
人がいなくなる現実と未来のカタチ
■過疎地域に建てられた巨大商業施設
私の住んでいる地域からそんなに遠くない場所に、鳴物入りで建てられた商業施設が存亡の危機だというニュースが飛び込んできた。私も何度か近くを通り過ぎたことはあったが、開店間もない頃で、商業施設に入ろうとする車の渋滞の列を眺めながら、もう少し時期が経ってから行ってみようと思っていたので、突然の知らせに驚いた。
もともと大手チェーンの地域基幹店として建てられた施設だが、どこまでを商圏として設定されていたかは不明だ。たぶん、高速道路などの建設や近隣にあるアウトレットなどとの相乗効果を狙ったのだろう。それに加えてリニア新幹線が近くに停車するという要因も含めて、会社として将来的な見込みを立てたのだろうと思うが、何せその周辺地域は御多分にもれず過疎化が急速に進んでおり、周辺住民だけで採算が取れるような場所ではないのだ。
では、その前提条件は、単なる交通網の整備による流動的な顧客の増加だったのだろうか。仮に周辺地域や10キロ範囲の近隣住民も含めたとしても、それが安定的な顧客となるかと言えば疑問だ。しかもその商業施設に入る店舗は、どれも有名なブランド店が多く、消費意欲旺盛な若者たちに限れば、相当数絞られてしまうことは間違いない。
■人口増を前提とした社会のあり方
そう考えていた時、ふと思い出したことがある。以前、当時の安倍首相が、少子化対策の一環として、「2060年1億人構想」をビジョンとして打ち出したことがあった。すでに新生児の出生数が75万人を割るような事態になっているが、何を前提条件としてそのような構想を掲げたのかは、今となっては知る由もないが、まったく現状を把握していないことが明白だ。
どこかの統計によれば、2060年の人口は約9300万人で、目標に700万人ほど足りない状況だそうだ。つまり、人口が増加する根拠もなく、人口数の達成によって構成される社会をめざして歩んできたとすれば、取り返しのつかないここ10年であったと言わざるを得ない。
そのために政府や自治体が取り組んできた施策が、地域移住や複数拠点住居などである。東京や大阪などの大都市圏に住んでいる人たちを、家賃などの補助をすることで移住をしてもらい、地域の人口を増やそうということだが、コロナ禍においては若干、流れがあったが、今では、企業は在宅勤務からフル出勤へとシフトしているし、今年の調査で東京への転入超過が発表されるに至った。
■狭く深く、そして付加価値のある地域
そもそも、もしこの施策が上手くいっても、人口を分散するだけで増加させることは難しい上に、少ない人口の地域にも、最低限のインフラ整備が必要になるとすれば、財政的に帳尻が合わなくなることは明白である。
現在、区分けされている自治体を見てみれば、そもそも今後、存続さえも危うい地域がいくらでも出てくるはずだ。確かに、自分が生まれ育った地域で暮らし、最期を迎えたいという気持ちは分からなくはない。だが、現在の自治体を維持すること自体が人口減少の対策にならないし、長年、問題になっている選挙の時の1票の格差を是正することにはならないことは承知しているはずだ。
確かに、アメリカや中国のように、政府が巨大な権限を持って方向性を決め、それに反対する人たちを隅っこに追いやった方が話は早いのだが、日本は、日本社会は、そうはいかない。でも、このまま沈んでいくのは、少なくともこれから未来のある人たちに対して申し訳ないと思うのは私だけなのだろうか。
もう一度、考えてみたい。広く浅くではなく、狭く深くという考え方と、地震によって被害を受けた福島や輪島などの地域を元通りにするのではなく、例えば、伝統技能継承地域など、それぞれの特色を持った地域として、コンパクトに運用できるように作り変えるなど、知恵を絞ればいくらでもアイデアは出せるはずだ。
最後は人口数に頼るのではない、人が流動化する、できる社会のあり方から、この人口問題を考えてみたいと思っている。
#人生の区切りを迎えて