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【読書記録3】主婦から見た日本戦後史。

 皆さんいかがお過ごしでしょうか?

 今回紹介する本は、阿古真理著『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』(新潮新書)です。

  私は、母がクッキングスクールの講師であることもあって、料理が好きで、上京してからはほぼ毎日自炊しています。実家には、栗原はるみさんの著書もあったと思います。そんな縁もあって、大学1年のときに本書を手に取りました。

料理研究家という立ち位置

 本書は、題名からわかるように小林カツ代と栗原はるみなどそれぞれの時代で活躍した料理研究家を紹介しています。昔、母親が「管理栄養士は資格が必要だけど、料理研究家は自分で名乗ればいいからね」と言っていたのを思い出します。母曰く、これは料理研究家という職業を軽蔑しているということではなく、ピンからキリまでいるという意味で言ったそうです。
 そして、今風に言えば、料理研究家というプロの料理人ではない特異な立ち位置であることが全国の主婦のインフルエンサーとなったと言えると思います。女性の社会進出や共働き世帯の増加など、各々の時代で主婦に求められることが変遷していきます。そんな状況でも日々の食卓をより良いものにしたいという主婦の願いを叶えていったのが、料理研究家の方々です。本書では、土井勝さん、辰巳芳子さん、高山なおみさんなどが料理と共に紹介されています。

主婦から見た戦後史

 本書はそれぞれの時代で活躍した料理研究家の歴史を描いたものとなっています。ただ本書が優れたところは、有名な料理研究家の活動を通じて、それぞれの時代で主婦や女性に求められることが変遷していく様子が描かれており、主婦から見た日本戦後史・社会史になっている点です。本書は女性という視座から見た日本社会の歩みとして読むことができます。ただこの女性という視点は、近年増えてきたものではありますが、主婦(女性に限らない)という視座から見た日本社会というのはあまりなかったように思います。主婦という立ち位置や環境はこれからも変遷するのでしょう。本書の最後に紹介されている料理研究家は、栗原新平さんやコウケンテツさんなどの男性の料理研究家です。彼らの料理を参考にする人は今やそこに性差はなくなってきています。

料理という行為の社会性

 さらに、本書を読んで感じたのは、料理をつくるという行為は極めて社会的な営為なのだなということです。近年、SNSの興隆でその傾向が顕著になりつつありますが、料理をつくるという行為に他者の目が不可避です。私自身は誰に頼まれるまでもなく、ただただ自分のために料理をするのが好きなのですが、多くの場合、料理は誰かに食べてもらうために、誰かに認めてもらうために、誰かに「いいね」をもらうために、することがほとんどだと思います。子どもへのお弁当でさえ、他の家庭という視点を考慮せずにはいられなくなっています。そういう意味で、主婦にとって料理とは、洗濯や掃除とは少し異なる意味合いがあるのでしょう。

 今回は、阿古真理著『小林カツ代と栗原はるみ 料理研究家とその時代』(新潮新書)を紹介しましたが、阿古真理さんの書籍は、1つのテーマから敷衍していく様がとても興味深いです。ぜひ、お読みになってみてください。


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