幼児期とアナログゲーム②フィッシングと果樹園の違い


6月30日 7月28日アナログゲーム療育講座 幼児編①&②
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マイファーストゲームフィッシング

さて、ここからは具体的なゲームの話をしていきましょう。今日は2歳、3歳の子どもたちに使うゲームについて話します。

「マイファーストゲームフィッシング」というゲームは本当に別格で、初めてのゲーム、まさに「My first of first games」と言えるものです。

このゲームの特徴は、磁石で魚がくっつくという感覚的刺激を持っていることです。これがとても重要なポイントなんです。1歳から2歳くらいの子どもたちの興味の中心は、感覚的刺激なんです。色、音、動き、触感、そういうものが中心で、ルールの世界なんてまだまだ遠いんです。

「マイファーストゲームフィッシング」は、その感覚的な「パチン」というくっつく楽しさで子どもたちの興味を引きつけるんです。でも、そのパチンを体験するためには、サイコロで出た目の色の魚を釣らないといけないという、大人のルールの世界の要請が入ってくるんです。これが、物の世界から事の世界への橋渡しをしているんです。

専門的に言うと、感覚運動的興味からシンボル(記号)への興味の移行を促すゲームなんです。

感覚的刺激を与える

このゲームの良いところは、箱の中で全てが完結することです。箱の中にある魚を釣って、箱の中からタイルを取るという流れなんです。2歳0ヶ月くらいの子どもは、必ずと言っていいほどゲームの内容物に手を出したがります。

ちょうど赤ちゃんがものを口に入れて、そのものを把握しようとするように、ゲームの部品も触って確かめたいんです。本来、ゲームのルール上は勝手に触っちゃいけないんですが、この時期の子どもはそれが難しい。

でも、このフィッシングゲームは箱の中にあるので、先生が箱を持っていれば、子どもが勝手に触ることを防げるんです。順番が来た子の前に箱を出して、「さあ、釣ってごらん」と言えば、他の子の手出しをガードしながらゲームを進められるんです。

さらに、このゲームでは釣り竿を子どもに渡すんですが、これもいいポイントなんです。釣り竿が渡されたことで、「私の番です」ということがわかるんです。順番というのも、この時期の子どもにはわかりにくいんです。他の子が終わったから次は自分の番、ということがわかるのは難しいんです。でも、釣り竿が来て、これを渡されたから自分の番なんだ、ということがわかりやすいんです。

このように、「マイファーストゲームフィッシング」は初めてルールに触れるゲームとして、不動の地位を占めています。ただ、シンプルすぎるので、興味の持続時間が短いという欠点もあります。3歳くらいになると、すいすいとできてしまって少し飽きが来る。

果樹園ゲーム

そこで次に紹介したいのが、「果樹園」というゲームです。これは協力ゲームで、色とりどりのリンゴやプルーンなどの果物があって、それを狙うカラスがいるんです。カラスが来る前に、果物を全部カゴの中に収穫しようというゲームです。

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果樹園ゲームは、色の付いたサイコロを振って、出た色の果物をみんなで共有のカゴの中に1個入れていきます。ただし、サイコロの面の1つがカラスになっていて、カラスの目が出るとカラスが1マス進んできます。カラスがゴールに到達する前に、全ての果物を収穫できるかどうかを競うゲームです。

このゲームは、サイコロを振って、出た目と同じ色のものを取るという点でフィッシングと同じなんです。でも、果樹園の方が難しいんです。例えば、2歳クラスと3歳クラスでこのゲームをやると、その違いがはっきりわかります。3歳クラスの子たちは、「リンゴが取れた!やった~!」とか、「カラスが1マス近づいた!」とか言って、すごく盛り上がるんです。でも2歳クラスの子たちは、サイコロを振って、赤が出たら赤いリンゴを取るという指示には従えるんですが、あまり盛り上がらない。果物を淡々と置いていくし、カラスが近づいてきても特に反応がない感じです。

この違いは何かというと、ゲームの背景にあるストーリーを理解できているかどうかなんです。サイコロを振って、出た目と同じ色の果物をカゴに入れるという行為自体は同じなんですが、なぜそうするのかがわかっているかどうかで、子どもの楽しみ方が全然変わってくるんです。

ストーリー理解と子どもの反応


さっきの「マイファーストゲームフィッシング」は、磁石で魚がパチンとくっつくという感覚的刺激が子どものモチベーションになっていました。でも、果樹園の場合は、その面白さ、子どもが魅力を感じているポイントは、感覚的な刺激ではなくて、「カラスさんが来る前に果物を収穫しよう」という、目に見えない、言葉で記述されたストーリーなんです。

だから、そのストーリーがわからないと、なんでこの作業をしているのかがわからない。そこが、果樹園ゲームの難しいところであり、また面白いところなんです。

そこで大人の関わり方としては、ゲームの最初のところで、カラスの駒を持って、「さあ、このカラスさんが、今、美味しい果物をみんなが食べたい、美味しい果物を食べに来ちゃいます」という感じで、駒を果物の上に当ててみせるんです。カラスが食べようとしているということを、実際のジェスチャーで表現するわけです。また、プレイ中も先生が面白おかしく「みんなが美味しい果物が食べられちゃうよ」とか、「あ、カラスさんが来ました。大変!」とか、ちょっと大げさに芝居してみるんです。

そうすると、子どもたちも「リンゴが入った!やった~」とか、「カラスが来るのは大変だ」みたいな反応を示すようになります。

ストーリーを共有して遊ぶ

そうすると、だんだん子どもたちもストーリーがわかってきて、今まで無表情だった子が、果物をカゴに入れることを喜んだり、カラスが来ることを怖がったりするようになるんです。これが発達課題としては、感覚運動的な興味から離れて、今度は目に見えない言葉で記述されたストーリーを理解して遊びを楽しむことができるようになったということなんです。

これはどこにつながっていくかというと、ごっこ遊びに直結するんですね。ごっこ遊びというのは、他の子と同じストーリーを共有して遊ぶことができるかどうかが重要です。最初は一人で自分の世界でやっているんですが、それを他の子と同じストーリーを共有してできるようになるかどうか、そこが大切なんです。

例えば、ある時のセッションで同じ年齢の子が2人で果樹園ゲームをやったんです。果物をカラスが到着する前に全部カゴに入れられて、ゲームに勝ったんです。そこで一人の子は「やった~」と言って喜んだんですが、もう一人の子は泣き始めたんです。

なぜだと思いますか?これはどういうことかというと、泣いちゃった子は、最後に自分が果物をカゴに入れようとしたら、相手の方が先に入れちゃったから、自分ができなかったことを悔しがっているんです。でも、喜んでいる子は、全部の果物を収穫してカラスから守れたというゲーム全体の勝利条件を達成したから喜んでいるんです。

泣いちゃっている子は、ゲーム全体の勝利条件じゃなくて、自分が果物を取れなかったという個人的なプレイの残念さのところで悲しんでいるわけです。逆に言うと、チーム全体として「今、私たちは目標を達成してゴールできたんだ、喜ばしいことなんだ」というのがまだちょっとわかっていなかったんです。

そういうことが、同じゲームの中でも喜ぶ人と泣いちゃう人がいるというぐらいに、発達の差になって現れるんです。そこはどうするかというと、泣いちゃっている子に「あ、取れなくて残念だったね。でも見て、ほら今みんなでこうやって果物全部取れたよね。やったね、みんなで美味しい果物が食べられるね」みたいな感じで、ストーリーとしての喜びを言葉で表現してあげるんです。
するとだんだんその子も他の子とストーリーを共有して楽しめるようになっていくんです。


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