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悲しくて

 悲しくて、動けない日々が続いている。
 夜はとても寒いので、友人が誕生日にくれた秋パジャマを卸した。蕎麦屋の店員みたいな色合いで、素材がとても柔らかい。今までに感じたことのないふわふわ感。それなのに「心地よく暮らすためには、パジャマにまで気を配らなければならないのか…」と憂鬱にもなる。
 みかん果汁80%のお酒をロックで飲んでいる。美味しい、ゴクゴク飲みたい。でもボトルで800円くらいしたから今日飲み干したら、1杯…何円…。夜に眠れないから、ハーブティーを導入しようとしたら、ティーバッグ30個入りで3600円…1杯120円…。調子が悪い時ほど、すべての物事をお金に換算してしまうのでダメだ。
 でも本は豪快に買えるようになった、今日もヴァージニア・ウルフ『波』が届いた。色んな本屋で探したけれど、どこも売り切れていて仕方なくAmazonで注文した。ヴァージニアの本はこれで4冊目だ。いずれかの本の解説において、彼女のことを姓(ウルフ)で呼ばないという拘りを発見してから、私もヴァージニアと呼ぶことにした。「波」というモチーフは『灯台へ』のなかにも現れる。偶然にも私の名前には「波」のイメージが多分に含まれているので、彼女の作品を読んでいると、私自身が何重にも色づけられているように感じる。それがあまりに優しい手つきで為されるので、嬉しくて、泣いてしまう。小学生のときに、旅行先で海上保安庁の船を描いたことを思い出した。たしか雨が降り始めたところだったので、それを誇張して、大雨と荒波のなかをぐわんぐわん揺れながら進む船を描いたのだ。絵画コンクールに出品したが、なんの賞も取れず仕舞いだったはず。私はそのイメージを抱え続け、自分の人生は大変な航海になるのだと気負ってきたように思う。やっといま、手放すことができる。優しい波もあるし、船には私以外にも誰かが乗っているかも知れない。そこで誰かがサンドイッチを食べていたり、舵取りを褒めてもらって喜んでいたりするかも知れない。大丈夫、私はいま新しい船に乗ったばかり。


 

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