新幹線開業により廃止される特急と残る特急の条件
新幹線は都市間輸送の高速化のために建設され、現在は地方の地域振興の目的もある。そのため、新幹線が開業すると並行する特急は廃止され在来線は幹線としての役目を終えるのが原則だ。
しかし、新幹線に並行する特急は全て廃止される訳ではなく様々な事情から残存する場合がある。
そこで今回は過去の新幹線開業により廃止された特急や残存した特急にはどんな条件があるかを考え、また今後の新幹線開業(整備新幹線•基本計画新幹線)によりどんな特急が無くなりどんな特急が残るのかを考察する。
新幹線開業により廃止された特急列車の一覧
北海道新幹線
⑴2016年新函館北斗
特急白鳥
特急スーパー白鳥
東北新幹線
⑴1982年盛岡開業
特急はつかり
(区間短縮)特急ひばり
特急やまびこ
⑵2002年八戸開業
特急はつかり
(区間短縮の上で白鳥に改称)特急スーパーはつかり
(区間短縮の上でスーパー白鳥に改称)
上越新幹線(1982年一斉開業)
特急とき
北陸新幹線
⑴1997年長野開業
特急あさま
⑵2016年金沢開業
特急はくたか
特急サンダーバード
(魚津•富山発は区間短縮)
東海道新幹線(1964年一斉開業)
特急こだま
(廃止)特急つばめ
(区間短縮)特急はと
(区間短縮)
山陽新幹線
⑴1972年岡山開業
特急つばめ
(区間短縮•変更)特急はと
(区間短縮)
⑵1975年博多開業
特急つばめ
特急はと
特急かもめ
(一旦廃止後翌年に九州島内のみに短縮の上で復活)特急みどり
(区間短縮の上でにちりんに編入)特急しおじ
特急ひゅうが
特急なは
九州新幹線
⑴2004年新八代以南部分開業
特急つばめ
(区間短縮の上でリレーかもめに改称)
⑵2011年全線開業
特急リレーつばめ
西九州新幹線
⑴2022年武雄温泉以西部分開業
特急かもめ
(区間変更の上でリレーかもめ•かささぎに改称)
新幹線開業後も残存する特急
このように新幹線ができると並行する特急がは廃止される場合がほとんどだ。しかし一部の新幹線に並行する特急は新幹線開業後も残存することがある。
新幹線開業後に残存した特急は主に2つの条件に分かれる。
⑴他路線に直通する場合
1つ目は他路線に直通する場合だ。
前章で述べたのように、大部分が新幹線に被っていても途中から分岐して別の新幹線がない地域に直通する特急は、需要によっては全区間で残存する場合がある。
具体的には新幹線で高速で行くよりも乗り換えなしで行けることの方が重要になる列車、すなわち新幹線と所用時間に大きな差がつかない列車が当てはまる。
該当列車
特急日光
(東北新幹線と並行、何度か廃止•臨時列車化と復活を繰り返しルートも変わるも現在まで残存)特急草津
(上越新幹線と並行、後に開業した北陸《長野行き》新幹線に客を奪われながらも区間を短縮して残存)特急踊り子
(旧•特急あまぎ、東海道新幹線と並行)特急ひだ
特急しらさぎ
(東海道新幹線と並行)
※その他、山形新幹線開業まで東北新幹線に並行し山形•秋田へ向かう特急つばさがあった
しかしこの中には一度は残ったものの後に廃止されてしまったものがある。この原因は時代の変化であると考えられる。具体的な理由は⑵で述べる。
該当列車
特急あいづ
特急やまばと
(東北新幹線が大宮発だった時代に上野から山形方面に2回乗り換えが発生するのを防ぐ為に残存)特急鳥海
(上越新幹線が大宮発だった時代に上野から坂田方面に2回乗り換えが発生するのを防ぐ為に残存)おはようライナー•ホームライナー逗子
特急しなの(大阪発着便)
九州横断特急•特急くまがわ
⑵運行区間が近距離の場合
2つ目の条件は運行区間が近距離であることだ。例え全区間に渡って新幹線と並行していても、たかが少しの区間でわざわざ高いお金を払って新幹線には乗りたくはないと考える人が一定数いるためである。特に通勤・通学客がいる場合は特急残存の必要性がなおさら高まる。
該当列車
特急あかぎ•スワローあかぎ
(上越新幹線と並行)しなのサンライズ•しなのサンセット
(旧•快速モーニングライナー•快速ホームライナー)特急きらめき
(旧•有明/かもめ/つばめ/ホームライナー、門司港〜博多間、山陽新幹線と並行)あいの風ライナー
(旧•おはようエクスプレス•おやすみエクスプレス)
新幹線開業後に新規設定
特急湘南
(旧・湘南ライナー、東海道新幹線と並行)ホームライナー沼津•静岡•浜松•大垣
しかし、こちらも時代の変化により一度は残ったものの廃止されたものがある。この理由は先ほど述べた「たかが少しの区間」の定義が変化したことが挙げらる。
例えば、東京と黒磯を結んでいたおはようとちぎ•ホームタウンとちぎは、たかが黒磯で新幹線にお金を払うなど馬鹿馬鹿しいと思って設定されたのだろう。しかしそれが廃止された現在では東北新幹線で東京発の那須塩原(黒磯の隣駅)止まりのなすの号が終日が設定されている。つまりJRとしては黒磯まででも新幹線を使う人はいるはずだと考えているのだ。
この原因は単にJRが人口減少•過疎化による減収を補うために在来線利用客を新幹線に誘導したいということもある。しかしそれ以外に1970年代と比べて国民の生活が豊かになり新幹線がより大衆的になったことも考えられる。
該当列車
特急谷川
(上越新幹線と並行)特急水上
(上野〜水上間、上越新幹線と並行)特急東海
(東京〜静岡間、東海道新幹線と並行)特急有明
(門司港〜大牟田間、九州新幹線と並行)
新幹線開業後に新規設定
おはようとちぎ•ホームタウンとちぎ
(新宿〜黒磯間、東北新幹線と並行)ホームライナー古河•鴻巣
ホームライナー三島•豊橋•岐阜•蒲郡•岡崎•関ヶ原
特急川内エクスプレス
(川内〜鹿児島中央、九州新幹線と並行)
⑶運行時間帯が新幹線と重ならない場合
新幹線の走らない時間帯に走る列車、具体的には夜行列車は多くの場合残存した。
数が多いため挙げれば枚挙にいとまがないが、以下の新幹線開業時には夜行列車が残った。
東北新幹線
上越新幹線
東海道新幹線
山陽新幹線
九州新幹線
しかし時代の流れにより以下の二つのことが発生し、夜行列車の需要が大幅に減りそれに合わせて夜行列車も大幅に減少し、現在残る夜行列車は東海道・山陽新幹線と並行する「サンライス瀬戸・出雲号」と「WEST EXPRESS銀河」のみとなった。
高速道路網の発達により価格面で勝る高速バスが台頭
新幹線の高速化により出張の場合は始発に乗れば間に合うようになる
また、以下の路線の並行在来線は開業時または開業前に夜行列車が全廃された。
北海道新幹線
北陸新幹線(長野新幹線含む)
西九州新幹線
⑷運行経路が新幹線と異なるもの
目的地が同じでも運行経路が新幹線と同じ場合は残存する。
ただし特急ひたちは2011年にいわきでの系統分離が計画されたが実現しなかった。
そのまま残存
特急ひたち
(品川〜仙台間を常磐線経由、東北新幹線と目的地が同じ)
一度は残存したがのちに系統分離
特急白鳥
サンダーバード•いなほ•つがる
(大阪〜青森間を日本海側経由、東海道•東北新幹線と目的地がほぼ同じ)
※系統分離当時、東北新幹線は盛岡までの開業
今後の新幹線の開業によって起きる特急の変化(整備新幹線編)
では、今後新たに新幹線が開通した場合、どの特急が廃止され度の特急が残存するのだろうか。
今後開業予定の整備新幹線は以下の通りである。
北海道新幹線(新函館北斗~札幌)
中央新幹線(東京~名古屋)
北陸新幹線(金沢~敦賀~大阪)
九州新幹線西九州ルート(新鳥栖~武雄温泉)
⑴運行経路がほぼ完全に新幹線と重なるもの
この場合は「新幹線」と特急の関係で述べた通り廃止になることが確実である。
特急サンダーバード
特急リレーかもめ
⑵他路線に直通するもの
この場合も過去の事例では全区間残るケースと区間短縮が行われて新幹線との乗り継ぎになる場合がある。
特急あずさは中央新幹線が甲府駅・塩尻駅を経由しないため乗り換えが難しく、残存する可能性が高い。
一方のしらさぎとみどり・ハウステンボスの場合は新幹線と在来線の乗り継ぎが行いやすく、区間短縮の可能性が高い。
特急かささぎの肥前鹿島発着列車や特急みどり•ハウステンボスについては新幹線に反対だった肥前鹿島市•佐世保市が残存を強く要望する可能性が高い為不明である。
特急あずさ
特急しらさぎ
特急かささぎ(肥前鹿島発着)
特急みどり・ハウステンボス
⑶区間が近距離なもの
この場合は残存するか廃止されるかが全くの未知数である。通勤客や通学客が多い場合は朝夕の特急やホームライナーが残るケースもあるが、近距離なら普通列車や快速列車で十分であるとして切り捨てられる場合がある。
ホームライナー(北海道)
特急おうめ・はちおうじ・かいじ
特急ダイナスター
特急びわこエクスプレス
特急かささぎ(佐賀発着便)
⑷運行経路が新幹線と異なるもの
この場合は過去の事例では全区間残るケースと区間短縮・系統分離が行われるケースがある。
特急北斗の場合函館~長万部間の在来線が経営分離の対象となる為、区間短縮が行われる可能性が濃厚である。
特急北斗
今後の新幹線の開業によって起きる特急の変化(基本計画新幹線編)
次にまだ整備計画が決定していない新幹線の場合を考察する。結論から言うとこちらも基本的に整備新幹線と変わらないだろう。
今後開業予定の基本計画新幹線は以下の通りである。
北海道新幹線(札幌〜旭川)
北海道南回り新幹線(長万部〜室蘭〜札幌)
羽越新幹線(上越妙高〜水上、新潟〜新青森)
北陸・中京新幹線(敦賀〜米原)
山陰新幹線(新大阪〜松江〜新下関)
中国横断新幹線(岡山〜松江)
四国新幹線(新大阪〜大分)
四国横断新幹線(岡山〜高知)
東九州新幹線(小倉〜大分〜鹿児島中央)
九州横断新幹線(大分〜熊本)
⑴運行経路がほぼ完全に新幹線と重なるもの
この場合も整備新幹線と同様、廃止が確実である。
特急カムイ•ライラック
特急北斗
特急すずらん
特急つがる
特急いなほ
特急しらゆき
新在直通列車つばさ
特急しらさぎ
特急やくも
特急しおかぜ・いしづち・モーニングEXP
特急うずしお
特急南風・しまんと(高知発着)
特急ソニック・にちりんシーガイア・にちりん・ひゅうが
特急きりしま
九州横断特急
⑵他路線と直通するもの
特急はしだては比較的近距離でかつ観光地があるため残存の可能性が高い。しかし宗谷とオホーツクは実際に2018年に一部が旭川で系統分離(特急サロベツ•大雪に名称変更)されたため新幹線開業後は全列車が旭川発になる可能性が十分ある。
特急宗谷
特急オホーツク
特急はしだて
⑶運行区間が近距離なもの
特急まいづる•きのさきは比較的近距離でかつ観光地があるため残存の可能性が高い。しかし特急あその場合は車両管理の都合から九州横断特急とともに廃止にする方が効率的である。また同じ九州のきりしまも近距離だが九州新幹線との連絡の役割があることを考えると廃止される可能性が十分ある。
特急まいづる
特急きのさき
特急あそ
特急きりしま
⑷運行経路が新幹線と異なるもの
新在直通列車こまち
特急剣山
特急はまかぜ
特急スーパーいなば
特急ゆふ
最後に
いかがだっただろうか。基本計画新幹線が全通するのは最速でも2080年代ごろになると予想される。実現後の日本の特急がどのようになるかは想像できないが、大藩の特急が廃止されるのは確実である。
新幹線の開業以降、次第に特急列車は長距離輸送から短距離輸送にシフトし、食堂車や個室車両のような豪華な設備は減少傾向にある。これらがなくなるのは非常に残念だが新幹線によって通勤可能県が拡大し日本の地方の過疎化を止めることができるのであればそれに越したことはないと思う。