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頑張った日の生姜焼き

「龍!頑張ったじゃん!!!!」
 試合が終わってすぐ、母ちゃんが駆け寄ってきた。
チームメイトたちが近くにいるのもお構いなしに、母ちゃんは俺の頭をなでくり回す。
ちょっと気恥ずかしいけれど、されるがままになっておく。なぜなら、この後すぐに母ちゃんは俺の一番のお気に入りの質問をしてくれるからだ。「今日、何食べたい?」って。
 「今日、何食べたい?」
 ほら、やっぱり聞いてくれた!答えはもう決まってる。試合でホームランを打った日は、生姜焼きをお願いしてるから。いつものこま切れ肉じゃなくて、分厚い肉を使うやつ。そして母ちゃんよりも父ちゃんよりも、俺より十も年上の兄ちゃんよりもたくさん食べる。父ちゃんは2枚、兄ちゃんは3枚、俺は5枚だ。
母ちゃんはいつも、肉ばっかりじゃなくて野菜も一緒に食べないと大谷翔平みたいに大きくなれないよって言うから、本当は肉だけで食べたいところを我慢して、千切りキャベツも皿に乗っけてもらう。俺はいつか大谷よりもすげー選手にならなくちゃいけないからな。
もちろん、ご飯も大盛りだ。試合の日はいつもの倍お腹がすくけど、ホームランを打てた日はもっとお腹がすく。初めて試合に出た日は、俺があまりにもたくさん食べるから、そのうち冷蔵庫の中身も全部食べつくすんじゃないかって心配されたぐらいだ。
 「生姜焼き!分厚い肉のやつで!」
 「えー?またぁ?」
 そう言いながらも、母ちゃんは嬉しそうだ。口では文句を言いながら、いつもとびきり美味しい生姜焼きを作ってくれる。
 グラウンドを綺麗にして、相手の選手と監督に挨拶をした後は、母ちゃんと一緒に、買い物をしてから家に帰った。買い物に行ったお肉屋さんのおっちゃんに、ホームランを自慢することも忘れなかった。おっちゃんは、俺がおっちゃんの店にとびこんでった瞬間に、「今日俺、ホームラン打ったんだぜ!超でっけーやつ!」って叫んだら、「そりゃあすごいな、坊主!」ってにかっと笑うと、すっげー分厚い豚肉を一枚、「がんばったご褒美にな、特別サービスだぞ。」って言って、さっき買ったばかりの肉と一緒に袋に包んでくれた。
 そうして家に帰った俺は、母ちゃんが作ってくれた生姜焼きを家族の中の誰よりもたくさん食べて、風呂に入ったら、勢いよくベッドに飛び込んだ。
今日の生姜焼きも、超うまかった。ホームランもうれしかったし、すごくいい一日だった。
俺は、今日もたくさん寝るから大谷よりも背の高い男にしてくださいって野球の神様にお願いした後、夜中にゴジラがやってきてガオオと吠えてもきっと気づかなかっただろうってくらいに、ぐっすりと眠った。


頑張った日の生姜焼き

レシピ(4人分;一人当たり1枚食べる場合)

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