻のこどもの複合施設「モリウミアス」のために作った「クロテラス」や、「大堀相馬焼」の特徴である二重焼きを活かして、卓上で燗酒ができる「IKKON」お燗器などが、グッドデザイン賞を受賞しました。「IKKON」は、贈り物としてのパッケージにもこだわり、アジアの優れたパッケージデザインに贈られる賞「Topawards Asia(トップアワード アジア)」も受賞することができました。

「大堀相馬焼」の2重構造を活かして開発した3種のぐい飲み「IKKON」。
内部の形状が異なるため、味わいの変化を楽しむことができる

さらに、海外で販売することで「大堀相馬焼」のブランディング、さらに日本の価値の魅力発信に繫がると思い、アメリカやオーストラリアなど、海外の展覧会にも積極的に出展しました。「IKKON」は、パリで行われる世界最高峰の家具見本市「メゾン・エ・オブジェ(Maison & Objet)」にも出場し、世界の目利きのお客様にも満足していただけました。

伝統工芸品の商品開発で知った、視点を上げることの大切さ

ーー伝統工芸品などの販路開拓や商品開発にたずさわる「プロデュース事業」はどんな形で始まったのでしょうか?

「松永窯」の復興のために試行錯誤していくなかで、2019年ごろから、地域で悩みを抱えている会社から販路開拓や商品開発のご相談を受けることが多くなりました。「大堀相馬焼」だけではなく、他の伝統工芸品も困っている。これまでの経験がお役にたてるかもしれないと、工芸品の会社の支援に携わるようになりました。

香港で500名を集客し大成功に終わった「一生幸福」の試飲イベント

東日本大震災で被災し、山形で再出発していた「鈴木酒造店」「一生幸福」。香港と上海にターゲットを絞り、ディストリビューターや日本酒バーのオーナーや百貨店などのマーケティング、香港での試飲イベントを経て、ラベルデザインをリニューアルし、海外展開を成功させました。それを皮切りに「なみえ焼そば」「奄美黒糖焼酎」など、商品開発や販路拡大やマーケティング、ブランディングのお手伝いをする「プロデュース事業」のご依頼が少しずつ増えていきました。

世界へ広がりつつある鈴木酒造の「一生幸福」

ーープロデュース事業で大切にしていることはありますか?

会社の視界が広がることのお手伝いをさせていただけたらいいなと思っています。伝統工芸は、積み重ねてきた素晴らしい歴史があるからこそ、視野を広げることが難しくなってしまう部分もある。けれど、これまで考えていなかった海外のニーズに目を向けることができたとき、自分たちの魅力を認めてくれるお客さんと出会うことができて、可能性が広がります。そのために、僕たちも一緒に挑戦し続ける。

それはガッチ株式会社が大事にしていることでもあります。「大堀相馬焼」だけではなく、焼き物、伝統工芸、地域、福島、日本、海外と、広い分野に目を向けることで、「大堀相馬焼」や地域に還元されていく。伝統工芸こそ、広い世界に視点を向けていくべきなのではないか。僕が「大堀相馬焼」の復興に関わり、伝統工芸の会社とご一緒させてもらうなかで強く思うことです。

福島からはじまり、日本の伝統工芸品の魅力を世界へ届ける

「今日をちょっとハレの日にする器」をコンセプトに日本全国の伝統工芸品を紹介する「縁起屋」

ーーこれからどんなことに挑戦されていくのでしょうか?

「ガッチ株式会社」は、福岡県の窯元との出会いをきっかけに生まれた、全国の伝統工芸品を紹介するEC「縁起屋」や、伝統工芸品の担い手不足の解消と障害のある人の才能発掘のために福島県白河市ではじめた就労継続支援B型施設「tokugy(トクギー)白河」など、伝統工芸の価値とニーズを合致させることを軸として、様々な事業を行うようになりました。

就労継続支援B型「tokugy白河(トクギー)」での焼き物への絵付け

根本にあるのは、福島への想いです。伝統工芸の支援を通して「大堀相馬焼」、そして福島を復興させたい。そのために様々なことにチャレンジしていきます。福島は特殊な場所で、東日本大震災の風評被害を払拭する所から始めないといけない。長い時間が必要です。しかし、困難がある地域だからこそ補助金の支援もある。プロデュース事業でも、国の補助金を活用した事業のお手伝いもさせていただいています。

「ガッチ株式会社」は、福島の復興のための取り組みを行いながら、日本全国の伝統工芸の魅力を海外に伝えていきます。「大堀相馬焼」の復興で培ったノウハウを元に、日本全国の伝統工芸の魅力を海外のニーズと合致させることが、福島の復興や「大堀相馬焼」の存続、そして日本の魅力を伝えることに繋がっていく。そう信じて進んで行こうと思います。

text.ガッチ株式会社広報部 荒田詩乃

ガッチ株式会社では、伝統工芸に関わる事業の商品開発やブランディング、海外での事業展開や販路開拓を承ります。お気軽にお問合せ下さい。コーディネーターが丁寧にお応えします。
ガッチ株式会社 https://gatch.co.jp/
代表・松永武士Xアカウント https://x.com/bushi7


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