AI:ソムニウムファイル 優等生的なAVGなのだが、どこか物足りない。

 スパイク・チュンソフトより発売されたAVG、AI:ソムニウム ファイルをクリアした。全体の感想としてはタイトル通りなのだが、なぜそう思ったかを中心に書いていきたい。当然ながらネタバレしていくので、閲覧は自己責任でお願いします。


 AVGの定義について

 まず最初に断っておくと、今作は「逆転裁判」や「ダンガンロンパ」のようないわゆる推理AVGではない。一応、作中の手がかりから推理を行い、容疑者と対峙する場面はあるが、推理を間違えてもノーペナルティでやり直せる。ゲームとして推理パートを重視してないのは明らかだ。
 今作はマルチエンド制を採用しており、いくつかのシナリオ分岐とEDがあり、すべてのEDをクリアすることで事件の全貌が見え、真相にたどり着けるという構成である。これは「シュタインズ・ゲート」のようなノベル型のAVGで良くみられる手法である(イシイジロウ氏が提唱したAVGの定義に則ると、前者は直線型、後者はフローチャート型のAVGとなる)。
 ただ、複数のEDは存在するが、ベストEDは一つだけであり、それ以外のEDは事件が未解決で終える。また、1周目でたまたまベストEDルートへ進んだとしても、ロックがかかっており、他のEDを見ないことにはベストEDへ進むことができない。つまり、マルチEDをうたってはいるが、実質一本道と言える。そういう意味では、直線型とフローチャート型の合いの子とも言える。とまあ、前置きはここまでにしておいて、ゲームの感想に移る。

 王道のバディものだが、独特なノリ

 まず、今作のストーリーを簡単に説明する。主人公の名は伊達鍵(だて・かなめ)。警視庁特殊捜査班「ABIS(アビス)」に所属する特殊捜査官。30歳の男性。ある理由から6年以上前の記憶がない。左眼を失っており、高度なAIを搭載した義眼,、「AI-Ball(アイボゥ)」をはめ込んでいる。このアイボゥがその名の通り、伊達の相棒として一緒に事件を追うこととなる。
 その伊達とアイボゥが遊園地のメリーゴーランドで、殺人事件の捜査を担当するところ物語は始まる。その事件の被害者は左眼がくり抜かれており、また伊達の知人の女性でもあった。
 なぜ彼女は殺されなければならなかったのか?なぜ左目がくり抜かれていたのか?そして伊達の失われた過去の記憶とは?これらの謎を軸に物語は展開していく。
 ざっと説明するとこんな感じの、いわば典型的な「バディもの」と言える。相棒がAIという点ではやや珍しいと言えるかもしれないが、取り立てて特殊な設定というわけではない。どちらかと言うと、キャラの魅力を前面に押し出しているように思う。
 というのもこの伊達とアイボゥ、シリアスな設定に反して実にノリが軽い。全編に渡ってまるで夫婦漫才のようなやりとりを見せてくれる。マニアックなネタや直球な下ネタをシリアスな場面でもお構いなしに挟み込んでくる。この辺は人によっては気になるかもしれない。ただ、ストーリー自体はかなり陰鬱なものなので、この二人の軽いノリに救われた部分も多い。事実、今作のCERO区分はZなのだが、そのイメージほど雰囲気は重くない(ただ、グロ描写はある)。
 他にも、基本的に塩対応だが心の奥底では伊達を深く信頼している訳アリの同居人の小学生沖浦みずき、ヒロインの一人左岸イリスの母親で伊達の過去とも深い関係がある左岸瞳、ヤクザの組長だが隠れネットアイドルオタクの熊倉猛馬などが特に印象深い。

 丁寧なストーリーだが、一部気になる点も

 次にストーリーについて。前述したように、ストーリー分岐が複数あるが、最初の分岐でその後の印象が大きく異なる。ゲーム内のフローチャートに則り「左ルート」「右ルート」とプレイヤーからは呼ばれているようだが、このうち左ルートは王道のサスペンスの様相を呈するのだが、右ルートだと陰謀論やオカルトな様相の強いストーリーとなる。筆者の場合たまたま初回で左ルートを進んだため、のちに右ルートに進んだ際もオカルト展開がミスリードだと認識できたが、もし初回で右ルートに進むと印象は大きく異なったかもしれない(ただ、オカルト展開自体がミスリードだという伏線はある)。
 断っておくが、今作はルート分岐こそするが、そのものストーリーが大きく変化する(例えば、ルートによって真犯人が変わる)というわけではない。そして、今作にオカルト的な展開は存在しない。特に、パラレルワールドの存在は作中でなんども言及されるが、神の視点であるプレイヤー以外はその存在を認識できない…はずなのだが、どうも怪しいところがある。というのも、伊達には明らかに別ルートの記憶を保持している描写があるのだ。ただ、この点に関しては、結局謎のままに終わる。もしかしたら何らかの条件を満たせば謎が解けるのかもしれないが、通常プレイの範疇では謎のままだ。別ルートの記憶がストーリーの突破口になってる描写もあるため、ここを謎のままにされるとどうにも気になる。もしかしたら何らかのストーリーの変更があったのでは?と邪推してしまうが、真相は今のところ闇のままである。
 また、ストーリーを通して語られるテーマとしては「家族」「絆」といったものが挙げられる。乱暴にまとめてしまえば、「例え血のつながった家族でも信頼関係を構築出来るとは限らないし、逆に血がつながってなくても構築出来ないとは限らない。重要なのはその人の本質と向き合うことだよ。」というものである。このテーマ事態ははっきりいってよくある、手に垢のついたものであるが、システム面での見せ方がなかなか上手く、印象に残るものとなっている。詳しい説明は次項に譲るが、特に真津下まゆみと沖浦みずきのソムニウムパートは印象が深い。

 粗も多いが、印象的なゲームシステム

 次にシステムについて。全体的にオーソドックスなAVGだが、その中で異彩を放っているのがソムニウムパートである。ソムニウムパートをシンプルに説明すると、対象者の潜在意識に潜り込み、隠し事を暴き事件の手がかりを得る、というものである。また、対象者の潜在意識は夢の中のように、現実の物理法則が適用されないきわめて非論理的かつ不条理な世界となっている。また、夢の中ではメンタルロックという障壁が存在し、さまざまなオブジェを調べた際に現れる選択肢を正しく選ぶことで解除される。すべてのメンタルロックを解除するとソムニウムパートがクリアとなる。
 このソムニウムパートだが、対象者の内面が大きく表れる世界となっており、一見不条理に見える法則も実は意味があるものとなっている。キャラクターの内面理解につながるほか、ストーリーの伏線としても効果的に作用している。また、選択肢を調べた際の伊達とアイボゥのやり取りも面白く、基本的に不気味なソムニウム世界においての清涼剤として機能している。
 反面、ゲームシステムとしては気になる部分も多い。
 まず、論理的な思考が通用しないため、基本的にはひらめきと選択肢総当たりでクリアしていくことになるが、制限時間が厳しいこと。とくに後半のソムニウムパートは難易度が高く、初見でのクリアはほぼ不可能。何度もやる直してクリアしていくことになるが、基本的には創意工夫の余地が少なく作業感が強い。先に書いた伊達とアイボゥのやり取りも、正直見ている余裕はなく、勿体ないと感じる。
 また、後半は制限時間が厳しいことに加えて、なぜかリトライがポイント制で、途中からのリトライには回数制限があること(最初からやり直すのなら制限はない)。効率を求めるなら最初からやり直した方が良いことも多いが、途中リトライに制限をつける必要はなかったように思う。
 また、ソムニウムパートにはミニマップがあるが、キャラの向きや東西南北の表示がないため、はっきりいって使いづらい(ないよりはマシだが)。とくにあるキャラクターのソムニウムパートは非常に視界が悪く、なおかつ制限時間も厳しいため、難易度の高さに拍車をかけている。
 まとめると、シナリオを面白くするためのギミックとしてはよくできたシステムだが、完成度は高いとは言えず改善の余地があるように思う。この点は次回作に期待したいところ。

 良く出来たゲームだが、名作というには何かが足りない

 最後にまとめ
基本的にはよく出来たAVGである。作中に様々な謎や伏線を展開し、クライマックスに向かってその伏線が一気に消化される様は確かなカタルシスを感じる。また、EDもこの手のAVGとしては珍しい、ハイテンションなハッピーエンドであり、プレイ後感も悪くない。
 システム面においても、粗こそあるが、シナリオを盛り上げるためのシステムとしては良く出来ており、今作の世界観ともマッチしている。
 その一方、名作というにはあと一歩何かが足りない、そういった印象も受ける。優等生的なゲームだが、突き抜けたものがなく、その点において物足りなさを感じたのが正直なところだ。
 とはいえ、今作のプレイ時間はおよそ20~25時間ほど。AVGとしては十分なボリュームだし、AVG好きには十分おすすめできる。すでに続編も発売されてるし、近いうちにそちらもプレイしてみようと思う。


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