無能の人
TikTokをやっている友人がYouTuberになりたい、と言い出し、撮影の手伝いしてくれへん?という事で行ってきた。
前日眠れず、朝6時の電車に乗り八尾駅まで。
そこから車で撮影対象のおじさんの家まで行く。
おじさんは石が好きで、以前、岐阜で石を探していた際、これは!という石を見つけたのだと言う。
しかしそれは老人が一人で持てる重さでは無く、友人に依頼が来た。
その一部始終を撮影したらええやん?と言うことでカメラマンとして馳せ参じることになった。
初対面のおじさんは挙動不審で、声も小さく、どこを見ているのかわからない風情だった。
おじさんが運転し、岐阜の山奥までドライブすることになった。
「結構なレアキャラやで。レベル10まであったら7やな」
と、友人は言ったのだが、運転席のおじさんは普通に会話の内容も可笑しいことは無く、博学で、詰まらないと思ってしまったぼくは眠ってしまった。
起きると昼頃で、道の駅で昼飯を食べよう、という事になっていた。
先程までとは違い、おじさんは心ここに在らずという風体で、ふらふらと歩いた。
ぼくと友人はざるうどん、おじさんは牛丼を頼み、石に付いて少し語ったのだが、何だか先程とは少し様子が違った。
おじさんは、「ハンドルを握ると性格が変わる人」だった。
おじさんの家から4時間程かけて、現場に到着した。
車から出たおじさんは、先程の道の駅よりはテンションが高く、しかし決して高過ぎるということもなく、隠していた石を探した。
「あった!あった!これこれ!」
おじさんは道中、その石の魅力を語っていた。
「黄色や青色の入った、とても珍しい良い石やねん。あんな石は見たことが無い!」と。
「おー!これですか!」
「確かに黄色っぽい水晶が入ってる!」
などと二人して石を褒める儀式があり、友人は石を抱えて歩いた。
「これ25キロはありますねえ」
それを撮影するぼく。
「ちょっとこの辺で石を探そう」と、おじさんは言って河原を歩いた。
5月の川は風もあり、とても良い季節だと感じる。
三匹の猿が川の向こうを走って行った。
「この石どうですかね?」
「これはここに粘土層が入ってるチャートで、普通やな」
と、友人は言われた。ぼくが見せると、
「おお、この石は良いね」などと言われ、ぼくたちはよく分からずに「そうなんすかあ」などと言った。
「もう一ヶ所行こう」とおじさんは言い、近くの河原でまた採石開始。
デカい石を友人が運び、「先生これどうですかあ?」「これは普通のやな」「これめっちゃ重たいのに価値ないんや!」と、友人はカメラに向かって叫んだ。
「これは価値あるわ!」と友人が見つけた別の石を見ておじさんは言った。
「ここら辺は断層になってて、言うたらガソリンみたいな比重の重い石が出てくるんや」
友人は、「ぼくいらないんで先生貰ってください」と言った。
(先生と言う取り決めになっていた。)先生は恐縮しながらも少しホクホクした顔だった。しかし表情にあまり変化は無い。
「これ35キロはありますよお!」
と言いながら友人は車まで石を運んだ。
車に乗ると先生はノストラダムスやヒトラー、中国や朝鮮に付いて熱く語り出した。
友人は「そうなんですかあ」と言って質問を続けた。
ぼくは後部座席で寝た。
カーナビがあるにも先生は道に迷い、関ヶ原の古戦場を三周ほどグルグルと回ったり、細い山道に入り込み、後続で煽ってくる車に文句を言い続けた。
先生の家に着いたのは午後9時。先生の家は石だらけだと言う。
ぼくが見つけた石を分けて貰う、という謎の儀式があり、それから二人でラーメンを食べに行った。
友人は「俺、飯いくらでも食えるねん」と言った五分後に、腹いっぱいやわ、と言ってラーメンの大部分を残した。
家の近くのコンビニまで送ってもらい、ぼくはコンビニの空き地に石を置いて帰った。