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クリシェ

朝晩ばかりは ようやく涼しくなって
日差しのなかに 秋の色が混じりだす

どこからか流れてくる コーヒーのにおい
確かエスプレッソは嫌いだっけ

何でそんなことを 思い出すのやら
すねた君が テーブルで本を開く

どうにも生真面目すぎて好きになれないの
そう言いながら いつもヴェイユを読んでた

思想のために死ぬなんて馬鹿じゃない
そう言いながら 読み古した本に付箋をはさむ

ヴェイユは死んだ でもその言葉は多分
クリシェのように 誰かの血肉になって

別にそんなんじゃない 君は面倒くさそうに
席を立った そしていなくなった でも

その君の言葉が今も 僕のクリシェ


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 存在するものは何一つとして、絶対的な意味では、愛するにあたいしない。
 だから、存在していないものを、愛さねばならない。
 だが、この愛の対象は、存在していないからといって、こしらえものではない。わたしたちがこしらえたものならば、愛するにあたいしないわたしたちと同様に愛するにあたいしないはずだから。

 (シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』田辺保 訳 ちくま学芸文庫P183)

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