Indian Coffee Houseのある街角 - その1:ICHってなに?
Indian Coffee Houseが好きだ。
Indian Coffee House(しばしばICHと略される)とは、複数の協同組合(Co-operative Society)によって運営されている、インドのコーヒーショップチェーンである。経営する組合が異なっても、ターバンやベルトをつけた萌える制服や、“Coffee”の部分だけ筆記体っぽい店名のロゴ、白いカップ&ソーサーなどはほぼ共通で、ちょっとレトロな雰囲気の、比較的安価なコーヒーショップとして知られている。
インドには約500のICHがあるらしい。インド中のIndian Coffee Houseを制覇するのが夢だけど、叶わぬ夢である。ICHは特にケーララ州に多い。ケーララのICHをめぐる旅をしたい。それは少し現実的な夢である。ヒマとクルマがあればどうにかできそうではある。しかし本帰国してしまったいま、これもまた、たぶん叶わぬ夢である。でもこの記事を書くためにいろいろ調べていたら、やっぱり実現させたくなった。インド在住で車が使えるみなさん、どなたかわたしを誘ってケーララのICHをめぐる旅をしませんか?(笑)
この記事では、知っているようで知らないIndian Coffee Houseについて、ネットでわかる範囲で少し調べてみたことをまとめる(多少間違っているところもあると思ってください)。そして続篇では、わたしが行ったことのあるICHや、似たものやニセモノも紹介したいと思う。
Indian Coffee Houseの歴史
Indian Coffee Houseのざっくりした歴史は次のとおりである。
Coffee Cess Committee(Coffee Board of Indiaの前身)による最初の"India Coffee House"は、1936年にBombay(現・Mumbai)のChurchgateにオープンした。これはコーヒーハウスがイギリス人のものであった時代に最初に作られた、インド人向けのコーヒーハウスである。
その後他の都市にもオープンし、1940年代末から50年代はじめごろには全国に72店のIndia Coffee Houseがあった。1942年にCoffee Board of Indiaが設立され(本部はBangalore)、これらのコーヒーハウスを運営していた。
1950年ごろのものだというIndia Coffee Houseの地図によると、次の38都市に店舗があったようだ([]内は現在属する州)。Srinagar [Jummu & Kashmir(UT)], Simla(現・Shimla) [Himachal Pradesh], Delhi(UT), Agra, Lucknow, Allahabad(現・Prayagraj) [Uttar Pradesh], Jubbulpore(現・Jabalpur) [Madhya Pradesh], Jamshedpur [Jharkhand], Calcutta(現・Kolkata) [West Bengal], Ahmedabad [Gujarat], Bombay(現・Mumbai), Poona(現・Pune) [Maharashtra], Hyderabad, Secunderabad [Telangana], Waltair(現・Visakhapatnam), Cocanada(現・Kakinada), Guntur, Anantapur [Andhra Pradesh], Bellary(現・Ballari), Bangalore(現・Bengaluru), K. G. F., Mysore(現・Mysuru) [Karnataka], Madras(現・Chennai), Ooty, Coimbatore, Trichinopoly(現・Tiruchirapalli), Madura(現・Madurai), Tuticorin(現・Thoothukudi), Tinnevelly(現・Tirunelveli), Nagercoil [Tamil Nadu], Tellicherry(現・Thalassery), Calicut(現・Kozhikode), Palghat(現・Palakkad), Trichur(現・Thrissur), Alwaye(現・Aluva), Ernakulam, Kottayam, Trivandrum(現・Thiruvananthapuram) [Kerala].
1950年代半ば、Coffee Boardはこれらのコーヒーハウスをクローズし、多くの労働者が職を失った。All India Coffee Board Labour Unionは、ネール首相のアドバイスにより、協同組合(Co-operative Society)を作ってコーヒーハウスの経営を引き継ぐことにした。コミュニストのリーダー、A. K. Gopalanが中心となり、13の協同組合が設立された。
協同組合が経営するコーヒーハウスは名前を“Indian Coffee House”に変え、1957年にBangaloreとDelhiに最初の店がオープンした。
現在、13の協同組合により、約500店のIndian Coffee Houseが経営されている。これらの協同組合は、All India Coffee Workers' Co-operative Societies Federation(1960年設立)に加盟している。
Co-operative Society
協同組合は13あるということだが、次の11の都市に拠点を置くものしか情報が見つからなかった。公式サイトのひとつにこの順で挙げられていたので、できた順を反映していると推測し、そのとおりに挙げる。
(1) Bengaluru Society [Karnataka]: Indian Coffee Workers' Co-operative Society Ltd.
1957年8月19日設立。最初に作られた協同組合。
最初のICHは、1957年にBangaloreのM. G. Roadにオープン。この店は2009年4月5日に閉店したが、内装や雰囲気はそのままにChurch Streetに移転して営業中。確認できている店舗はこのChurch Street店のみ。
(2) Delhi Society: Indian Coffee Workers' Co-operative Society Ltd.
1957年12月27日設立。現在、Kamla Nagarに本部がある。
最初のICHは、1957年にConnaught PlaceのTheatre Communication Buildingにオープンした。ここには作家や政治家などが集まり、1957年から1975年までDelhiのランドマークだったが、The Emergencyの宣言後に閉店。その後Mohan Singh Placeに移転オープンしたが、かつての栄光は取り戻せなかった。
ChandigarhのSector 22にオープンしたICHは、1971年にSector 17に移転し、さらにShimlaに移転したがその後閉店。
現在は、上述のものを含めDelhi(UT)に2店舗、Himachal Pradesh州Shimlaに1店舗、Chandigarh(UT)に1店舗、Haryana州Panchkulaに1店舗、Rajasthan州Jaipurに2店舗、Uttar Pradesh州Prayagraj(Allahabad)に1店舗がある。
(3) Puducherry Society: Indian Coffee Worker's Co-operative Society Ltd.
詳細不明。
Puducherry(UT)に3店舗、Tamil Nadu州のChennaiに1店舗、Kanchipuramに2店舗、Neyveliに1店舗がある(情報源はメニューの写真)。
(4) Thrissur Society [Kerala]: India Coffee Board Workers' Co-operative Society Ltd.
1958年2月10日設立。ここだけ名称が異なる。
最初のICHは、1958年3月8日にTrichur(現・Thrissur)にオープン。これはKerala州で最初の、全国では4店めの店舗で、現在も営業している。
管轄地域はTrissurからThiruvananthapuramで、現在約50店舗ある。
(5) Lucknow Society [Uttar Pradesh]: Indian Coffee Workers' Co-operative Society Ltd.
1958年設立。詳細不明。
Hazratganjに古くからの店舗がある(Google mapでは閉店になっているが確認できず)。ここは1945年2月10日にオープンしたという情報があるので、1958年に協同組合に引き継がれたものかもしれない。
(6) Nagpur Society [Maharashtra]: Indian Coffee Workers' Co-operative Society Ltd.
1958年設立。詳細不明。
Sadar, Government Medical College and Hospital(Hanuman Nagar), Dharampethに店舗があったが、Dharampethのものはすでに閉店。現在2店舗のようだが、Medical CollegeのものはGoogle mapで確認できない。
(7) Jabalpur Society [Madhya Pradesh]: Indian Coffee Workers' Co-operative Society Ltd.
JabalpurのCoffee Board Labour Unionの強力なサポートのもと1958年に設立され、1軒の店舗からスタートした。1981年にO. K. Rajagopalanがトップになってから、Madhya Pradesh州とChhattisgarh州を中心に多くの店舗をオープンし、ビジネスを拡大した。
現在、ロッジやゲストハウス、政府機関のキャンティーンなどを含め164の店舗があり、これらは上述の2州だけでなく多州にわたっている。
(8) Mumbai Society [Maharashtra]: Indian Coffee Workers' Co-operative Society Ltd.
おそらく1958年設立。詳細不明。
Google mapで確認できる限りでは、Anderi Eastに1店舗ある。
(9) Kolkata Society [West Bengal]: Indian Coffee Workers' Co-operative Society Ltd.
1958年設立。
Albert HallにあったCoffee Boardのコーヒーハウスを引き継いだICHが1958年にオープン。現在も営業中で、協同組合の本部もここにある。
現在は、このほかにWest Bengal州内に支店が2店舗、フランチャイズ店が2店舗ある。なお、フランチャイズについての情報があるのはこの協同組合のみ。
(10) Kannur Society [Kerala]: Indian Coffee Workers' Co-operative Society Ltd.
1958年7月2日にPalghat(現・Palakkad)に設立され、のちにTellicherry(現・Thalassery)に、さらに1972年にCannanore(現・Kannur)に移転。
最初のICHは、1958年8月7日にTellicherryにオープンした。
管轄地域はKasaragodからPalakkadで、現在約30店舗が営業している。
(11) Pune Society [Maharashtra]
おそらく1958年設立。詳細、現状とも不明。Google mapではPuneにICHは見つからない。
州別の状況
協同組合の本部が存在する州や都市と、各組合が展開する店舗の場所とは必ずしも一致していないので、上述の内容と重複する部分もあるが、主に現在ある店舗について州別にまとめる。
Kerala州
KeralaにはThrissur SocietyとKannur Societyのふたつの組合があり、地域によって管轄が分かれている。合わせると全体で80の店舗があり、ICHが最も多い州として知られている。
Thrissur Societyが経営するICHは、次のDistrictに合計51店舗ある。Thrissur(12), Ernakulam(5), Kottayam(10), Alappuzha(8), Kollam(2), Thiruvananthapuram(14).
ThrissurのRound Southには、Kerala州で最初、全国で4店めの店舗がある。
Thiruvananthapuram(旧・Trivandrum)のThampanoorにある、Indian Coffee House Maveli Cafeと名づけられた店舗は、Laurie Baker設計のユニークな建築が有名。
Kannur Societyが経営するICHは、次のDistrictに合計29店舗ある。Kasaragod(4), Kannur(9), Wayanad(3), Kozhikkode(9), Malappuram(1), Palakkad(3).
Keralaの店舗は、全部ではないがほぼGoogle mapで確認できる。ThrissurのCDB Buildingの店舗は、建物が丸く、店内に階段があっていい感じ。Mananthavadyの店もちょっといい感じ。
West Bengal州
公式サイトによれば、Kolkata Societyが経営するICHが3店舗と、フランチャイズ店が2店舗ある。
KolkataのCollege StreetのICHは、Kolkataの中心的な店舗であるだけでなく、インド全体のICHのなかでも代表的なものである。Albert Hallにコーヒーハウスがオープンしたのは1942年であり、これが1958年に協同組合に引き継がれたもの。Satyajit Rayをはじめ、多くの芸術家や知識人が通ったことでも知られる。以前の名称であるCoffee House、あるいはCoffee House College Streetと呼ばれることも多いようだ。
KolkataにはJadavpurにもICHがあり、詳細はわからないがこちらも歴史ある店舗のようだ。
あとひとつの直営店はBerhamporeにある。Kolkataから遠すぎるが、ここも行ってみたい雰囲気。
公式サイトには載っていないが、SeramporeにKolkata Societyの経営らしい店舗がひとつある(Google mapにて確認)。
フランチャイズ店は、KolkataのBallygungeと、Diamond Harbourにある。
Delhi(UT)
Delhiの中心的なICHは、Connaught PlaceのMohan Singh Placeにある店舗。ちょっと殺風景だという評価のようだ。
Supreme Courtにも店舗があるらしい(未確認)。
Himachal Pradesh州
Delhi Societyが経営するICHがShimlaのMall Roadにある。ここも古くからあるようで、Indira Gandhiなども来たことのある有名なICHである。外観と店内の雰囲気は、ここのためだけにShimlaに行きたいほどである。ぜひ訪れてみたいICHのひとつ。
Maharashtra州
Mumbai Societyが経営するICHがMumbaiのAnderi Eastにある(Google map情報)。
Nagpur Societyが経営するICHがNagpurのSadarにある。おそらく、古くからの店だと思われる。
Karnataka州
2009年にBengaluru(Bangalore)のChurch StreetにオープンしたICHは、閉店したM. G. Roadの店から内装や雰囲気をそのまま受け継いでおり、Iconicな存在であり続けている。
このほかに、Jabalpur Societyが経営する店舗が、Indian Coffee House & Restaurantという名称で2015年ごろKoramangalaにオープン。HSR LayoutとHosur RoadのChrist Universityにもあり(Google mapで確認)、Christ Universityの他のキャンパスにもあるらしい(未確認)。
Puducherry(UT)
Jawaharlal Nehru Streetにある店舗は、古くからあるICHのひとつ。組合設立当初からあると推測するが、遅くとも1968年にはあったようだ。2000年代に建物取り壊しの計画が持ち上がったが、リストアされて2014年4月14日に再オープン。
Priyadarshini NagarのIndira Nagar Guest Houseと、Rajiv Gandhi Hospitalにも店舗があるようだ(Google mapで確認)。
Uttar Pradesh州
Lucknowには、Lucknow Societyが経営する古くからの店舗がHazratganjにある(ただしGoogle mapでは閉店となっている)。
Prayagraj(旧・Allahabad)のCivil Linesに、Delhi Societyが経営する店舗がある。この店は詩人のFiraq Gorakhpuriが通ったことで知られる有名なICHのひとつ。外観もかわいく、訪れたいICHのひとつ。
Jabalpur Societyが経営する店舗が少なくとも2店舗ある(Google map情報)。
Chandigarh(UT)
Delhi Societyが1964年にSector 17にオープンしたICHが現在も営業中。
2016年にSector 36に新しい店舗がオープン。ただし、現在は公式サイトに載っていないうえにGoogle mapでも確認できなくなっているため、閉店したかもしれない。
Rajastan州
Delhi Societyが経営するICHが、JaipurのM. I. RoadとJawaher Kala Kendraにある。
M. I. Roadの店舗はおそらく1962年オープン。多くの芸術家や知識人が訪れたことで知られている。内装もレトロなままで、ここもぜひ訪れたいICHのひとつ。
Jawaher Kala Kendraの店舗は2001年オープン。
Haryana州
Delhi Societyが経営するICHがPanchkulaのSector 20にある。
Tamil Nadu州
Puducherry Societyが経営するICHが、ChennaiのT. Nagarにある。
そのほかにPuducherry Societyが経営するICHがKanchipuramに2店舗、Neyveliに1店舗ある(Google mapで確認)。Kanchipuramの店舗はどちらもよさそうな雰囲気。
Madhya Pradesh州
Jabalpur Societyが経営するICHが51店舗ある。Jabalpur(13), Satna(1), Bhopal(10), Indore(6), Dewas(1), Gwalior(3), Panna(1), Singrauli(3), Katni(1), Gadarwara(1), Khandwa(1), Sagar(1), Rewa(1), Chhindwara(1), Shahdol(1), Sidhi(1), Balaghat(1), Betul(1), Seoni(1), Ratlam(1), Chhattarpur(1).
Google mapなどではごく一部しか確認していないが、JabalpurのSadarにある店舗、Gwaliorの駅前にある店舗がよさそうな雰囲気。
Chhattisgarh州
Jabalpur Societyが経営するICHが29店舗ある(未確認)。Raipur(5), Bacheli(1), Kirandul(1), Jagadalpur(1), Bhilai(7), Bilaspur(5), Korba(6), Raigarh(1), Marwa(1), Durg(1).
Andhra Pradesh州
Jabalpur Societyが経営するICHが、VisakhapatnamのUkku House(ゲストハウス)にある(Google map情報)。
Bihar州
Jabalpur Societyが経営するICHが複数ある(Google map情報)。
ICHのメニュー
メニューは基本的にはNON VEGである。ただしVEGのところもある。Tamil Nadu州周辺では、PURE VEGまたは卵はOKのVEG。Kerala州では、同じ場所にVEGとNON VEGのふたつの店があったり、店内でフロアが分かれているところもあるようだ。
共通するメニューは次のようなものである。
珈琲:コーヒーハウスなので、主なメニューはCoffeeである。基本はミルク、砂糖入り(砂糖に関してはちょっと記憶が曖昧なので入ってないところもあるかも)。Cold Coffeeもある。
他の飲みもの:Teaはあるところとないところがある。店によってはFruit JuiceやShakeなどもある。
西洋風の朝食・軽食:コーヒーハウスなので、まずは西洋風の朝食や軽食がどこにもある基本的なメニューである。BreadやToast、Sandwich、各種卵料理、Cutletなど。
南インドティファン:コーヒーが南インドの飲みものだからなのか、南インドの朝食・軽食メニューが中心になっている店が多い。Dosa, Vada, Idly, Uttapam, Pooriなど。
インド風スナック:南インド風のもの以外では、Pakodaがある店が多い。
がっつりインド料理:一部の店舗にはBiryaniやMealsがある。Curry類など幅広いメニューがあるところもある。
チャイニーズ:ヌードル類(Chowmien)やManchurianを置いているところがある。
デザート:店によるが、アイスクリームなどの冷たいデザートがあるところが多い。
主な参考サイト
https://twitter.com/CheriChe/status/1333777759970070529
→[その2:行ったことのあるICH]へつづく
[最終更新:2024.11.14]