結晶
大文字山は京都に住む者にとっては身近な存在で、ぼくと彼女の初めてのデートも五山の送り火だった。
ふたりが別れることになった時、何故か大文字山に登ろうということになった。
それは儀式の様なものかも知れないが、寒く、乗り気じゃない彼女を引き摺り出して山を登った。
防寒が過ぎて山頂に着く頃には少し汗ばんでいるほどだった。
山頂でぼくらはぼくらが住んだ街を眺めた。
狭いようだが行ったことの無い場所だらけに見えた。
山頂から見下ろす街は寧静で、ぼくらの関係にも何も問題も無いように感じた。
雪が、降ってきた。
大粒の雪が、彼女の髪にほとりと落ちた。
その雪の一粒はとても大きく、結晶が視認出来た。
ぼくは興奮して彼女に、「雪だ!雪の結晶だ!」と大声で言った。
結晶を掌に取るとじわりと溶ける。
それは一粒一粒違う形で、触ることも出来ず、じっと髪の上で溶けていく様を眺めることしか出来なかった。