#54. 「終わり」のはじまり
二人目の、断乳が完了した。
日付を決めて、準備して、覚悟はできていたつもりだったけれど、寂しかった。
これが、「育児の終わり」の、始まりなのかなって思ったからだ。
「初めての」から「最後の」へ
育児ははじめてのことばかりだった。
授乳をし始めてから、母乳は勝手に出てくるものじゃないって知った。
赤ちゃんがこんなに寝てくれないものだって知った。
はじめてのおでかけも
はじめての離乳食も
はじめてのトイレトレーニングも
全部全部はじめてだった。
二人目が産まれて。
今度ははじめてじゃない!うまくいく!
…って思ってた。
今度は「はじめての二人育児」だった。
はじめてのおふろ(二人同時)
はじめての寝かしつけ(二人同時)
授乳しながら、お兄ちゃんの遊びの相手をする。
「おっぱいあげないで!お母さんと一緒に寝る!」
と駄々をこねながら泣く泣く眠りについた息子を見て、ごめんね、と言う日々。
でも、全部終わりを迎えることを知っている。
いつか一緒にお風呂に入らなくなる。
いつか一緒の布団で寝なくなる。
いつか一緒におでかけしなくなる。
「最後の」は、いつの間にか通り過ぎていくだろう。
そんな子離れの最初のステップが、断乳なんだろうなと思った。
赤ちゃんは、母親のお腹で育ち、
母親の腕に抱かれて、おっぱいを飲んで、
母親との愛着を形成していく。
その時期が終わると、
父親が社会と結びつける役目を果たすのだそうだ。
母親の腕から巣立ち、外の世界へ旅立つ手助けをする。
だから、断乳には父親の協力が必要。
これは断乳に際して、おっぱいマッサージの助産師さんの言葉を、私なりに理解した言葉。
断乳の準備
そろそろ断乳を考えてます、と助産師さんに連絡をして、事前にマッサージ(手技、という)の予定を組む。
まず様子を見るから好きなときにいらっしゃい、とのことだった。
3月断乳の予定で、1月後半に一回目の手技に通った。このとき娘1歳2ヶ月。断乳をできる条件が整っているかどうかの確認をする。
一人歩きが安定している。
離乳食が進んでいる。
お茶などで水分が摂れる。
母親との愛着の形成ができている。
母子共に断乳することに納得できている。
「よし、もう断乳しても大丈夫だ」って、母親自身が思えることが、一番大事。
そのためには、赤ちゃんとの絆があって、この子なら大丈夫だって思えること。
赤ちゃん自身が納得しているかどうかは、言葉が話せないうちは分からないっていうのが正直なところだけど…、母親だからこそ分かる「感覚」だと思っている。
また、先生が手技の部屋での赤ちゃんの様子から、離れる準備ができているかを見てくれている。
お母さんが施術ベッドに上がって泣いたとしても、その泣き方がただ泣きわめくだけでなく、お母さんと離れて悲しいけど、それを理解して、寂しさをこらえて泣いているのであれば、心の準備ができているということ。
一週間くらい前から、娘にも言葉で伝えるようにした。
「あと○日で、おっぱいおしまいだよ。おっぱいバイバイだよ。」
授乳しながらそう言うと、娘は
「ん。ん。」
と返事をする。
「そうなの、あなたわかってるのね、かしこいね。」
ほんとに分かってるかどうかは、さておき。
断乳に最適なタイミングは
寒すぎず、暑すぎず、病気になりにくい時期
直後に外出や大きな予定が入っていない日
復職など生活環境が大きく変わるなら、その3週間前までに
赤ちゃん自身が体調が良いとき
父親の協力を得られる日
という条件から、3月に入って少し暖かくなることを期待して、一週目の3月4日の土曜日にした。
病気になりにくい時期や、外出予定がないというのは、それまで母乳から得られていた消化酵素が摂取できなくなることから、病気をもらいやすくなるから。
3週間前というのは、断乳してからお昼寝や食事などが安定してくるのを待つため。
また、赤ちゃんの風邪などで母乳を続ける必要が出てきてしまうと、一週間後など断乳予定を遅らせなければならないため、その予備期間。
そして父親の協力。
先に書いたような精神的な意味もあるが、体力的な面もある。
最後の授乳のあと、赤ちゃんはいつも通り母乳をほしがる。もらえないと分かると泣く。
抱っこしてあやしたり、おっぱいなしで寝つかせたり、気をそらすために外遊びに連れ出したり。
母親が抱っこしてもおっぱいの匂いがして思い出してしまうから、できるだけ引き離すようにする。
断乳当日
朝ごはんのあとの授乳を最後にする。
「これで最後だよ、おっぱいバイバイだよ」
と言いうと、
「ん。」
と返事をする。
かしこいね。人生で最後のおっぱいだよ。
私にとっても、もう3人目のつもりはないし、人生で最後の授乳。
子育ての終わりが始まった。
とても寂しかった。
おでかけの度に授乳室を探すことも、もうない。
飲み終えてそのまますやすや寝るあの一番幸せそうな顔を、見ることもない。
大変だったな、辛かったな。
やっと終わったんだな。
最初の二日が勝負
上の子のときの経験から、2,3日は夜寝つかせるのが大変だ。その後は、意外とすんなり受け入れて寝てくれるようになる。
やっぱり娘も、土曜夜と日曜夜は大変だった。ひたすら泣くのを抱っこしたり布団にくるんでトントンしたりして、なんとか泣きつかれて寝るのを待つ。
また夜中に起きる、ソファで抱っこしたまま寝る、また起きる、の繰り返し。
ところが三日目、月曜の夜は私が一緒に布団に行き、ねんねしようね、と言って寝転んでいたら、なんとそのまま泣かずに、すやすや寝てくれた。
それからこの一週間は、ぎゃんぎゃん泣いて寝付く日とすんなり寝る日を繰り返している。
お昼寝は、お腹がいっぱいの状態でベビーカー移動で寝たり、ぎゃん泣きをトントンして寝つかせたりする。
それでも、泣き方を見ていると、「どうしてもおっぱい欲しい」というわがままな感情よりは、「欲しいけどもらえないこと分かってるよ、悲しいよ」という全て分かった上での悲壮感のほうが感じられる。
私の希望的観測かもしれないけど、そんな気がするのだ。
私も、ほんとうに寂しいけれど、この子だってがんばってる。理解してがまんしてる。
この子なら大丈夫。
おっぱい、卒業できたね。
断乳後の変化
3日目くらいから、本人の実感として「もうおっぱいはもらえない」と理解し始めたのだろう。
食欲がすごい増した。
断乳前は、食事にすぐに飽きて放り出してしまう子だったけれど、ガツガツ食べるようになった。
次ちょうだい!と言わんばかりにお椀を差し出す。
突然のバナナ消化マシーンになった。
二日に一回バナナ買ってる…。
私はというと、断乳の2週間前と、1週間前にそれぞれ一回ずつ、手技に通って準備してきたが、土曜、日曜と二日飲ませないでいると、母乳がたまりにたまってパンパンに張ってくる。
三日目の月曜に、断乳後初めての手技で溜まった母乳をすっきり出してもらう。それまでははち切れそうになる乳房を守りながら耐える。少しは自分で絞って圧を抜くくらいはしていいとのこと。
泣いて体当たりしてくる娘からなんとか自分の身を守るが、気づくと内出血のような状態になっていた。
次は一週間後の月曜にまた手技を受ける。それまでは少しは母乳が溜まるが、自分でなんとかやりくりできる量に減っていく。
こうして、人生最後の授乳、そして断乳の儀式が終わっていった。
いちだんと、娘が大きく見え、「赤ちゃん」から脱皮して「子ども」になったなと感じた。
今まで、たくさん飲んでくれてありがとう。
桶谷式母乳マッサージの舩本先生には、上の子のときからずっとお世話になっている。
今度こそ、先生ともさようならになるかな…。