結晶

R0012799雪の結晶

大文字山は京都に住む者にとっては身近な存在で、ぼくと彼女の初めてのデートも五山の送り火だった。

ふたりが別れることになった時、何故か大文字山に登ろうということになった。

それは儀式の様なものかも知れないが、寒く、乗り気じゃない彼女を引き摺り出して山を登った。

防寒が過ぎて山頂に着く頃には少し汗ばんでいるほどだった。

山頂でぼくらはぼくらが住んだ街を眺めた。

狭いようだが行ったことの無い場所だらけに見えた。

山頂から見下ろす街は寧静で、ぼくらの関係にも何も問題も無いように感じた。

雪が、降ってきた。

大粒の雪が、彼女の髪にほとりと落ちた。

その雪の一粒はとても大きく、結晶が視認出来た。

ぼくは興奮して彼女に、「雪だ!雪の結晶だ!」と大声で言った。

結晶を掌に取るとじわりと溶ける。

それは一粒一粒違う形で、触ることも出来ず、じっと髪の上で溶けていく様を眺めることしか出来なかった。

#旅する日本語


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