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遠距離恋愛販売中【毎週SS×供養シリーズ】

「課長って仕事と結婚したんですか」
先日、部下の子にはっきり言われた。

別に傷ついたわけではない。
ただ、透明なハンマーで祝い酒の樽を勝ち割るような軽率な衝撃を受けた。

出張帰りの新幹線でずっと上の空だった。
報告書を書き上げる手がすっかり動かない。
こちらをのぞくインカメラが空しかった。

昔、行きつけの喫茶店のマスターが話していたことを思い出した。
「男女のモツレなんて、酒と仕事と遠距離恋愛って相場が決まってんですよ」
今なら少しだけ分かる気がする。
そう言うあの人の目線はどこか寂しそうだった。

(そういえば)
ふとセールスメールの中に「遠距離恋愛」のサービスがあったことを思い出した。スマホのメールボックスのゴミ箱を一心不乱にスクロールした。

「あっ……」

遠距離恋愛販売中止のおしらせ」
それは、サービス体制の刷新に伴う一部企画終了のメールだった。

途端に自分のくだらなさに沸々と悔しさが込み上げてきた。
トンネルの音がやけに騒々しかった。
(410文字)


久々の供養シリーズでした。
今日のお題は結構苦戦しました、結局反則スレスレだし。

※供養シリーズとは?
大昔の創作活動で未完のまま封印していた作品の登場人物たちの、心情描写を掘り下げているセルフ活動です。一向に完成させる気がない筆者の申し訳なさ故に「供養シリーズ」と銘打っています。

企画概要はこちらから。


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Ganmo
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